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7話※真白鈴音視点※

ヒロイン視点です。サブタイトルに入れるのを忘れていました。これまでに見られたかたすみません。

 8歳になった次の日、ふと目を覚ますと全てのことを思い出していた。自分の前世のこと全て。そして思った。この人生勝った、と。思い出した瞬間に自分の名前にピンときたのだ。そして柊学園の存在を見つけて確信した。この世界は前世で大好きだった乙女ゲームの世界だと。そして自分はヒロインだということを。


 それからは柊高校へ入学するために猛勉強をした。自分磨きも欠かさずに、ヒロインとしての振る舞い方も特訓した。元々のスペックが高いおかげで特に苦労もしなかったけど、だからと言って手を抜いたりはしなかった。目指すはバラ色の高校生活。そしてその先の玉の輿。とはいえ、逆ハーは最初から狙っていない。


 前世では乙女ゲームが大好きだった。そしてそれ以上に乙女ゲー転生ものの小説が大好きだった。乙女ゲー転生ものによくあるのが転生ヒロインが逆ハーを狙って失敗、主人公一行にプギャーされるといったものだ。現実とゲームの区別がついていない馬鹿な転生ヒロインにわたしはなるつもりはない。攻略対象者のうち1人だけと恋愛関係になればそれでいい。ここが現実だとしっかりと認識したうえで、逆ハーなんて馬鹿なことを狙わずに、1人だけとトゥルーエンドを迎えられればわたしの人生は安泰。


 ゲームの内容をよく思い出して考えた末、生徒会長の東雲隆司を落とすことに決めた。攻略対象者の中では一番のお金持ちだし、ゆくゆくは父の会社を継ぐから将来性も抜群。なにより、一番好きなキャラだったから相当やりこんでいて、どうしたらトゥルーエンドを迎えられるかはっきりと覚えている。現実世界が故のイレギュラーを考えたとしても確実に落とす自信があった。社長夫人となった自分の姿が浮かんでニヤニヤが止まらない。


 時は過ぎて高校入学後。ボロを出すこともなく順調にヒロインとして立ち回っていた。ライバルキャラ登場っていう東雲ルートに入る重要なイベントもイレギュラーが起こることもなくゲーム通りに進めることができた。――あの時の東雲会長は格好よかった。好きなキャラだけあって思わず素でドキッとしちゃった。ちょこちょこ起こる会長とのイベントをこなして段々と仲良くなり、普段も皆にちやほやされながら早くもわたしの学校生活はバラ色の様相だった。あのときまでは。



***



 6月の中間考査試験も無事終わった。転生ヒロインによくあるヒロイン補正に頼ることもなく、毎日しっかりと勉強していたおかげで今回も特に躓くところは無かった。


「真白さん、あの辺よさそうじゃない?」


 ヒロインの取り巻きその1、澤谷さんが綺麗に整えられた花壇を指さして聞いてきた。今は合同授業で写生の為に外に出ている。梅雨だっていうのに日差しがきつくて、一生懸命美白してる肌が焼けたらどうしてくれるの。あとでもっと強力な日焼け止めを塗っておかなきゃ。


「いいね!紫陽花がとっても綺麗だね」


 別に花なら何でもいいし、丁度日陰になってるあたりだったから同意しておいた。あくまで可愛らしく。わたしから同意を得られた澤谷さんは誇らしげに先頭をきって花壇へと向かっていく。その後にわたしが付いて行って、横には取り巻きその2、後ろにその3、その4、と続いて行く。花壇にはすでに結構な人数が場所取りをして絵を描いていたけれど、わたしの姿を見た途端皆自分の横へ来ないかと場所を詰め始めた。そんなざわざわとした雰囲気の中1人だけこちらを見もせずに黙々と絵を描いている人物が見えた。


「あれは確か雌黄聡一郎……」


 もちろんどの攻略者も最低3週はしているからちらと見えた横顔だけでもすぐにわかった。雌黄聡一郎、その王子様チックな見た目と言動で生徒会長の次に人気のあるキャラクターだった。わたしは優男な見た目があまり好みじゃないからそこまで入れ込んではいなかったけど。でも、どうせ誰かの横で描かなきゃいけないなら絶対攻略対象者の横がいい。


「わあ、この花可愛い。わたしここで描くね」


 花壇の花を見るようにさりげなく周りを歩き、その時ちら見した聡一郎の絵はなんとも冴えない小さなピンク色の花。他の花に隠れるように咲いたその花は、どうやらどこかから種が飛んできたものらしく花壇の中で咲いているのはその一輪だけだった。地味でぱっとしないけど、聡一郎の横に並ぶにはしょうがない。可愛いっていう魔法の言葉と笑顔でやや強引に聡一郎の横に陣取った。わたしが聡一郎の横に並んだからか、周りがキャっと色めき立つ。お似合いっていう言葉がちらほら聞こえてきた。ヒロインと攻略対象者なんだから当然でしょ。


「真白さんこの花にするの?それ雑草じゃない?こっちの紫陽花の方が綺麗に咲いてるよ」


 わたしの後ろに場所を取った澤谷さんがなんかごちゃごちゃ言ってきた。これだからモブの相手は面倒だわ。


「ううん、この花にする。なんか、一輪だけ咲いてるのが健気だなって思って」


 そんな面倒な相手にも可愛らしい笑顔で答えなきゃいけないんだからヒロインは疲れる。玉の輿の為と思わなきゃやってらんない。


「健気かな?」


 わっ!そんな会話をモブとしていたら聡一郎がわたしに話しかけてきた!たまにはモブとの会話も役に立つじゃない。


「うん。綺麗な花の下でも頑張って咲いて、こうして可愛い花を咲かせてるんだもん。そう思わない?えっと、雌黄くん」


 今日一番の可愛い微笑み顔でやや上目使いに聡一郎を見ると、優しい王子様の笑顔が迎えてくれた。好みじゃないけど、やっぱり格好いいわね。


「健気っていうかさ、力強いよね。どんな場所でもへこたれない芯の強さが可愛いんだ」


「確かに健気よりしぶといって感じのほうがしっくりくるかもね。雌黄くん、花好きなんだ?」


 描き終えたのか聡一郎が画材を片付けてその場を立ったから、必然的にわたしが見上げる形になる。逆光で影になった聡一郎の顔は心なし照れたように赤く見えた。


「花というか……うん、こういう花は好きかな。隣のクラスの真白さんだったよね?絵描く邪魔してごめんね」


 そう言ってバイバイと手を振りながら離れていく聡一郎。甘さを含んだ笑顔にまたもその場がキャっと沸いた。


「ねえねえ真白さん、雌黄君すごい笑顔だったね~」


 ニヤニヤしながら話しかけてくる取り巻き達の話を聞き流しながら聡一郎の歩いて行った先を見る。……面白くない。さっきから周りでうるさい取り巻きは聡一郎の笑顔がわたしに対して向けられてると思ってキャーキャー騒いでいるけど、あれは違う。花のくだりといい、誰かを思い浮かべての会話だった。ああ、本当に面白くない。


「わたしも描き終ったし、別の所行こうかな」


 本当はまだ描き途中だった絵をささっと見れるくらいのレベルに仕上げて、急いで画材を片付ける。取り巻き達も慌てて片付けを始めるけど、わたし一言も一緒に行こうって言ってないよね?


「わたし絵へたっぴみたい。ちょっと人がいっぱいいると恥ずかしくて描けないから、1人で頑張ってみるね」


 片付ける手をぴたりと止めて、取り巻き達が残念そうな顔でこちらを見てくる。


「そんなこと言わないで一緒に行こうよ。真白さんの邪魔しないからさ」


 うるさいなあ。澤谷さんはわたしと居ると注目されるから常にくっついていたいって思ってるの知ってるんだから。他の取り巻きも大体そんな感じに決まってる。ヒロインの周りって、攻略対象者以外は媚びてくる馬鹿ばっかり。ちやほやされるのはいいけど、時々すごく面倒だし。やっぱり逆ハー狙えばよかった。


「ごめんっ。ほんっとーに見られるの恥ずかしいの!上手くなるように頑張って練習するから、そしたら一緒に描こうね!」


 困り眉にキラキラお目目でお願いすれば、それなら仕方ないね、と渋々諦める。ちょろいわ。


 余計なことで時間をくっちゃった。早足で聡一郎が向かった方へと足を進める。確かこちらに行ったと思ったけど、中々聡一郎の姿が見当たらない。聡一郎の友達は花壇から動いていなかったし、きっと1人でいるはず。その横で私も仲良く絵を描こうと思ったのに。


「あ、みーつけた」


 敷地の端、こんもりと丘のようになった場所で聡一郎は絵を描いていた。思った通り、1人だ。東雲隆司のイベントではもちろんないし、雌黄聡一郎ルートでも合同授業のお絵描きイベントなんて無かった。イベント外の今なら聡一郎と仲良くしようと大きな問題は無いはず。逆ハーは狙わないけど、どの攻略対象者とも仲良くしてあわよくばわたしに惚れさせたい。最終的に1人の人と結ばれればオールオッケーでしょ。


「ここも気持ちいいなあ~。あ、雌黄くん。また偶然だね」


 あくまで場所を探していたんですよ、といった風に装ってこれまたさりげなーく雌黄くんに近づいていく。


「こんな場所に丘みたいになってる場所があるなんて知らなかったな。今日は天気もいいし気持ちいいね。わたしもここで描こうかな。雌黄くん、いい?」


 聡一郎が短くいいよ、と返してきたからさらに近づいて、そっと描いている絵を覗き込む。


「うわあ、雌黄くん絵すっごく上手いね。これあそこにある木だよね」


 描きかけのスケッチブックにはここから見下ろした位置にある1本の大きな木とその下に広がる黄色い花、そしてそこに座る1人の少女が見て取れた。


「そんなに見ても面白いものじゃないよ。ここから見える景色を描いただけだから」


 そう言ってそっとスケッチブックを捲り、真っ白なページを上にした。見たままを描いたって言っているけど、木の傍に座って絵を描いている少女はわたしには3人に見える。でも、総一郎の描いていた絵には1人だけ。どういうことかしら。


「ジロジロ見ちゃってごめんね。私もあの木描こうっと」


 1人分の余裕を開けて隣に座るといつも穏やかな笑顔を浮かべている聡一郎の眉根が一瞬寄ったように見えた。でも気付かなかったことにしてわたしもスケッチブックを広げて木を描き始める。


「真白さんも絵上手いね。スケッチが早い」


 しばらく黙々と描いていると聡一郎から話しかけてきた。やっぱり、ヒロインであるわたしのことが気になるんじゃない。


「そんなことないよ!簡単に輪郭だけ描くのは得意な方なんだけどね、色をつけるとどうしても思った感じにならないんだよね」


「そっか。俺も一緒かも。じゃあ俺、描き終ったから別の場所行くね」


 嘘だね。さっき見た絵は描きかけだったし、新しいページには何も描かれていない。わたしから穏便に離れたいって思っているのがバレバレなんだけど。でも、なんで?噂の転入生と2人きりって状況にドキドキとかしないわけ?並んで絵描いて、今いい雰囲気だったのに。ましてわたしはヒロインで聡一郎は攻略対象者。絶対にわたしに魅力を感じているはず。


「ごめんね、聡ちゃんにちょっとお願いがあるんだけど、今いいかな?」


 聡一郎の不可解な行動に考えを巡らせていたからか、突然の介入者への対応が遅れた。誰、この女。今はわたしと聡一郎が2人で居るんだから邪魔しないでよ。


 どういう用事か聞こうと口を開きかけた所で聡一郎に遮られる。確かに、聡一郎は別場所に移動しようとしていたけど、何をそんなに慌てているの?それに、さっきまで2人並んで座っていたのにいつの間にか聡一郎は立ち上がってわたしからかなり距離を取っている。嫌だ、まるで浮気がバレた男みたい。つまり聡一郎はこの子にわたし達の仲を誤解されたくないわけね。


「ねえそれ、脚立とか持って来ればいいんじゃない?雌黄君とはいえ、木登りするのは危ないと思う」


 片耳で聞いていた話に口を挟めば、総一郎がわたしの方を向いて嫌そうな目をしてくる。無意識みたいだけど。脚立を使うっていう至極普通な意見にやたら感動している馬鹿な女は脚立を求めて駆け出そうとしていた。と、そこで聡一郎が止めに入って女の手を引いて猫のいる木へと向かっていってしまった。わたしの事を完全に無視して。


 バレバレだわ。今のやり取りだけで聡一郎があの女に好意を持っているのが分かった。多分、あの女は聡一郎の好意に気づいていないんでしょうね。いるいる、そういう女。自分への好意だけはやたら鈍い女。ある意味ヒロインのテンプレね。でもね、この世界のヒロインはわたしなの。聡一郎はわたしの攻略対象者なの。たかだかモブが横取りしていい存在じゃ無いんだから。


 作戦変更。総一郎を攻略してやるわ。勿論逆ハーは狙わない。もったいないけど隆司は諦めなきゃ。お金持ち具合も少し落ちるけど、雌黄家だって十分な資産家。聡一郎に乗り換えてもわたしの将来は安泰。


 聡一郎の絵に描かれていたのと全く同じ後姿のモブが離れていくのを見送りながらわたしは決意を固めた。そうと決まれば早く帰って聡一郎ルートを思い出さなくちゃ。隆司と違って入れ込んでなかったからちょっと手こずるかもしれないけど、そこはさらなる努力でカバーすればいい。待っててね聡一郎。あんなモブとじゃなくてわたしと完璧なトゥルーエンドを迎えさせてあげる。

ご一読ありがとうございます。


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