23 ぎこちない空気
校門の傍らに立つ桜の木。季節を彩る木の下で、先輩は私をずっと待っていた。
……尤も、それは後から聞いたことだけど。
焦げ付くような真夏の日射し。その白光は幾重にも重なり合う深緑の葉をすり抜けて、淡くちらつく光へと姿を変える。
しかし気まぐれな太陽の恵みは先輩を巧妙に避けていて、厚く生い茂る桜葉が彼を完全に翳らせていた。
「逞先輩!」
私の声に反応した先輩が、柔らかな表情で手を上げる。そして日陰にも関わらず、彼は眩しそうに目を細めた。
「花……」
「先輩……」
そして私は逢瀬の喜びと引き替えに、ほんの少しの違和感を迷うことなく手放した。
「お久しぶりですっ。ずっと……ずっと……会えてなかったから……」
「近くまで来る用事があったから来てみたんだ。でも友だちと一緒なら……」
不覚にも涙ぐみそうになる私と、言い淀む先輩。彼の視線の先をたどれば、数メートル後方に佇む亜未ちゃんとぶつかった。
私たちの視線を真正面から受けた亜未ちゃんは、ポニーテールが凶器になるくらいのスピードで首をふる。
「私のことなんかお気になさらず! 後は若いお2人で! ほらっ、私は自転車通学ですし!」
亜未ちゃんは焦ったように自転車にまたがった。
チリリン
「じゃっ! 私はもう帰るから!」
そう言って亜未ちゃんは出発の汽笛のようにベルを鳴らすと、あっという間に走り去ってしまった。
残された私たち。降り注ぐ蝉の声が私たちを取り囲む。
「「………」」
停滞した雰囲気をかき混ぜるように、私たちはどちらからともなく歩き出した。
「「………」」
重い。
沈黙が重い……。
私たちはなぜか無言で歩き続けていた。
(久しぶりだからかな? なんか……)
お見合いする男女の顔合わせでも、もう少し会話がありそうな気がした。私は懸命に会話の糸口を引っ張り出す。
「あの……先輩、こっちに何の用事があったんですか?」
「ああ。駅前の本屋に行ったんだ」
「あ、私もよく行きます。あそこは何でも揃いますよね。ん? ということは……先輩、駅から来てまた駅に戻ることになっちゃいませんか?」
「そうだな」
「すみません……でもありがとうございます」
「「…………」」
また沈黙。そして先輩が口を開いた。
「ここまで来たら、花に会いたかったから」
「!」
不意打ちの言葉に、私の胸の小鳥が騒がしく羽ばたいた。
火照る頬は暑さのせいではなかったし、早鐘をうつ胸は先輩に迷惑をかけない程度に早歩きしたからではなくて……。
「わ、私もです……」
「え?」
勇気を出していった言葉は恥ずかしさから小声になって、蝉時雨の中に消えてしまった。
「いえ、あの……またお祭りのときに言いますね」
そして別れ際。躊躇うように渡された交換日記。
家に帰って喜んで頁をめくれば、そこには予期せぬ言葉が綴られていた。
明らかに両想いなんですけど、これからジェットコースター的な展開です。
起承転結の「転」になります。じれじれハラハラしてくださいΣ(-∀-;)




