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君がいて 僕がいた  作者: 時帰呼
13/16

ディシィジョン

商売繁盛は結構なことだが、来る客 来る客が どこか異様であることに りょうとギョウメイは気づいていた。




ギョウメイは、場所が場所だけに お店を開けたって お客さんなんて来ないのではないだろうかと思っていたけれど、現実は その考えとは 全くの逆だった。


その夜、開店するやいなや お客が雪崩れ込んできたのだ。


普段の『ジル・ガメーシュ』は ゴローさんが ちびちびとお気に入りのマッカランのマイボトルを飲んでいるくらいで、たまに 普通の店だと勘違いした うっかり者の普通のサラリーマンが迷い混んできたりするだけなのに、 この夜は開店するやいなや 押すな押すなの大繁盛。 『ジル・ガメーシュ』は、ギョウメイが 働くようになってから 初めての満員御礼となっていた。


だがしかし、どうも来るお客さんの様子が普通と違う。


見たこともない どこかの国の民族衣装を着た女性やゴローさんや大熊猫さんなみの体格をした大男、かと思えば まるでファンタジー映画に出てくるホビット族のような背丈の男性まで様々な人間…と言うか、種族に見える。


共通するのは 皆がみな、何やら 異様で物騒な雰囲気を漂わせていること。


その満員のお客さんの間を りょうは 全力で動き回り接客をしている。


ギョウメイは、その様子を グラスや皿の洗い物をしながら その様子を 唖然として見ていた。


「ギョウメイ!手を止めてる暇はないよ!!」


奇子さんの叱咤が飛ぶ。

たしかに、少しでも気を抜くと 見る間に シンクの中が 洗い物でいっぱいになって、お客さんに出す食器が足りなくなってしまう。


あげくのはてには、途中から いつもの調子で ふらりと店へやって来た ゴローさんまで 店の手伝いをさせられる始末。


そんな感じで ようやく大忙しの営業時間か終わる頃には、りょうもギョウメイもゴローさんも へとへとになってしまった。


「お疲れさんだったね」


奇子さんが 皆を労い、ちょっとした賄いとカクテルを作って出してくれた。


「いったいぜんたい、今日は どうしちまったんだ?」


ゴローさんが、ため息混じりに言う。


「それは、こっちが聞きたいくらいだよ」


さすがの奇子さんも、疲労困憊の様子でぼやく。


「 それにしても、今日は みんな頑張ってくれて助かったよ。 ありがとよ。 ゴローのツケも 少し減らしといてやらないといけないね」


「なんだよ、あれだけ働かせて、見返りはそれだけかよ…」


ゴローさんは、大袈裟に 顔を歪めて 不平の意をあらわす。


「それにしても、ゴローさんは別として、あのお客さんたちは どうして あんなところが店の入り口だとわかったんだろう?」


「さあね…、商売繁盛なのは いいことじゃないか」


とにもかくにも なんとか一日が終わったと 四人で お疲れ会をしていると、店の扉が開く音がして、大熊猫さんが入ってきた。


「もう、閉店だよ」


奇子さんが、背中を向けたまま気だるそうに 声をかけたが、大熊猫さんは 気にせずに 店内に入ってきて、いつものように 入り口の段差を椅子がわりにして 座り込んだ。


「どうだい、店の入りは? うちの社長が 知り合い連中に 片っ端から声を掛けたんだ」


大熊猫さんは 得意そうだったが、奇子さんは 渋い顔をしていた。


「あんたんとこの社長に言っておいておくれ。 私は のんびり まったりと仕事をするのが好きなんだ。 余計なことをするんじゃないってね」


まぁ、たしかに 商売繁盛なのは良いことだけれど、今日みたいな喧騒はこりごりだと ギョウメイも思った。

何より、今日のお客さんたちの 不穏な雰囲気が気になっていたからという理由もある。


「まぁ、そんな冷たいことを言うなよ。 今日の奴等が、またこの店の旨い酒を飲めるかどうか、わからないんだから」


「それは、どういう意味ですか?」


りょうが カクテルで ほんのりと頬を染めながら、言った。


「奴等は、オーガスト社長がかき集めた その手の力を持った連中なのさ。 社長は、『異人』と読んでるがね。

奴等は、占い師や 山伏や どこやらの国の修道院や秘境に隠れ住んでるが、 一旦、社長が激を飛ばせば…」


「そんなに人望があったとは知らなかったよ。 私は てっきり 金や手練手管でがんじがらめにして、人を使うのが上手いのかと思ってたんだがね」


その言葉を聞いて、大熊猫さんが あからさまに嫌な顔をする。


「以前、貴女と社長の間に 何があったのかしらないが、社長は 貴女が思っているような人じゃない」


「それは、どうかね? あんたより 私の方が オーガストとは付き合いが長いんだからね」


一旦は、大熊猫さんとは、心が通じかけたような気がしたが、やはり 簡単に 人間同士の関係なんて 変わらないものなのだろうか。


「そんなことより、何か 用があって来たんじゃないのかい?」


奇子さんは、相変わらず のんびりとしたペースでカクテルを傾けている。


「うーむ、それなんだが…」


大熊猫さんらしくなく、言いよどむ。

たった今 険悪な雰囲気になりかけたばかりだから、どうにも言いにくいらしい。


「社長が言うには、まだ 第二陣 第三陣の『異人』を 新宿の地下へ送り込む用意はあるらしいが……、 奇子さん。 貴女の力も借りたいそうなんだ」


「どうせそんなことだろうと思ってたよ」


明らかに気乗りしなさそうな顔をしながらも、奇子さんは 大熊猫さんの革の黒いアイパッチを じっと眺めていた。


「オーガストには、何の借りも無いつもりだが、あんたには ひとつ借りがあったっけね…」


大きなため息をひとつ…。


「……で、その頼みってのは なんなんだい? ひとつくらいなら聞いてやるよ」


奇子さんは、そんなに冷たい人じゃないことを ギョウメイは知っている。 なにしろ どこの馬の骨とも知れない若造と女の子を 帰るところが無くなったからと、何も聞かずに 雇ってくれたくらいだ。


「実は、社長の知り合いを 全員かき集めても、新宿の地下に『ネムルモノ』を抑えるのは難しいらしい…。 だから、奇子さん、貴女にも 直接手伝って欲しいと言うことなんだ」


「で…、オーガストは 何もせずに 事務所で号令をかけるだけって訳かい?」


「いや、そんなことはないと思う。 今度ばかりは、本当に やヴぁいんだ!!

社長だけじゃない、俺も 全力で協力する!!」


どの程度、大熊猫さんが オーガスト社長から 事情を聞いているのかは分からないが、心底 オーガスト社長に心酔しているのは、先日の飲み会でも 散々 言っていたから知っている。 大熊猫さんなら、命をかけてでも 社長の命を守ろうとするだろう。


「仕方ないね…。 で、私は 何をすればいいんだい?」


「大変 言いにくいことなんだが、直接 『ネムルモノ』への対策の陣頭指揮をとって欲しいそうなんだ」


「つまり、なにかい? RPGゲームの酒場の主人に ダンジョンへ魔王を倒すために出掛けてくれってわけかい。 そんなシナリオのゲームは 聞いたことがないけど」


大熊猫さんは、本当に申し訳なさそうに 大きな体を 出来るだけ小さ丸めて平身低頭 奇子さんに頼み込んでいたが、そんなことを速答出来るものじゃない。 なにしろ 少なくとも『ジル・ガメーシュ』の人間は、その『ネムルモノ』が何かということの端緒さえ掴んでいないんだ。


「ねえ、やりましょうよ」


その時、りょうが口を開いた。


「だって、このまま放っておいても、いずれ 私たち全員が 巻き込まれるんでしよ? なら、私たちだって 関係者みたいなものじゃない。 大熊猫さんたちだけには 任せておけないわ」


以前から 見た目と違い 胆の座った女の子だと思ってはいたが、まさか この条件下で 彼女がそんなことを言うとは思わなかった。


「ゴロー、あんたは どう思う?」


黙って話を聞いていたゴローさんは、とうに空になったカクテルの代わりに いつの間にか カウンターの奥から引っ張り出してきたマッカランを飲んでいた。


「そうですね、りょうちゃんの言う通りだと思いますよ。 最近、こいつがひどく疼くんだ…。 きっと 次は もっととんでもないことになる」


ゴローさんは 額の一対の角を 撫でながら言った。


「……と言う訳なんだが、あんたはどうする? ギョウメイ?」


正直、自分が 何か役に立つ事が出来るなんて思えないが、りょうまでが やる気になっているのに、さすがに ここで退くわけにはいかない。


「やります…」


そう答えながらも、きっと後悔することになるのだろうなとは思ったが、その予感は すぐに当たることになるとは思わなかった。


「決まったね。 まぁ、味方は 多い方がいい。 オーガストが呼び寄せた『異人』さんとやらが 全滅する前に、私達も 支度を始めようじゃないか。 まさにRPGゲームの意味通り、私達は 自分の役割を全力で演じるしかなさそうだからね」


なんだか、先程までの 乗り気のなさは どこへとやら、奇子さんは 意外な事に どう見ても うきうきしているようにしか見えない笑顔をしている。


これから どんなことが待っているのか分からないというのに この変わりようは、なんなのだろう?


「そうと決まれば、りょうにも もっと色々と教えなくちゃならないし、『彩虹酒店』の主人にも 取り揃えてもらわなくちゃならないものが山ほどある。

そして、ギョウメイ。 あんたにも 頑張ってもらうからね」


奇子さんの突然の張り切りようを 見ていると 益々 嫌な予感が大きくなる。

ただの若造の自分に なにをさせるつもりなんだろう?


「お前もね!!」


奇子さんが 最後に声をかけたゴローさんが、渋々ながらも 首を縦にふり同意の意を表した。


「そのかわり、ここまでの飲み代のツケは チャラにしてもらいますからね…」


「あぁ、無事に戻ってこれたらね!」


ほら、思った通りだ。

この仕事は とんでもなく危険なものらしい。 けれど、今さら 後には退けないし、逃げようったって その『ネムルモノ』ってのが逃がしてくれないらしい。


『ネムルモノ』か…。

どうせなら、ずっと眠りっぱなしでいてくれたなら良いのにと ギョウメイは思わずにはいられなかった。



To be cotinued……


単なるBARのバイトのつもりが、いつの間にやら 思わぬ方向へと、りょうとギョウメイ 二人の運命は転がりだしていた。

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