7.炎竜退治をしないか?
遅くなりました!
第7話です!
異世界に来て初めて炎龍の牙というモンスターのアイテムを手に入れたオレは、囮にされた事は忘れ、上機嫌にガドルと色々な事を話していた。
そして、話すのにも疲れ、そろそろ眠くなってきた頃。
「あれが中央区か!」
ガドルの、「着いたぞ」という言葉に視線を上げ、オレはつい立ち上がってしまった。
まだ少し遠い。
だが、
目の前にも真っ直ぐ続く道の果て、そこには明らかに人工の灯りが満ちた都市があった。
今オレ達がいるのは相変わらず大通りだ。だが先程から人気どころか生活感すら無くなってきた。
なぜかって?
何故なら、ココが町の外だからだ。
別にこの道が王都の外と言う訳じゃない。ガドルが言うには王都アンシアは王城のある中央区、シェトと出会った無法地帯の西区、そして他にも独立して存在する幾つかの区が平原をとおる大通りで連結されて構成されているらしい。
つまり、今荷車が進んでいるのは石造りの立派な街道だ。だが周囲の景色は一変、大自然溢れる草原に変わっている。
草丈は腰くらいまで有るのじゃないだろうか……、どこまでも草原が続き、遥か向こう、月明かりの薄闇の中には黒々と山のシルエットが浮かんでいる。その影の上、宙一杯には色とりどりの星が煌めいている……。
まるでオーケストラのような虫の音に包まれ、オレは暫くの間天を見上げていた。
脳内メーカーのように、誰かがオレの心状をもし見ることが出来たらこうなっていたはずだ。
『ホントに綺麗な景色だ、俳句でも作りたい気分だぜ 一割 』
『ホントに異世界なんだな 三割 』
そして……
『ホントにもう受験勉強しなくて良いんだな 六割 』
日本に帰らなくても別にいっか、と割り切ったのはこの時かもしれない。主に現実逃避要素多めで……。
「で、小僧。お前は中央区で何をするつもりなんだ?」
ガドルは不思議そうに首を傾げた。オレにとっては今さら何聞いてんだオッサンといった感じだ。
「何ってそりゃ! 異世界に召喚されたからには勇者として生きるに決まってんだろ? それ以外に何があんだよ? 魔法使いになって魔法使うんだよ! 魔王とか倒して最強の勇者として名を轟かせるのさ!」
「へぇ、魔王ときたか。大層なこった……」
ガドルは何故か不貞腐れたように草原の向こうを向いてしまった。
少し予想外だ。
話を聞いたところ、この屈強な御者は日本のゲームでいう冒険者のような存在のようだ。侵入してきた魔物を狩ることで街を守り、日銭を得る仕事だ。非正規雇用だし、命がけの仕事なのに一日で稼げるお金は微々たるものらしい。
勇者のイメージと少し似てる所もあるよな、と思っていたのだが……。
あ! もしかしたら、ガドルは日雇い労働者の様な今の自分に幻滅していて、オレのような才能溢れる若者に嫉妬しているのかもしれない……そのせいで、ちょっと羨ましくなって不貞腐れた、とかってあるか?
……うん。この大雑把そうなオッサンに限って百パーセントそんな事は無いだろうな。
それに、炎龍とかっていう巨大化けミミズを退治できるくらいなんだ……。体液も牙も大人気だというし、それなりのお金は稼いでいそうだ。
「ところで、囮になってくれって話だったけど、何かオレじゃなきゃいけない理由ってあるのか?」
オレは、そういえば、と保留になっていた話を思い出した
ガドルは御者席で向こうを向いたまま答えた。
「……この王都で、炎龍なんて厄介な代物を討伐しようってバカは俺しかいない。囮になろうなんて奴は猶更だ。普通の討伐隊なら全滅して終わりだからな。それに何より、新米の召喚勇者は魔物をおびき寄せる臭いの様なモンを出してるって話だ。奴をおびき寄せるのには調子がいい」
ああ、なるほど。れっきとした理由があって何よりだ。
最も、オレが引き受ける理由はどこにも無いが……。
短い静寂が流れ、虫の音がいっそううるさくなった。
不思議な動物に曳かれ、荷車はガタゴトと灯りを目指してゆっくりと進んで行く……。
オレが何も答えないとガドルはこちらを向いた。
オレがここ数時間でまだ見たことの無い真剣な表情を浮かべている。そして、そのまま饒舌に語り出した。
「小僧、お前も見ただろう。あの、誰もいなくなってしまった街並みを……西地区から中央区までの大通り一帯は鋼炎龍のせいで数週間前から封鎖されちまった。そのせいで西の住宅街の三分の一が避難を余儀なくされている。あのまま放置すれば草原地帯から魔物が流れ込み、本当の廃墟になる。それなのに、国王は鋼炎龍の大規模討伐を禁止した。なぜだか分かるか?」
「わかんねぇ。オレ、今日来たばっかなんだけどな?」
うん。間違っていない。今日の朝はシェトに出会って振り回され、時計が無いから正確には言えないが、午後からはこの濃いいオッサンと一緒だった。思えば、オレは今朝異世界に召喚されたばかりなのだ。
当然、いきなり熱く語られても異世界の事情なんて分からない。
「そうだったな……。討伐を禁止された魔物、その理由は、国の利益に繋がると大臣達が判断したからだ。知ってるだろうが、幼体である炎龍からは有用な素材が採れる。そしてそれは他国との貿易の為の高額な商品になる。つまり国王は……あの方は民を犠牲にしてこの国の財政を立て直すつもりだ。大規模な討伐が許可されるのはまだ先のことだろう」
ガドルの眉間には深い縦ジワが刻まれ、その目は中央区に向けられている。そして、その風貌には厳しさと静かな、だがハッキリと感じられる怒りが宿っていた。
「このままでは反乱が起きる! 頼む!! どうか囮を引き受けて欲しい! 俺だったら鋼炎龍を討伐できる。だが、炎龍に顔を覚えられていて俺では奴をおびき寄せられない。お前の力が必要だ! 数日で良い! 頼む、この通りだ!!」
「おいっ! ちょっ待てよっ!?」
ガドルは迷う事なく道端に膝を着き、そして、何と土下座をした。荷車を曳く動物達は落ち着かなさげにオレとガドルを見比べている……
そして、ガドルは慌てるオレを下から見据え、言った。
「お前は英雄としての生き方を選ぶと言った。なら、手始めに俺に協力しないか!? 立っているだけでいい。俺は、お前を絶対に危険に曝さないと誓う。魔物から国を守るのが俺の仕事だ。だが、国ってのは人だ。王が民を捨てて利益を取るならば、俺が、護国騎士である俺が動かずにいて何とする! もう一度、頼む! どうか協力してほしい!!」
ガドルは再び頭を深々と下げた。
「……。」
オレは呆然と、小山のような漢の背中を見つめ……聞こえない程度に溜め息を吐いた。
話題が尽きたからってわざわざ、保留になった話なんて自分から切り出さなきゃよかったなぁ……。
なんだか、いや。すっごく断りにくい状況になってしまった。というか、これはもう受けるしか道は残されてはいないよな……。
「……やるよ。囮役。そこまでされたら流石に断る理由がねぇよ……」
オレがそう言った瞬間、ガバリっと、ガドルが上半身を起こした。
……子供のように、嬉しそうな満面の笑みを浮かべている。
オレはその笑顔を見て思った。
――引き受けて正解だったかもな、と。
それどころか、高校生相手に土下座までする程の事情ならもっと早く引き受けてあげるべきだったかもしれない……。それほど迄に今のガドルの言葉、態度、そして表情一つ一つに絶対的な説得力があった。
それに、オレはこの男の事を好きになりつつあった。
あ、一応言っておくとホモ的な何か如何わしい意味では無い。
豪快で、大雑把で、子供っぽい笑顔がよく似合い、それでいて高校生に土下座してまで自分の正しさを貫く、そんな豪快さが好きになったということだ。
今回はどうやらオレは迷惑をかけられる事になったようだが、この異世界で、もし成るならばこんな大人になってみたいとオレは思った。
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