14.魔剣鍛冶師
遅くなりました~。
長くなりました。
「え? お昼ご飯を食べられる場所……ですか? タダで? えーと? それ以外に色々気になったりしませんか? 魔剣ってなんだ~とか、僕の素質ってなんだ~、とか」
受付嬢は、オレに突然話題を変えられ、受付嬢は若干混乱しているようだ。
まぁ、確かに。
『おめでとう!』とハイテンションで言ったにも関わらず……肝心のオレがこの反応だと戸惑いもするか……。
ま、そっちも気にはなるんだが、飯の後でいいかな~ってね?
こういう異世界イベントに関しては、期待しすぎない事にオレは決めたのだ。
最初の自信ありげな態度と打って変わって、暫くの間、彼女は視線を宙に彷徨わせた。さっきまでは随分とこの街には詳しそうだったけど、オレに話の筋を折られて本調子じゃないのか……?
「配給は……う~ん。中央区にはありませんね……配給所を作ると職に就かない人が増えるって王様が仰ってるんです。この街だと、路上で寝る人が増えると魔物の被害に遭う人も増えますからね。あ、でも、要塞化している北区にならあります……ここからかなり離れてますけど」
受付嬢は地図の一番上の部分を指差した。
北区……か。
今いるユニオンは中央区の中心から少し東に外れた場所だ。王都全体の俯瞰図には、北区に続く門と大通りが書かれている。
昨日の晩に歩いた感じだと、その門まででも相当に距離がありそうだ。
行き倒れるのはまっぴら御免だ。
「じゃあ、中央区で日払いのバイト……って、通じないか。一日働く毎にお金が貰える仕事ってありますか?」
実はお金を手に入れる方法は一つだけある。
オレは未だに炎龍の牙を服の下……パンツとズボンの間に挟み、上からベルトで固定しているのだ。
いざとなったら売ればいいが……せっかく初めて手に入れた異世界のアイテムだ。出来るだけ売りたくない。
中央区で日払いの仕事があるならそっちを選びたいものだ。
「配給所ですか…………あ、そうだ。何か食べたいと言うことでしたら……ワタシ、お弁当持ってます。お話、聞いていただけるならあげますけど?」
彼女はカウンターの下から小さなバスケットを取り出した。
まじかっ! なんとっ! 願ってもない申し出だ!!
「いいんすかっ!?」
「え、ええ。魔剣鍛冶に関する簡単な説明は道中、食べながらでも説明させてもらいますけど……」
オレの食いつき振りが予想以上だったのか、彼女は苦笑いを浮かべている。
……って、あれ? 『道中』ってどういうことだ?
「それは、ほら。この場所はお香が焚かれてますから、お弁当に香りが移っちゃいます」
なるほど。
今は鼻が匂いに慣れてるけど、相変わらず白い煙が立ち込めているし、意識すれば香辛料の様な香りもする。
オレは気にしないけど……確かにお弁当を食べる雰囲気じゃないのは確かだ。
ココ、ユニオンの受付だし。
でも、外に出るくらいだったら道中なんて言い方しないんじゃ……?
それに、さっきから集まってきてるユニオンの職員達がヒソヒソ会話してるのも気になる。
ここはユニオンだし、危ない話っていう可能性は無いと思うけど……怪しい話じゃなけりゃいいんだけどなぁ……
「ほら、行きましょう! ナーシャ、昼休みはいりまーす!!」
声の方を見ると、彼女は既にカウンターから出て、今まさに煙の中に消えようとしていた。
って、早くないか!?
「すいません。色々ありがとうございました!」
オレは急いでカウンターの中のスタッフ達に頭を下げ、受付嬢の後を追った。
*****
オレはナーシャという受付嬢を追い、今朝は気付かなかったカウンターの脇にあった扉から外に出た。
だが、ドアを開けたその瞬間。
「!!」
オレは、目を刺すような光に反射的に目を閉じた。
恐らく太陽だ。
暗い部屋の中にいたから細目で窺う事もままならない。
オレは仕方なく目を閉じたまま壁に寄り掛かった。
景色は見えないが、見えないからこそ分かる景色もあるのかも知れない、と思う。
鈍感になった鼻を新鮮な風の香りが解きほぐし、室内の静寂に慣れた耳には街の喧騒が一際大きく感じられた。
オレは少しの間、街の様子に耳を澄ました。
「この街のアンシアという名前は『太陽』から取られたと言われています。ワタシとしては太陽の恵みが溢れるこの街にピッタリな命名だと思ってるんですけど……どう思います?」
暫くして、少し離れた場所でナーシャの声がした。
オレはゆっくりと目をひらき……。
そして。
……思わず息を呑んだ。
すぐには言葉が出てこない。
広大な広場を太陽の光が鮮やかに照らしている……。
街と大空の境目はパッキリと分かれ、どこまでも澄んだ青空には、まるで油絵の様な雲が浮んでいる。
今立っているのは広場をぐるりと囲む石段の上だ。
見渡せば、市場が開かれた広場が一望できる。
剣を帯びた戦士風の人達や思い思いの格好をした討伐者も歩いているものの、ココでは町人らしい女性や子供達、そしてお年寄りが多い。
色取りどりのテントには燦々(さんさん)と光が降り注いでいる………。
幼い子供たちがテントの周りを走り回り、少女と言える様な年代から皺くちゃなお婆さんまで、様々な年齢の女性達が集まって世間話に花を咲かせているかと思えば、魚屋の主人らしい日に焼けた逞しいオジサンと値切り交渉を始めた少女もいる。
まるで、この市場のある広場いっぱいに太陽と人間が放つ活気に満ちているかのようだ。
「す、すごいな………」
オレがやっとのことで振り絞った一言に、そうでしょ? とナーシャは得意気に笑った。
その笑顔にオレはついドキリとしてしまう。
暗い室内では分からなかったが、笑うと笑窪が出来る。彼女の柔らかな雰囲気にピッタリだ。
まるで、太陽の様な笑顔だとオレは思った。
そう。
改めて見ると、彼女の笑顔はとってもかわいい。
室内の暗さと、これまでの少し大人びた対応からだと彼女は年上に見えた。しかし、日光の下だと実際は中学生か高一くらいである事が分かる。まるで、ユニオンの明るい青色の制服が学校の制服にも見えてくる程だ。
「仕事終わりに見る夕焼けもキレイなんですよ」
オレが全く関係ない事を考えているとは露知らず、少女は遠い目を空に向けた。
その目には実際に金色の夕焼けが映っているのだろう。
きっと相当に素晴らしいに違いない……。
この広場だと西日が正面か差し込む筈だし……。北の方、街並みの向こうには立派な城が見える。
忙しさが一段落したら、ゆっくりと一日中ここでのんびりしてみるのも良いかも知れない、とオレは思った。
「はい。お弁当」
ナーシャは陽の光が照らす石段に腰掛け、オレにバスケットを差し出してくる。
……今更だが、ホントにいいのだろうか……オレは躊躇いながら手を伸ばした。
「あ、ありがとう、ございます…………でも、ホントにいいのか? ナーシャ、さんの昼ご飯なんじゃ……」
オレの言葉に彼女は苦笑混じりの笑顔を見せた。
「ふふ、いいんです。 ワタシ、あまり食べませんから。いっつも父が作ってくれるんですけど……量が多くって……毎回、ユニオンの皆に分けてるんです」
そう言って再び柔らかな笑みを浮かべた。
……かわいい。
そして、オレもちゃっかり隣に、といっても少し下の段に座らせてもらう。
バスケットの中には年季の入った木箱が入っていた。
蓋を開けると香草と香辛料の香りがふんわりと薫った。
内容はシンプルに鶏肉を焼いたモノのようだ。
超美味そうだな!!
だが、ちょっと待て!
このスパイシー香り、ユニオンのカウンターに立ち込めていた香りと殆ど一緒だ。
これならいったい、なんでオレを外に連れ出したりしたんだ?
もちろん弁当の中身を知らなかったという事も考えられるけど、さっき『道中』とも言った辺り、なんだか裏が有りそうじゃないか?
「あれ、どうしたんですか? あ、大丈夫です。魔物の肉とかじゃないですよ? 異世界にもある料理だそうですけど? 苦手ですか?」
弁当とにらめっこをするオレに、ナーシャが心配気に声を掛けてくる。
「い、いや。食べんのが勿体ないくらいだな~ってね」
うん。下手に疑ったって仕方ないよな。
別にオレをどうこうしようって感じでは無いし、そもそも昨日来たばかりのオレが誰に狙われる?しかも、さっきは、おめでとう!とまで言われたんだぜ?
オレはバスケットの中に入っていた木製のフォークで一切れの鶏肉を口に運ぶ。
「うまっ!? 旨すぎだろ!!」
「ホントですか! 父も喜びます! ワタシも、何度となく鍛冶屋なんて辞めて食堂を出せばいいのにって言ってるんですけどね……」
最後の一言は少し悲しげだった。
なんでだろう?
鍛冶屋じゃ何か問題があるんだろうか?
まぁ確かに……この味なら確実に繁盛すると思うけど……。
「えーと、あの、それでさっきワタシが言った話なんですけど……」
唐突に話題が変わり、オレは盛大に噎せた。
一瞬、ついに「ご飯食べたからこれで契約成立ね」みたいな事を言われたのかと思ったからだ。
まぁ、それ以上に、咳き込んでも吐き出すまい、と反射的に飲み込んだ肉片が喉に詰まってしまったからの方が、理由としては大きい。
「だ、だいじょうぶですか!?」
オレが喉が絞められるジェスチャーをすると、ナーシャは背中を思いっきり叩いてくれた。
飛び上がるほど、いや、息が止まる程痛かった。
シェトに昨日の朝殴られた箇所でなければ丁度良かったんだが……クリティカルヒットだったな……。
どちらにせよ息は出来るようになったから良いけどな。
「えっと、それで……話をしても大丈夫ですか?」
オレの咳が治まると、ナーシャは何事も無かったかの様に話を続けた。
よっぽど話したいらしいな、その話題。
「まず、話というのは魔剣鍛冶師にならないか、っていう勧誘なんです。外について来てもらったのも他のギルドからの勧誘を防ぐためでした。ちょっと強引でしたね……」
少女はペコリと軽く頭を下げた。
「でも、悪い話じゃないですよ? 魔物は討伐しなくていいし、遠くまで行かなくてもいいです。まぁ、討伐者のような華々しい活躍もないんですけどね……魔剣を作る為に炎の前で黙々と作業するだけですから……。あ! でも! その作業に憧れる人だって多いんですよ!? 決して華々しい活躍が無いって訳じゃ……ない……かもしれませんし……」
その言い方だと華々しい活躍なんて皆無じゃん。
でも、鍛冶師かぁ……。
前は生産職に憧れたりもしたけど……実際に就職先に考えたことは無いかな……。
でも。魔剣ってキーワードが出てきたし、異世界なら……と期待してしまったりする。
「魔剣ってなんだ? あのよくある……魔法が使えるようになる剣って事でいいのか?」
オレがふと洩らした言葉にナーシャは目を円くした。
「異世界には魔剣がたくさんあるの!? うそでしょ!? 凄い!!」
「え、あ、いや……別にそういう事じゃなくて!」
オレは少しの間説明するのに手間取った。
一体どうやって説明すればいい? 実際には存在していなくても架空には存在するという不思議な現象を……。
*****
「へぇ、ファンタジーって言うんですか……。理解した、と思います。それに……驚きですけど、魔剣の概念はそれであってます。実際、魔剣とは莫大なエネルギーを内包していて、現実を書き換える魔法のような効果をもたらすことが出来る武具の総称です。で、どうですか? そんな物を作れるなんて楽しそうですよね!? しかも! あなたなら絶対に成功できます!!」
「マジでっ!!? じゃ、オレやるよ! なるよ鍛冶屋!!」
オレは間髪入れずに答えた。
え? これまでの疑い方は何だったんだ、って?
もっと考えろよ、って?
いや、即断だろ。
普通に考えて。
なんか、絶対に成功できる、とか言われたしな。
「だから是非ウチのギルドに……って! 本当ですか!? ありがとうございますっ!!」
ナーシャは頭が地面につく勢いで、何度も頭を下げる。
いやいやいや、何で感謝されたかは分かんないけど!
感謝するのはこっちの方だよ!!
この世界に来れて良かった! 魔剣ってなんか胡散臭いから話半分に聞くつもりだったけど、魔法付与的なことまで出来るって?
もうここまで聞いてしまったら……期待せざるを得ないだろ! もう鍛冶師でも何でもやるよ!! 最強の勇者じゃなくてもいい!
「最高の魔剣鍛冶屋になって頂点とってみせるぜっ!」
周りの目も、ナーシャの目も少しは気になったが、オレは叫んだ!
腹もいっぱいになったし! 職業も決まったし!めっちゃテンションが上がってきたぜ!
あ~あ、けれども……うん。叫ぶのは止めといた方が良かったなぁ……後からじわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。
市場の買い物客達も通過ぎる人達もみんなチラチラと見てくるしな……。
本当で大声を出すのはよしといた方が良かった。
しかも、本当に今更、オレは重大な事に気付いた……。
…………オレ、ハンマー握った事一回も無いや。
ま、なんとかなるだろ? ココ、異世界だもんな? 異世界だったら大抵なんとかなるもんな? オレって素質があるんだもんな!?
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キミ達、何を戸惑っている? 別に評価してくださっても構わんのだよ? (`・ω・´)キリッ




