40.王の采配
短めですね。サラマンダー編一段落。
40話だから区切りが良かったですね~(*´▽`*)
「これは第23代国王、イルク・ルガートからの炎霊討伐に関する勅書である。両名ともに伏して拝聴するように」
まだ少女と言ってもいいような小柄な女性が少し離れた台の上に立ち、観衆の歓声に負けじと声を張り上げた。あの純白に輝く鎧は見覚えがある。金色の長い三つ編みにもだ。
「ガドル、もしかして、あの人って、俺達の出発前にこの門の所で槍を投げてきた騎士か?」
「ああ。俺達、アンシオン騎士団の副団長、セリシア=フィースフォルドだ。我が騎士団が誇る、最恐の目付け役さ」
まるでこの大歓声の中で今のガドルの声が聞こえていたかのように、セリシアという女騎士はこちらを睨んだ。
「(怖い……)」
小柄でオレと同い年くらいにも見えるが……凄まじく真面目で、融通が利かなさそうな人だ……とオレは感じた。というより、滲み出る雰囲気が怖い。
「ガドル。貴方にはまた別件で話が有りますから、後で王城の詰め所に素直に、抵抗せず来るように……!」
ガドルがセリシアはそう前置きしてから幾つもの豪華な房飾りの付いた立派な巻紙を一気に広げた。
一気に聴衆の声が静まり、何千何万もの視線が彼女に集中した。
「私の名はセリシア=フィースフォルド! 王国の臣下として、ここに、騎士隊長ガドルと魔剣鍛冶師見習い・ムカイケントの処分決定を読み上げる!」
観衆から険悪なざわめきと俺の素性に驚く声が起こった。
「処分、だって!? 何かくれるんじゃないのか!? というか、その『処分』って響きが怖いんだけど……それって何かの間違いだったりしないか?」
ブーイングの中、恐らく聴こえるはずの無いオレの言葉に、またしても女騎士は明確に頷いた。……どうやら彼女は聖徳太子のような耳を持っているらしい。
「異世界勇者ムカイケント、まだこの世界に来て間もない彼方はしらないでしょう。だから、一つ教えますわ。この世界に於いて、精霊の討伐は明文化された法によって禁止されているのです。盟主国テトラト、ここギルム王国、ミ・ツェイメイ、アゴン集落群、そしてその他、ティクルースを始めとする海岸の小国家群……この世界のおおよそ全ての国家が条約に賛同し、精霊を不用意に刺激しないように定めているのです。精霊の怒りを買う事は国の滅亡に繋がりますから。ですから……精霊を討伐したとしても、お二方にはペナルティーは受けて頂く事になります」
この世界に来ていきなりペナルティーを喰らう羽目になるなんて……。
腑に落ちない。オレはガドルに誘拐されただけだぜ?
「セリシア! 俺は罰を受ける! だが、この小僧は俺が無理矢理連れて行っただけだ!」
「そうだよ! オレは囮にする為にガドルに連れ去られたんだ!! それで罰を受けるなんてやってられないぜ!!」
ガドルがやるせない表情でオレを見るが、オレは無視した。なんたって、オレの言ってることは正論。嘘も誇張も無いのだ。
「……分かりました。国王には後々報告しますが……先にこのペナルティーの内容を言わせていただけますか?」
口調は丁寧だが、セリシアは有無を言わさない鋭い目をオレ達に向けた。騒がしくなっていた観衆も水を打ったように静かになる。
「……結構ですわ。先ず、騎士隊長ガドル、貴方の罪は極めて重く、沈静状態の炎霊への先制攻撃といい、隊を置いて西区に向かうという騎士の責務を放棄するような独断専行は死罪に値する」
嘘だろ!? 死刑!? じゃあオレも!?
ショックに頭が真っ白になった。が、存外ガドルは余裕の表情だ。観衆と一緒にブーイングを飛ばしている。……まぁ、ガドル程強ければ捕らえられないだろう。
威勢よく野次を飛ばしていたガドル……しかし、セリシアが腰の剣に手を伸ばしただけで、観衆もろともに再び静かになった。
「……しかしです。『精霊の一柱を単騎で討伐するという目覚ましい功績は驚嘆と、あらん限りの称賛に価する』と陛下は仰っています。『汝の功績は精霊に苦渋を飲んできた人々に希望を与え、他の精霊に抗う為の一歩となるだろう。国王として、汝、護国の英雄に心から感謝を述べる。故に、罰を軽減し……一か月の謹慎処分とする。しかし、その間も討伐者としてチームを率い、魔物の討伐に参加されたし。しかし、討伐報酬は一般のバスターの三分の一と定める』――まず、これがガドル・ルスオール騎士隊長に対する陛下が決定した処分です。異存は……ないですわね」
女騎士は周囲を見渡した。国王の決めた事だからか、それとも、彼女の眼力に押されたのか……それともオレのようによく分かっていないのか……観衆は一様に頷くだけで特に異議を申し立てる者はいなかった。ガドルも『俺の生活が……』とか言って渋い顔をしているが、わざわざ野次を飛ばす程ではないらしい。
「では次に、ムカイケント。貴方の処分を言い渡します。先に言っておきますが、ガドルと違い、貴方は死罪になりません。異世界の者の取り扱いには慎重を要するという認識の元、異世界から来た魔法使い達やその他特殊な人々の裁きには時間を掛けて審議されるのです……貴方がそこの騎士隊長に連れ去られるのは私も見ておりましたので、まず死罪どころか有罪判決が下る可能性はかなり低い筈ですね」
「……」
オレはガドルを睨んだ。
コイツが『俺が全て罰を受ける』みたいな事を言ったせいで、オレはてっきり、オレも重罪に問われるのかとビビることになったのだ。
「すまん……忘れてた……」
ガドルは小声でそう言うと、オレの全力を乗せた蹴りに痛そうに顔をしかめた。
よし。とうとう、オレの会心のクリティカルがガドルの脛にヒットした。
「この事情により、ギルム王国の一存で処分は決めかねるのですが……現在、一応の判断として、ムカイケントをギルム=ルガートと百人弟子に並ぶ史上103人目の魔剣鍛冶師と認め、国の為に『魔剣』を制作する事を義務づけ、王国はそれを経済面で援助します。これが、ムカイケント、異世界勇者たる貴方に与えられた一時的の、一年後の王会議招集までの期限つきでの罰です……。異存は、王会議招集後にお願いします」
観衆が大きくざわめき、オレの事を指差して囁いている。
その全てがオレを半信半疑に凄いものだ、と称えるものだ……。
この観衆全てがオレを魔剣鍛冶師(見習い)だと認めている。噂が広がってゆく。
ガドル
「(オレ、いきなり有名人になっちまった……)」
伝説の人物と並んで評される……たった三日前まで日本で平凡な受験勉強に明け暮れていた日々からは想像出来ない出来事だ。出世したようで素直に嬉しい。
それに、なんだかこの世界にも馴染めてきた気がする……というか、炎霊を見てしまった以上、もう何があってもビビらないという妙な自信がついた。
無事に帰って来れたし、異世界生活は順風満帆と言えるかもしれない……。
しかし、不安が一つ残る……。
――どうするオレ!?
まだハンマーすら一度も握ってないんだぜっ!!?
波瀾万丈の異世界生活、それはまだ始まったばかりだ。
次回は今週の金曜(五月十九)の午前11時です。




