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41.魔剣制作とは如何に

自分、長く書くのが苦手で、『初めて書く小説だし……』と甘く考えてました。

話数稼ぎに書いてしまった前半、それが祟ってなんと41話目です。


ガドルからは解放された主人公! しかし平凡な日常を過ごせると思ったら大間違いです!

波乱万丈な異世界生活、その幕はまだ開いたばかりなのです!!

サラマンダーとの激戦から一週間経った。異世界に来てから早くも十日経った事になる。

……魔剣の制作に取り掛かったのは三日前の事だ。


『魔剣とは即ち、この世界に存在する『現象』を文字と成して『記し』、再現する事に極意がある』


と三日前、アルトはオレにそう言った。

アルトの地下研究室、炉から漏れる炎がゆらゆらとオレ達を照らしている。まるで魔術師の住処のような怪しい雰囲気の中、アルトの中二病なその言葉にオレの心は高鳴った。


『異世界から転移してきたギルム・ルガートは非常に博識で学者気質……隠遁の賢者とも言って良い程に研究熱心な男だったという。『事象を観測して記録する』という魔法を使う事が出来た彼は何百種類もの『表意印』……その形自体が現象を導く回路として作動する文字を作り、自らが観察した事象を金属に焼き付ける技法を確立した……。それが魔剣の製作技術だ』


紫色に燐光を放つ短剣を愛おしそうに見つめながらアルトは続けた。その刀身にはアルトには見えず、オレには見える紋様が刻まれている。

なるほど、とオレは頷き納得した振りをした。アルトの話が長くなることは知っているので下手に質問を挟んで更に長くなるのは避けたかった。

しかし、オレの予想に反して、今回はそれほど長くはならなかった。テンションが上がってきたアルトが暴走したのだ。


『魔王によって文字の使用が封印された今、『形』こそが重要である『印』はこの世界の人間には見えず、異世界から来た者、その極めて一部の人間だけが見ることが出来る……魔眼を持った人間ならばギルムが創成した魔剣技術の再現が可能なのだ! だが、何事にも基礎は大切だ! という事で急ぐ必要があるぞ! さあ、実践だ! ケント君、金槌を握り、炉に向かいたまえ!!』


『ちょ! またキャラ変わってるっすよ!? てかオレ、まだ金槌とか使った事が無っ――!』


戸惑うオレをアルトは強引に引きづり……その数分後、その日はお開きになった。何があったかは聞かないで欲しい……。思い出すと右膝の大アザがズキズキ痛むのだ……。


まぁ、それでも順調な滑り出しと言えるだろう……。


「なにせ、今やオレは王都で知らない人はいないほどの有名人さ! 異世界生活一週間目で早くも可愛い女子に出会い、住むところも決まり、衣食住には不便しない……しかもナーシャとは一つ屋根の下、上手くやれている! これ以上望むことがあるだろうか? いや、無い!!」


ナーシャが心の中でオレをどう思っているのかは知らないが……そこそこの距離を置いた上で、家族として健全な生活を送っている。

彼女の笑顔にはドキリとしてしまうが、何故だろうか……あまり恋愛対象として見る事は少なくなったように感じる。敢えて言うなら、しっかり者の妹が出来た感じか? 円満な共同生活を送る為にオレは適応してしまったらしい……なんだか男としては間違っている気がするが……いや、これ以上は止めておこう。


とにかく、オレが言いたいのは『魔剣』関係以外においてはオレの生活は順風満帆という事なのだ!


連日のように討伐者バスターの荒くれ者から高級そうな色鮮やかな衣服を纏った貴族のお偉方に至るまで、魔剣の制作を依頼しに来た。槌すら握った事のないオレはほとんど全ての依頼は断ってしまったが、強引に『前金』をオレに受け取らせて帰って行く貴族たちも何人かいた。

暫くは資金と仕事には困りそうも無い。


「(……ほんと、改めて考えると恐ろしいくらい順調だ! オレも出世したもんだな! 正に『我が世の春』、って言葉がピッタリさ!)」


……思えば、始まりはあの夜。殺人鬼じみた謎の女に追いかけられ追い詰められ、恐怖と混乱の中で異世界に飛ばされたのがきっかけだった。

最初に出会ったのがシェトで本当に良かった。彼女に拾われたお陰でオレはこうして生きている。

確かに、最初に組合ユニオンに行った時は魔法使いになれないと分かって落ち込んだり、二度目は討伐者バスター達の悪臭に逃げ出したりもした。

勿論、あのガドルのバカ野郎に出会った事も災難の一つだ……散々な事は色々あったけど今こうして生きているのが本当に嬉しいというか……それだけで幸せを感じるというか……。


『ケントくん、ケントくん! しっかりして!! 起きてってば!!』


……あれ? 何だか遠くからオレを呼ぶ声が聞こえるな……? これはナーシャの声? というか今オレは何をしてるんだ? というかここはどこだ? やたら体が軽いし、辺り一面花畑で凄くいい見晴らし……。ああ、なんて幸せなんだ……! 不安はなんにもない!


「ケント!! お願い! しっかりしてよっ!!」


「ごふぁ!? ……げほっ! ごほっ!!」


顔面を急襲した濁流によって、ぬるま湯のような平和なもやに包まれていたオレの意識が急覚醒した。


「はぁ……はぁ……オレは今、いったい!?……あれ、ナーシャ? どうした?」


床の上に寝かされたオレはびしょ濡れになった服を呆然と見下ろした。傍には水の入った壺を抱えたナーシャ。心配と怒りがない交ぜになった顔をしている。可愛い。

でも、何故そんな顔をしているのか理由が分からない。


「……ワタシが帰ってきたら地下室から熱が漏れて来てて、中でケントが倒れてたの。ホントに驚いちゃった。熱中症には気を付けてね! ってあれだけ言ったじゃない! 炉の傍で作業するときは水を定期的に飲まなきゃだめだよ!って!!」


オレは思い出した。オレはアルトが植物採集に行ってる間も鍛鉄たんてつの練習がしたくて地下室で作業をしていたのだ。


「そっか、熱中症……オレ、また倒れたのか。ごめん。間一髪でまた助かったよ」


オレは台所の隅に水の壺を片付けるナーシャに頭を下げた。


「……ナーシャが帰って来なかったらマジでどうなってたことか……」


ナーシャは昼間の討伐者組合ユニオンで働いている。いつも帰って来るのはもっと遅い時間だが、今日は早く上がって来たらしい。そのおかげで助かった。


「ホントですよ。こう何度も倒れてるようじゃ、心配で仕事に集中できないです! ワタシが……!」


彼女は拗ねたように、ぷくッと頬を膨らました。


「でも! どうです? 今日はなにか進展とかはありましたか?」


しかし、そんな顔をすぐに引っ込め、ナーシャは彼女らしく期待に目を輝かせた。


「いいや。何も。なんともさ……金槌には慣れてきたんだけど、火の扱いが全然なんだよ。今日も熱すぎて倒れちまったしさ……」


倒れるのは三日前に修行を始めてから三度目。今日は水を飲んでいたはずなのに、部屋が暑すぎて、いつの間にか意識が無くなっていた。


「そう、ですか……。でも、焦らず、しっかり準備してから安全に作業してくださいね? 毎日帰ってくる度に倒れられているようじゃ……心配です……」


「あ、ああ。ごめん……今度こそ上手くやるよ……」


ナーシャは真剣な顔で頷き、それ以上は何も言わずに夕飯の支度に取り掛かった。

オレは煤に汚れた掌をなんとなく見つめる。


「(早く……ちゃんと仕事が出来るようにならなきゃいけないんだ……! ただ居候するだけでナーシャやアルトさんに迷惑をかける訳にいかない……)」


ナーシャには『金槌には慣れてきた』と言ったが、実際は全然ダメダメだ。

この世界に来るまで、まさか自分がこんなに不器用で貧弱だとは思わなかった。

テレビや動画で見た刀鍛冶はいとも簡単に炎を操り、鉄を叩き延ばしていた。


「(まさか……振り下ろしたハンマーで自分の膝を殴るなんて……笑えねぇ……)」


一昨日あった、信じがたい事故。

アルトの立ち合いの元でオレは初めて金槌を握り、アルトが金床の上で構えた赤熱した鉄に向かって振り降ろした……のだが、槌は金床の横を素通りし、そのままオレの膝にぶつかった。

時々ズキズキと痛む。


昨日は昨日で炉の熱にあてられ、突然意識を失って倒れた挙句、アルトとナーシャを滅茶苦茶心配させた。


そして、今日もやってしまった。三百グラムも無いような小さな金槌を真っ直ぐ振り下ろすのにすら四苦八苦し、ろくに鉄に命中させられない事に頭に血が上り……その瞬間クラっと眩暈がしたかと思うと意識が無くなっていた。

連日の疲れが抜け切らないのに、焦って急いだ為の失敗だ。

炎どころか、そもそもの体調管理すらままならない自分の無力さを実感している。これまで日本では全て家族や他の誰かに任せていた。

このままではいけない。変わらなくてはいけない……。

今だって単にナーシャとアルトの好意によって居候させて貰っているだけだし、やっぱり気を遣わせているのも分かるし……。


「(特にナーシャとか、敬語でしか接してくれないし、なんか距離があるんだよな……)」


そりゃ、ナーシャみたいに能天気で明るい性格でも、自分の家にいきなり男子が上がり込んでいれば距離は取りたいに決まってる。オレに対して悪感情は持たれていないが……一緒に住むのはまた別の話だろう。

衣食住を依存してばかりでは無く、なんとか自立しないといけない……なんてこの頃は考えている。ここは日本では無いのだ……家族もいない……。


「なぁ、ナーシャ?」


「うん? もうすぐ夕飯は出来るけど……?」


振り返ったナーシャは笑顔を浮かべている。

台所には良い臭いの湯気が立ち込め、夕方の最後の光が筋になって差しこんで揺れている様子と相まってまるで絵のようだ。


「あのさ、西区の工事、まだ残っているクエストってあるかな?」


「『クエスト』……って依頼って事ですよね? それなら、ユニオンの正式な依頼ではないけど、あると思うわ。 ユニオン(うち)の大工ギルドが魔物被害後の土木工事なんかも紹介してるからそこ経由で雇ってもらえる。建築じゃなくて資材を運ぶだけだけど……体力はつくと思いますよ?」


ナーシャはオレの心を読んだように最後にそう付け加えた。


「ちょっと遠回りだけど、魔剣制作、というか剣を打つのに体力をつけるのは必須だとオレは思うんだ。西区の工事とサラマンダーの素材集め、オレもやってみようと思うんだけど、どうかな?」


「お父さんは反対しないと思うよ。じゃあ、明日、ユニオンで受付するから一緒に行こっか?」


その時、ガチャリとドアの開く音がした。研究の為に薬草の採集に行っていたアルトが帰って来たのだ。


「あっ! お帰りお父さん! ……じゃあ、丁度帰って来たし聞いてみればいいんじゃないかな? 個人的には……いったん魔剣の制作なんてしばらく中断すべきだとも思うし……」


『この調子じゃいつ手遅れになっても不思議じゃないですよ――。』とナーシャは不安混じりの苦笑を向けた。オレもそれに苦笑で返した。

……なにせ今日は天国まで行ってしまった。全く笑い事ではないのだ。


「ああ、そうしてみる。ありがとう、ナーシャ」


よし、明日は朝一番にユニオンに行くことにしよう。

何か割りがいい仕事(バイト)が見つかるといいんだが……。


次回更新は来週の火曜日(五月二十三日)の午後十時です。(時間変更させて頂きます)


魔法使いたちの突然の来訪の目的、そして、主人公の体力作りの行方はまた次回!

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