第二十話 準備段階
俺たちは王立植物園ルプラカミーを落とす。
なぜ落とそうと思っているか。
当然の疑問だ。今から教えよう。
まず第一に、この植物園には、黒い噂が立っている。
表向きは植物園だが、裏では人体実験を行なっている。
正直、確証はない。
ただ、なんの策も無しに実行するわけじゃ無い。
俺たちは、そう、騎士じゃないか。
騎士は人生の勝ち組みたいなもんだろう?
騎士なんだから、多少無茶をしてもいいんだ。
君たちだって、高い志があって騎士になったわけじゃ無いんだろう?
それはさっき君たちが言ってたじゃあないか。
騎士になって、人生を楽にしたかったんだろう?
騎士になるために腕も磨いたんだ。
多少は無茶できるだろう。
そんな君たちに朗報だ。
こんな美味しい話、きっと一生訪れないぜ?
そう、それこそ、さっき君たちに言ったことだ。
「おう、落とそうぜ! 植物園! どうせ死にやしねえんだ!」
「わはは、そうだな! ぶっちゃけ名誉とかどうでもいいしな!」
俺たちは騎士であるが、向上意欲のない者たちを町中を歩き回って探し、今日、その全てを集めた。
連日騎士を探し集め、やっとここまで来たんだ。
俺たちはここで成功させなくてはならない。
俺たちはルプラカミーの地下、かなり怪しいが、その酒場に入っている。
ここには、かなり厳つい面々が集まっており、政府関係者は入ってこない。
政府でさえ関わりたく無い場所なのだ。
今からルプラカミーに牙を向くつもりの俺たちにとっては都合のいい場所だった。
ここにいる大半の人物は、俺たちを騎士になってイキがってるガキだと思っているだろう。
実際、俺はイキがっている。
だが、俺の見込み通りだ。
騎士の中には、あまりまともな奴がいなかった。
体は鍛えられており、腕には自信があるという者はたくさんいた。
だが、まともに騎士の責務を全うしようという意思のある者は極めて少なかった。
つまり、利用がしやすい者が多かった。
「おいドラン……随分簡単に説得できちまったが……これでいいのか?」
「いいんじゃないか? みんな腕には自信があるらしいし、実際騎士なんだから大丈夫だ。後は統率が取れれば問題ない」
「そこが一番不安だな……」
俺とアウラは、騎士たちに熱弁した後、酒場の隅の席で今後のことについて改めて考えた。
ミルクを飲みながら、集まった大体の人数を数える。
がやがやとうるさい騎士たちは、ざっと五十人はいる。
どうだろう、この五十人を十人ずつに割って、五班に分けるのは。
統率を取れる自信はない。
だから、各自自由に動いてもらおう。
ただ、班員の安否は必ず確認する。これは義務とする。
俺とアウラは2人でいい。
舐めているようにも見えるが、俺たちは協調性がないので、2人の方が身軽で動きやすい。
それに、俺たちがいち早く辿り着く必要があるから。
「みんな聞いてくれ!」
俺とアウラはカウンターの上に立って、再び騎士たちの前に立ち、注目を集めた。
俺たちは追加の説明をしつつ、その場で新たに思い付いた案も話した。
「いいか、まず食料がいる! どれだけルプラカミーが広いかわからないから、何日いることになるかわからないだろう。それから、日時はおんなじだが、入る場所は別々にする!」
「おう! 任せとけ! 俺たちはいつでも行けるぜ!」
「ああ! わかってる! 結構は三日後だ! それまでにできるだけ物資を運んで来るんだ! 三日後の深夜! ルプラカミー植物園でまた会おう!」
「おおおおおぉぉーーー!!」
俺たちは騎士たちとの集会を終え、酒場から出て宿に戻った。
決戦は三日後。
それまでに準備を整える。
……だが俺は、まだ魔法を完成させていない。
厳密には、完璧ではない。
刀を手で触れずに動かす。これはできる。
問題は、それが一本だけということ。
まだ、剣を魔力で作り出すことはできていない。
それができないと意味がないのだ。
俺の魔法が、未完成のままだと、戦力が大きく変わる。
緊張を覚えながらも訓練に励み、俺は三日後を待つのだった。