34.討伐終了
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サラマンダーが口を開けたその瞬間。
透明な熱の奔流が溢れ出た。
瘴炎でもなんでもなく、サラマンダーはただ口を開けただけだ。
それでも、透明な陽炎の中で竜の口にほど近い建物達が燃え上がり、周囲に伝わった熱は空気を圧倒的な速度で膨張させて、燃焼を伴わない疑似的な爆発を引き起こした。
「ぬぐぁっ!?」
オレは成す術無く風圧に吹き飛ばされてしまう。
足元の感覚が消えて、一気に爆風に運ばれ……背中が派手な音を立てて何かを突き破った。
突然の衝撃に意識が遠のくが、息が詰まって咳き込んだせいで覚醒させられた。
オレはどこかの廃墟のドアへ突っ込んだらしい。ねじ曲がった蝶番にぶら下がるようにドアが揺れている。木材がそれ程厚くなかったのが幸いし、丁度衝撃を吸収してくれたようだ。
元いた場所からは十メートル以上も離れている。
それでも、激痛と涙で揺らぐ視界の中、あの場所でガドルがまだ立っているのが見えた。真昼のような明るさに照らされ、熱風に燃え上がった服が破れてたなびき、爆発によって飛来した石礫と火傷によって所々から血が滲んでいるのが見える。
さっきから微動だにしていない。
でもまだ生きている。
まだ『準備』とやらで動けないだけだ。つまりそれは、この状況でも尚、ガドルが諦めていないという事を意味する。
「(もしガドルがもう動けるようになれば、もしかして勝てる!?)」
まるで縋るかのように、オレは微かな希望の光をガドルに見た。
「頼む、動いてくれ!」とオレは祈るような気持ちで見つめるが……。
ガドルはピクリとも動かなかった。
『残念だ。』
そしてサラマンダーの声が聞こえ、
「ガドルっ!?」
直立不動のガドルの姿が炎の奔流に呑まれるまさにその瞬間を目撃した。
莫大な熱が生み出す陽炎の中、微動だにしない英雄の姿が青白い炎のカーテンに覆われ、そのシルエットが掻き消える。
オレは離れていても伝わって来る熱に、顔を覆った。
希望は失われた。
例えガドルがブレスの着弾の直前に動けるようになり、逃げたとしても、この熱からは逃げられない。
サラマンダーに接近したあの時の熱とは格が違い過ぎる。
ガドルがいる場所からはかなり離れているにも関わらず、腕で庇っていても伝わって来る熱に、目の水分を保とうと涙がひっきりなしに出てくる。
目に押し当てた布地を透かして、金や緑、青や白が混ざり合った鮮やかな炎の色がオレの網膜へと入って来た。その荘厳で恐ろしく美しい光の乱舞を見た時、最初から、精霊のような存在に人間が敵うはずが無かったのだ、とオレは悟った。
その時地面が揺れた。
迫りくる絶望に、貧血を起こしたのかと思ったが、違うらしい。
明らかな地響きと共に、オレは束の間の間宙に放り出された。
「(わ、わ、わ、わ、わ!?)」
目の前でドアが勢いよく閉まり、室内は闇に包まれた。
何かが起きた。大地を揺るがすほどの何かが。
「(状況を……確認、しないとな……)」
先日シェトに叩かれた(殴られた?)背中はまだ癒えていなかったのに、ドアを突き破った際にしこたまぶつけ、その上今の衝撃で腰を打った。
「これは、かなり重傷だ……と思う」
痛みの割りには、かなりすんなりと立ち上がれた。
ドアを内側に引くと、そのまま蝶番ごと倒れてきてしまった。
いつもだったら最初に他人の家を壊した罪悪感が優先するはずだが、今回だけは違った。
外が夜になっていた。
これは語弊があるかもしれない。中央区を出発した時から元々夜だった、今は明け方に近い時間だと思う。
だが、オレが言いたいのは明るさだ。
「サラマンダーが……いない?」
突然の真っ暗闇にオレの目は混乱した。
身体全体が光を発し、夜を真昼の明るさに変えていた存在がいない。
それに本来なら目の前通りの先はマグマの海になっている筈だろう? なんたってサラマンダーのブレスがガドルを直撃したんだ。
でも、それも無い。
さっきまで光を発していた全てが無くなっている。あちこちの建物の中で燻ぶる炎と煙の切れ間からのぞく星々の輝き……それ以外に光源が無い。
「ガドル……そうだ、ガドルは!?」
大通に向かってオレは走る。背中が痛くて全力を出せないのがもどかしかったが、大通りの角までやって来た。
オレは目を疑った。
「あ」
オレは思わず声を洩らした。
さっきまでガドルとサラマンダーがいた大通りは、もはや大通りではなかった。そもそも通りでは無くなっていた。
遥か先でわずかに残った溶岩が『下』に向かって滴っている。
数百メートルという長さに渡って、通りは周囲の街ごと深いクレーターになって消滅していた。
まるで泣き叫ぶような奇怪な音が聞こえる。
大気が穴の中に吸い込まれてゆく音だ。
景色の激変に、オレは少しの間我を忘れて見入っていた。
しかし。
「ガドル……やっぱり、生きてたんだな……」
真っ黒に口を開ける奈落の淵、星明りに照らされて背の高い人間が立っているのに気付いた。
長らくお待たせして申し訳ないです。
5月2日、火曜日の十一時に更新します。




