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乳香

「アキト、アレキサンドリアまで行く必要はないぞ」


 そういうとガイウスさんはにやりと笑った。


「実はな、双角王の迷宮が発見されて以来、何度か軍と探索者ギルドで調査隊を送っていたんが、その内の1隊が今朝、帝都の迷宮入口に出てきたんだ」

「え、それは一体……」

「どうやら迷宮は幾つかの区域がワープで繋がる広大な物らしい。詳細な調査結果はまだ得られていないが、帝都からも大迷宮に入れるようだな」

「もう少し詳しく教えてくれませんか。どんな情報でもいいので」


 そういうとガイウスさんが早速教えてくれた。

 どうやら今回発見された迷宮にも階層があること、垂直方向だけでなく水平方向へのワープもあること、帝都からアレキサンドリアまでは1階層のワープポイントを水平に辿っていくと二日ほどで着くこと……。


 その時俺に電流走る。


「それにな、この迷宮で取れる魔石は、どうやら良質というだけではないようだぞ。使い道は分かっていないが性質が少し変わっているらしい。探索者なら一攫千金を狙えるな」


 そういうとガイウスさんはガハハと笑った。


「ガイウスさん、魔石の話よりアレキサンドリアへの道について教えてもらえませんか」


 俺が考えたのは、この迷宮は新たな交易路として使えるんじゃないのかということだ。

 魔石やアイテムなんて他の奴らに任せておけばいい。


 アレキサンドリアは穀物の集積地となっているだけではなく、南方の珍しい交易品も集まっている。

 帝都南の港とは海路で結ばれていて、年に何度か大船団が到着していたはずだ。


 海路は当然だが海流や天候、季節の影響を受ける。

 しかも、アレキサンドリアと帝都の往復には海路だけで1カ月ほど掛かったはずだ。

 迷宮を使えば四日か五日で往復できる。


 これは金を稼ぐチャンスだ。

 迷宮だから普通の商人は入ってこれない。

 探索者がこの交易路を独占できる。

 利に聡いオウガスタ帝国の人なら、同じように考える人が何人もいるだろう。

 

 ガイウスさんにアレキサンドリアまでのルートを教えてもらうと、お礼もそこそこにルキウスさんの家に走った。


 交易品として何を扱ったらいいのか。

 迷宮を通る以上、荷物を背負う訳にはいかない。

 アイテムボックスの容量はせいぜい30~40kg程度だと思う。

 穀物の運搬しても、船に勝てるわけがない。

 香辛料も、胡椒は冷蔵庫があるせいかさほど高値ではないし、原産地からアレキサンドリアまでかなり離れているから利幅が薄い。


 ルキウスさんの家に勝手に上り込んで奥に進んでいくと、丁度着替え室で奴隷に着替えさせているところだった。


「ルキウスさん、新しい迷宮の話は聞きましたか?」

「ああ、皇帝が迷宮発見について新しい詩を書くそうだ。添削に呼ばれたよ」


 丁度出かけるところだったんだな。


「少し時間を頂けませんか」

「私に話があるということは……交易か。何を扱うつもりだい?」


 さすがルキウスさん、話が早い。


「ええ。荷物も持てませんし、香料にしようかと」


 そういうとルキウスさんが目を細めた。


「それなら乳香か没薬だな。貴族がこぞって買うぞ。まぁ、私が全部買うがな」


 これで売り先は確保した。

 帝都からは西のルシタニア属州から入ってきた武具類を持って行くことにする。

 乳香を産出する砂漠地帯では金属製品が高く売れるはずだ。


 工房へ行って使いやすい片手剣を中心に買い込んでいく。

 包まって寝られるマントと大きな水筒も3人分買い入れた。




「集え マナストライク」


 スケルトンの胸にまともに当たると、胴体がばらばらになって砕け散った。

 スケルトンが光になって消えていく


「マナドレイン」


 そう言うと、光の一部が俺に流れ込んでくる。

 マナボルトLv10、マナストライクLv5で新しく出てきたスキルがこのマナドレインだ。

 自分で倒した敵からMPを吸収できる。


 このスキルを覚えてから継戦能力が格段に上がった。

 尤も、マナドレインでMPを回復させるには、俺が止めを刺さなくてはならないし、戦闘中も隙ができるので使えない。


 どうやらスケルトンを倒し終わったようだ。


「お疲れさん。そろそろ昼ご飯にしよう」


 そう言って通路に退避し、お茶を入れた水筒と、買い込んできた弁当を出す。

 お昼に選んだのは以前食べたケバブモドキだ。

 肉は辛めの味が付いていて、冷めてもまた別の美味しさがある。


「それにしても結構大変だな」

「ええ、敵の数が多いです!」

 

 カリンが人間形態に戻ってケバブモドキを食べ始める。

 スケルトンは個々の強さは大したことはないが、5体くらいがいっぺんに湧く。


「そろそろ範囲攻撃が欲しいな」


 魔法使いのポイントはマナドレインLv1を取った後、少し貯めてある。

 前々から考えていたことなので、思い切ってファイアストームLv2を取った。


 食事を終えてゆっくりとお茶を飲み、後片付けをした。


「早速次の戦闘から使ってみたいとおもう」

「分かりました。」

「キュイ!」


 次の小部屋に入ると、スケルトンが6体あらわれた。


 シルヴァーナが尻尾を右に傾けると、カリンが右手に回り込む。

 シルヴァーナ自身は左手に回り込むと、左右からスケルトンを中央に押し込んだ。

 シルヴァーナがパタパタと尻尾を振ると、二人が退避する。


「炎よ 踊れ! ファイアストーム」


 そういうと、火の粉がチラチラと集まり、弾けて、スケルトン達を火炎の渦が包み込んだ。

 渦が静まり、ほどけると、中から光の塊が散っていく。

 あわててMPを吸収する。


 いいじゃない。いいじゃない。

 こういうの待ってたんだ。


 ニヤニヤしていると


「ご主人様、魔石です」


 とシルヴァーナがドロップアイテムを拾ってきた。

 

「ゴ、ゴホン。シルヴァーナ、さっきの動きは凄く良かった。範囲魔法が使いやすかったぞ」


 そう言って褒めると、カリンもキュイ!と鳴き声を上げた。


「ああ、カリンも上手だったぞ」





 夜は通路で一泊し、翌日の昼にアレキサンドリアに着いた。


 迷宮を出ると、街の匂いが帝都とは違う。

 少し空気も乾燥している気がするな。

 探索者ギルドで到着の手続きをし、宿を確保すると、町の南の市場に赴いた。 


 市場では、日除けに布を張った商店が見渡すかぎり何列も並んでいる。

 店の間の通りは荷物を満載したラクダを連れた商人や、買い物に来た地元民で溢れていた。


「これは凄い活気ですね。ご主人様」

「そうだな。商談を終えたら少し見学して回ろうか」


 市場の入り口で冷えた葡萄酒を買い、乳香や没薬を扱っている店が並んだ区域に向かっていく。

 乳香は木からとれる樹脂だ。

 南のほうが産地らしい。

 その名の通り、半透明のミルク色をしていて、香として炊いて使う。

 


 通りを歩きながら店頭に出された見本を鑑定していく。

 

「よう、熱いな」


 高品質の乳香が展示されている店の前に行くと、店主に葡萄酒を奢りながら話しかけた。


「すまんな……。よく冷えている」

「なかなか良さそうな乳香だね。少し見せてもらえるか」

 

 そう言うと、店主は奥から乳香の入った袋を取り出した。

 早速鑑定してみると……うん、どれも高品質だ。


「この乳香は南からか?」

「ああ、船で南の砂漠地帯から持ってきた」


 いいぞ、予定通りだ。

 

 アイテムボックスから片手剣を一振り出す。


「これは……」

「ルシタニア属州の鉄剣だ」

「帝国の武器か! 」


 今度は槍の穂先を出す。


「三人でアイテムボックス一杯に持ってきている。どうだ、乳香と交換しないか」


 そう言って三人で武器を取り出すと、店主が食い入るように見つめてくる。

 時々叩いては音を確かめ、品質を確認していた。

 こっちは鑑定スキルで選んで買ってきたんだ。

 品質には自信がある。


「どれも相当な品だな。そうだな……これくらいでどうだ」


 そう言って乳香の袋を二つ並べた。


 帝都で売ればかなりの値段が付くはずだ。

 思わずにやけそうになるのを誤魔化して、更に交渉する。


「この武器を砂漠で売れば幾らになる?」


 店主は溜息をついて袋を一つ追加した。 

 中身を鑑定して確認すると、高品質、高品質、最高品質……。

 十分だろう。


「交渉成立だな」


 そう言って握手を交わした。


「なぁ、あんた。継続的に武器を持ってこれるか? 特に槍の穂先は人気が出そうだ」

「本業は探索者だからな。次はいつになるか分からんが……覚えておく。槍の穂先だな」




 その後、アレクサンドリアでは2泊してしまった。

 持ち金で武器を大量に購入してしまったので、手元が多少寂しかったが、珍しい物も多くてシルヴァーナもカリンも大はしゃぎだった。

 もちろん俺もだ。

 お土産用にサッカラムというサトウキビからとれる蜜のような物を購入した。




 一度通って慣れたのか、帰り道は順調に進んだ。

 往路と同じように通路で一泊し、もう少しで帝都に着くというところで通路の向こう側から剣戟の音と怒鳴り声が聞こえてきた。


「二人とも、様子を確認して、可能なら一気に逃げるぞ」


 二人が頷く。

 通路からそっと顔を出して除くと、手前側に見たことのない装備の6人。

 奥にいるのは……ガイウスさんじゃないか!


 二人に目配せして後ろから奇襲をかける。


 一気に詰め寄って、俺とシルヴァーナで後ろから敵の後衛らしき二人を剣で刺し貫いた。

 急所を貫かれ、声を上げる間もなく敵が崩れ落ちる。

 

 同時に、カリンはガイウスさん達と対していた敵の後頭部を思いっきり蹴り飛ばす。

 首があらぬ方向に曲がって吹き飛ぶと、口からボコボコと血の泡を吹きだして絶命した。 


 6対6の状況から一瞬で9対3になり、敵が怯んで逃げ出そうとした。

 逃げ道に魔法を置くように発動させる。


「炎よ、踊れ! ファイアストーム」


 範囲魔法で逃げようとした二人が炎に包まれた。

 

「ギャアアアアア!」


 火達磨になって飛び出して来た一人をシルヴァーナが剣で貫く。

 もう一人は炎から逃げられずに黒焦げになって倒れた。


 残った一人はガイウスさんが捕縛し気絶させた。


「ガイウスさん、無事ですか!?」


 興奮で思わず声が大きくなってしまう。


「アキトか! 助かったぞ、敵に魔法使いが居やがった」

「魔法使い……、探索者崩れの盗賊ですか?」


 そう聞くと、


「いや……。おい! 死体からクリスタルを集めろ」


 突然、部下に命令し、クリスタルを持ってこさせる。


「やはり……。アキト、こいつらは盗賊じゃない。他国の手の者だ」



 

   

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