43.束の間の邂逅と深まる謎
こんばんは、皆さん! お仕事、勉強お疲れさんです。
さて、お待たせしました。新キャラ登場の42話! ではでは、どうぞ!
「な!? あ、あんたはっ!?」
オレの脳内で、瞬時に目の前の彼女が魔法使いだと理解した。あの爺さんの相方で、馬車に籠ったまま一度も姿を見せなかったもう一人の魔法使い。確か『お嬢様』と呼ばれていた。
「大体、お前程度を殺すのに、そんな回りくどい事はしない」
口元しか見えない程目深にフードを被り、全身を膝まである茶色いポンチョのような物で覆った人間。声の高さと、足元にのぞく足の細さからオレは若い女性であると結論付けた。
ただし、彼女の声には敵意も殺意も無く無機質だった。
そうしてただ無造作に投げて寄越される言葉に、しかし、オレはゴクリと唾を呑み込んだ。
「あんた、魔法使いだな? ……あの爺さんは……今どこに潜んでるんだ。オレを狙ってるんだろ?」
オレは辺りを見渡しながら尋ねた。
姿が見えないという不安もあって、つい無意識に敵意が剥き出しになってしまった。こういう時は平静を保つのが一番良いというのに……。
「なぜ私達がお前を狙う必要がある? それも、この世界に来たばかり者を」
彼女は無表情な声のままそう言った。その言葉にオレは束の間安心したのだが……。
「――逆に、お前には何か狙われるべき理由でも有るのか?」
続いたその言葉に、オレは自分の失策を悔いた。だが、オレは必死に素知らぬ顔を装った。
「い、いや、魔法使い達が突然来たのには裏がある、っていう噂を聞いたから。そ、それでさ……オレって異世界人だし? この世界の奴らとは違ってスペシャルだし!? やっぱ、何かヤバいかなって?」
我ながらナイスな言い訳!
サラマンダーから言われたという事は言ってはいけない気がしたので嘘を吐く事にしたが……咄嗟についたには完璧な嘘だった。これだったらオレは自分をスペシャルに思ってるイタい奴にしかならない!
「……そうか、ならば、被害妄想も誇大妄想も程々にする事だな。……私が来たのはここが気に入ったからだ。私の姿に一々目を留める奴らもいないし……何より良い風が吹く」
『お前なぞに用など無い』と言い放ち、彼女は空を見上げた。
その拍子に、緩く被さるだけだったぶかぶかのフードが外れた
オレは息を呑んだ。醜い、という事ではない。その逆と言ってもいい……つまり美人なのだ……魔的な魅力を艶めかせる少し年上の若い女性。だが、彼女はそれだけでは無かった。
「人間じゃないのか、あんた? ……もしかして、魔物!?」
彼女の異形の姿に、オレは無意識で距離をとってしまった。
オレの反応に気付いた彼女は口の端を吊り上げ、不貞腐れたような笑みを浮かべた。
「それが正常な反応……だが生憎、私は人間族。これは、こういう『血筋』だ」
そう言って、彼女は『角』を優しく撫でた。
アジア人のような浅黒い肌の整った顔立ち、右目が鳶色、左目が金色に近い黄色のオッドアイは、無造作に伸ばした黒髪に半ば隠れている。
オッドアイを見るのは初めてで、中々に神秘的な感じがした。
だが何よりも、彼女の頭の側面から突き出ている二本の角……細く脆そうな印象でありながらも、雄山羊の角のように巻いた黒い角こそが最も特徴的で、異質な何かを感じさせる。
「(かっけぇ! なんて中二病を擽る恰好なんだ)」
まるでゲームのラスボスの魔王のようだ。茶色のポンチョではなくて、引きずる程長い漆黒のマントとかだったら完璧だったのに、とオレはバカげた事考えた。
『魔法使いに出会ってしまった』という緊張感と恐怖はもう去っている。彼女が魔物で無い上に、オレを殺す気が無いなら警戒する理由がない。
オレはつい彼女の横顔、特に角に見惚れてしまった。
――でも、ホントに魔王とかじゃないよな……?
「おい。いつまで見ている?」
フードが外れた事を気にせずに空を見上げていた彼女だったが、オレの視線に耐えられなくなったのか、金色の左目がオレをジロリと見た。
「あ! いや、良い角だな、って思って! ホントさ! ゲームの魔王みたいだ!」
オレの意図せずして放った言葉に彼女は先程までの、どこか冷めた表情を崩した。
「魔王……。あの方は比肩する者が無いほどに強大で偉大で優しく、万人を愛し…………そして、何よりも恐ろしい方だ……」
彼女の瞳には激しい感情の炎が渦巻いているようだったが、それが怒りなのか憎しみなのか、はたまた強い愛情なのか……オレには判断出来なかった。だが、彼女は魔王で無いらしい。
「魔王って、テトラトの? そこまで言うなんて、よっぽど凄い奴なんだな……」
オレの適当なセリフに彼女は柳眉を吊り上げたが、それ以上は特に感情を見せる事なく、気だるそうに再びフードを被った。
「ケビンは王と対談中でここにはいないが……お前とは接触するな、と奴から言われている。そろそろ行く」
「あ、ちょっと待ってくれよ!」
彼女は再びずれてきていたフードを今一度深く被り直し、オレから踵を返して歩き出そうとした。
どうやら中央区まで戻るようだった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 聞きたいことがあるんだ」
「……」
意外にも彼女は足を止め、こちらを振り返った。フードから覗く口元は何の表情も浮かべてはいない。
オレが彼女を引き留めたのは彼女からは不思議と胡散臭さを感じないからだ。
完全な勘だったが、彼女なら魔法使いが何か企んでいるのかどうか、教えてくれるんじゃないかとオレは期待した。
「さっきも言ったけど、魔法使いが何かを企んでるって、噂を聞いたんだが……何か知ってたりしない……ですか?」
「それを私に聞くのか? お前の頭の中、本当にどうなっているの?」
目論見は見事外れた。
彼女は、呆れた、といった感じに口の端を吊り上げて嗤う。
もっともである。オレは何に期待していたんだろう……。好意的とは言えない彼女の態度からしても、答えてもらえるハズの無い事は分かっていたのに。
『さよなら』と一言残し、彼女は再び歩き出す。
しかし数歩歩いたところで、何かを思い出したように立ち止まった。
「ああ、だが、一つ忠告しておく、ムカイケント。魔法使いに気を付けろ、くれぐれも、な」
「それって! ちょっと待てって!!」
謎のセリフを唐突に放って寄越した当人は気にする事無く歩を進めた。
穴の縁を渡って来た強い風が彼女の服をはためかせ、フードを吹き上げる。
「え? あれ??」
一瞬、フードが外れたと思ったら……その瞬間に彼女の後ろ姿が崩れ、茶色のポンチョだけが青空に空高く舞い上がった。そのまま中央区の方に向かって飛んで行く。
だが、オレは風の中に彼女の声を聞いた気がした。
『魔法使いに気を付けろ。向井ケント。』
また、サラマンダーと同じセリフ……。
「お、おい! それってどういう事だよ!?」
空に向かって叫んでも、誰も応える事は無い。彼女はもう行ってしまったようだ。
オレは知らず知らずに緊張していたらしい、周囲の音と活気が戻って来るのを感じた。
「名前、聞き忘れちまったな……」
オレは何処までも澄みきった青空を見上げた。
謎ばかりが増えて行く。どうやら魔法使い達に暗殺される危険は無さそうだが、魔法使い達が何かを企んでいるのは確からしい……これからどういう風にオレに関わって来るのだろうか……?
「ま、別に構いやしないさ。この世界がどう変わろうとオレは生きていける」
なにせ一人だし、独りだし。
……寂しいけど、家族がいない今、他の人間を気に掛けなくて良いのだ。別にこの世界はオレの生まれた世界じゃないし。
「まぁ、ナーシャとアルトが危険に晒されたら分からないけど、それ以外は別に構いやしないな……。それに、うん。あの馬鹿は危機に陥るくらいで丁度いい」
それよりも、だ。
オレは遥々西区まで体力作りと小遣い稼ぎに来たのだ。
早々に始めるのが良いだろう。
「んじゃ、始めるか! トレジャーハント!!」
オレは、謎の女性が残した謎を振り払うように気合を入れ、西区の奥へと足を踏み出した。
今回初登場キャラ、魔王さん(仮称)。彼女の目が虹色では無いのは皆さんならお気づきかと思いますが……どうですかね? 気付きました? 描写のミスじゃないんですよ?
さて、今回で異世界生活は11日目。
季節は夏! 天国より生還したケントは炎天の下、採取クエスト(トレジャーハント)に挑む!!
果たして彼は無事にセントラルに帰ることは出来るのか!?
その行方はまた次回! 五月二十六日(金曜)の午後十時に投稿予定です!




