表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君がいて 僕がいた  作者: 時帰呼
PR
11/16

モスコミュール

偶然と必然…。


誰が どこで 誰と出会うかなんて分からない。


それを知るものは…



「…で、なんで そいつが此処にいるの?」


りょうが 客席のテーブルを盾にしたまま、油断なく身構えているのも無理はない。


半地下に店舗のある『ジル・ガメーシュ』の入り口を入ってすぐの所に、酔っぱらった客などが そこで よく転んでしまう三段ほどの段差がある。


今 その段差に、二日前に ひと悶着やったばかりの『 阿撒托斯商会 』社長室長の大熊猫さんが のっしと腰を下ろし、猛獣のごとき眼で りょうを睨み付けているのだから。


一方、りょうの方は 目の前のテーブルの上に 前日に完成させたばかりの 奇子さん直伝の式神…ではなく、使い魔の折り紙細工の犬10匹を整然と並べ 迎撃態勢を敷いている。


ギョウメイの目から見ても、少しばかり形が歪な、しかも にわか作りの折り紙細工の犬たちが それほど役にたつとは思えないが、りょうは いたって真剣そのものだ。



「仕方ないだろ、オーガストさんの好意からの応援なんだから」


ギョウメイは そう言ってみたが、二人の真ん中に立ち、先程から 両手を広げ 両軍を牽制しているものだから、まるでサーカスの猛獣使いのように 生きた心地がしない。


そう言えば、つい二日前にも 同じ境遇に身を置いたなと ギョウメイは 思い出し、つくづく自分の運のなさに うんざりしていた。


「私だって、好きこのんで こんな所にいるわけじゃない」


大熊猫が 睨みを効かせたまま 恨み言を吐いた。


「こんな所とは、とんだ言い草だね。 これでも、居心地のいい酒場だって言ってくれる常連さんも 山ほどいるんだよ 」


奇子さんが カウンターの向こうで、あいも変わらず 手ずから作ったカクテルを ちびちびと傾けながら のんびりと反論した。


「常連客というのは、そこの床の上に座っている 行儀の悪い牛野郎のことかね?」


大熊猫さんの その一言に、りょうの隣に控えつつ睨みを効かせていたゴローさんが、それこそ猛牛のように鼻息荒く言い返した。


「俺も 長年生きてきたが、豚の海賊ってのは 初めて見たぜ!!」


「あ? 誰が 豚だって!!!?」


大熊猫さんは 今にも立ち上がって『ジル・ガメーシュ』の店の天井を突き破りそうな勢いだし、日頃 温厚なゴローさんは スペインの闘牛場に曳き出されてきた猛牛のようだ。


おまけに りょうの目の前に並べられた折り紙細工たちは、さっきから 小刻みに身を奮わせながら頭を低くして 飛び掛かりそうな構えを見せている。


(あ、ほんとに 黒魔術ってあるんだ)


ギョウメイは、あまりのことに頭が混乱し 現実逃避しそうになっていた。



「問題点を 整理しようじゃないか」


さすが年長者、奇子さんが 一触即発の状況に(嫌々ながら)割って入った。


もっとも 最大の理由は この場で この三者に喧嘩を始められたなら、店が崩壊するのは 火を見るより明らかだったからだろうが。


「あんたんとこの社長は、何を企んでるのか知らないが 新宿界隈の 平和と安定ってやつをなんとかしたいと思ってる」


ギョウメイは、奇子さんが 一言余計なことを言った気がしたが、大熊猫さんは 黙って聞いている。


「…で、私らは このまま知らんぷりして、今まで通りに商売していると、何か 訳のわからない奴のせいで 近いうちに 新宿駅の構内に店を 強制的に移転させられるってわけだ」


奇子さんの言っている通りのことだけで済むのなら、どちらかと言うと よい話にも聞こえて来てしまうが、そんな甘い話ではないだろう。


「ただし、問題があるとしたら…」


(そら来たッ!!)


「新宿駅構内の営業許可が取れるかって事と、たぶん賃貸料が べらぼうに高いだろうって事だろうね…」


(いやいや、そんな問題じゃないでしょうッ!!)


ギョウメイは、心の中で 漫才のツッコミ役になっている自分に気づいた。


(そんなアホな…)


「まぁ、冗談は さて置いて…」


ギョウメイが、もうツッコミを入れるのに疲れきって来た頃に ようやく奇子さんが本題に入ってくれたようだ。


「新宿駅の底に 何が居るのか、あんたんとこの社長は 知ってるんじゃないのかい?」


その問いに、大熊猫さんは 浮かしかけていた腰を どっかと下ろして 急に真剣な顔になって言った。


「たぶん 社長は 知ってると思う。

だが、社長は 何も言わん。

けれど、知ってるからかこそ、これから何が起こるのか予想がつくのだと思う」


「なにそれ? 貴方は オーガスト社長の片腕じゃないの?」


たまらず、りょうが 食ってかかる。

最近では、この訳のわからない状況を楽しんでいる節もあった彼女だったが、彼女なりに 納得した上で この店で働いてきたはずだ。


それなのに、この一人前の大人である大熊猫さんが、訳もわからず 命懸けになるかもしれぬというのに 雇い主に盲従しているさまが 我慢できなかったのだろう。


「貴方は それでいいの? 納得しているの!?」


りょうは、重ねて 問いをぶつける。


「社長には、恩があるんだ……」


大熊猫さんは、先程までの威勢はどこへやら、右手の掌で いまだに痛む右目を 撫でるようにして顔を覆い うなだれた。


「恩って…?」


「他人に話すような事じゃない。 だが、私には 大きな事なんだ」


大熊猫さんの あまりの変わりように、りょうも それ以上は 聞けなかった。


「でも、僕たち『ジル・ガメーシュ』の人間を 大熊猫さんのところの社長は、この件に引っ張り込もうとしているんでしょう? 僕は 訳もわからず、危険なことに首を突っ込みたくないよ」


ギョウメイは、臆病者と思われても仕方がないと思った。


けれど、りょうが言うように 納得出来なければ、協力は出来ないと思ったのも正直な気持ちだ。


「ギョウメイ…。 お前さんは 自分が ただの住み込みバイトで この件の部外者だと思ってるんだろ?」


奇子さんは話しながら、五つの大きめの銅製タンブラーに ウォッカとライム・ジュース、それに適量のジンジャー・ビアを加え 軽くステアすると、ライム・スライスを一枚ずつ手早く飾り付けた。




「違うんですか!?」


意味を掴みかねたギョウメイが問う。


「お前さんと りょうが この店の前で あの日 ぶつかったのも、この店で働くようになったのも偶然じゃないんだよ」


「ギョウメイ、そして りょう。

お前さんたち 二人ともが、あの嫌みったらしいオーガスト社長が言っていた『霊的感受力』を持っている人間だったからこそ、あの日 あの時に この店へ引き寄せられたんだ」


ギョウメイも りょうも 呆然として言葉が出ない。


「つまり、どういうことですか?」


代わりに ゴローさんが そう尋ねると、奇子さんは 柄にもなく 本当に申し訳なさそうに答えた。


「つまり、このまま 知らんぷりを決め込んでいても、この店『ジル・ガメーシュ』や『彩虹酒店』や『阿撒托斯商会』、あるいは 少なくとも関東一円の神社仏閣や その他諸々の心霊スポット。

そして、自分では気づかなくても『霊的感受力』を持っている人間が全部、新宿駅の底に引きずり込まれちまうってことさ…」


奇子さんは 出来上がった五つのカクテルを トレイに載せ、りょうの座るテーブル席まで やって来ると、音をさせずに 皆の前に そっと置いた。


「本当に すまないと思っているよ…」



無言だった りょうが ようやく口を開き、カクテルの名を 奇子さんに尋ねた。


「『モスコミュール』 ……、

このカクテルの意味は『 けんかをしたら その日のうちに仲直りする 』…さ。

まぁ、元々の喧嘩は 一昨日のことだけどね」



ギョウメイは、そのタンブラーの表面に結露した水滴が流れ落ちるのを見ていた。


(運命には 重力のように逆らえないということか…)


始めにグラスへ手を伸ばしたのは りょうだった。


「いいカクテル言葉ね…」


唐突な その発言に 大熊猫が クククと笑いを洩らし、その大きな手でタンブラーを握った。


そして、同じく苦笑いしたゴローさんが続き、奇子さんも テーブルからタンブラーを取り上げた。


「さぁ、みんなで乾杯よ♪」


りょうが 笑顔で そう言うと、テーブルの上で 折り紙細工の10匹の犬たちが ピョンピョンと跳ね、五芒星の形に綺麗に整列した。


それを見て ギョウメイも 頬が緩み、なんだか気が楽になった気がして、タンブラーを手にした。


まぁ、それも たぶん 変なアドレナリンが 脳内に分泌された結果なのだろうが。



「あ、モスコミュールは チョイと強いから加減しなよ」


奇子さんが 警告をしたが、りょうは にっこりと笑うと言った。


「私だって、多少は強くなったんだから♪」


皆の顔に ほんの束の間かもしれないが、明るい光が灯った。


「では、あらためて…」


「乾杯♪」

「プロージット!!」「干杯!!」

「 Pane tostato!」


やはり 寄せ集めなのか。

乾杯の音頭でさえ、さっぱりまとまらなかったのだった。



To be cotinued……








追伸…

りょうは、案の定 二日酔いになった。




トラブルに次ぐトラブル。


一番のトラブルは、りょうにとっては 二日酔いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ