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32、第二王子。

 自室を出たサリーがロビーに行くと、数十名の近衛兵とともに使者として参られた、アルフレード・カリーム・オーウェン第二王子がいた。


「御無沙汰しております、殿下」

「久しぶりだね、サリーローレンス嬢」


 国王が、第二王子を使者として遣わすことからも、今回の会談が重要な意味を持つ事が分かる。


 第二王子を前にしたサリーは、スカートの両端を持ち上げ淑女らしく上品に挨拶をする。


「本日は、態々このような所まで足を運ばれていただき、誠に恐悦至極に存じます」

「気にしないでほしい。それと、できれば畏まらないでくれ」

「ありがとう存じます。それで、本日はどのような御用で参られたのでしょうか」


 無論、サリーも使者である第二王子が、侯爵家を訪ねて来た理由を父から聞いて知っているが、敢えて知らないふりをする。使者本人から話を聞くことが誤解を招かなくて済むことと、貴族として使者に対する礼儀でもあるからだ。


「此度は、聖女であるサリーローレンス嬢に願いがあって参った。ーーー我が父、国王陛下と、正室で在られる王妃陛下が病に侵されてしまい、更に国の重要な役職でもある、宰相や大臣なども次々と病に侵され、国の祭事が滞る事態にまで陥っている」


 王子は一息置くと、再び真剣な眼差しで語り始める。


「この様な状態を他国が見逃すはずもなく、この隙に乗じて他国が我が国に戦争を仕掛けるための、準備をしているという話も聞く。最早一刻も猶予は残されておらず、我が国の存亡のためにも、そなたの聖女のお力で両陛下の治療を、是が非でもお願いしたい」

「両陛下が病にですか、それはお辛いでしょう。わたくし如きでよろしければ、すぐにでもお伺い致しましょう」

「素早い決断に、感謝する。それで、早速だが、我々と共に王城まで来てほしい」

「承知しました」


 サリーと父であるローレンドール侯爵は、王子の勧めで彼が準備した馬車に乗り込むと、すぐに王子と護衛の方が乗って来て、暫くすると馬車はゴトゴトと動き出す。


 王子の馬車は、王族の馬車にしては質素な造りで思ったよりも狭く、サリーと侯爵、王子と護衛で、互いに向かい合わせになりながら座っていた。


 暫くは沈黙の時間が続くが、やがて王子が口を開く。


「両陛下の治療に、聖女である貴女から直ぐに良き返事をもらえるとは、思っていませんでした」


 護衛の方は王子が信頼を寄せている方なのだろうか、彼の口調は侯爵家で話した口調とは違い、柔らかなものとなっていた。


「それは、心外です」

「あっ、変なふうに取らないでほしい。また、気を悪くしたなら、この通り謝る」


 王子は透かさず頭を下げる。


「殿下、私どもの様な者に、頭を下げる必要は御座いません。どうか頭を、お上げください」


 王子の行動に、直ぐ様サリーの父である侯爵が口を挟む。


 王族は国民の代表であり、王族が頭を下げる行為は国民全員が頭を下げる行為に等しく、簡単に行うべきではない。ただ、彼の謙虚な行動から、優しくて思いやりのある人柄が透けて見えて、サリーは少しだけ王族に対する考え方が変わった。


 侯爵の言葉に王子は頭を上げ、先程とは違い少し機嫌の悪そうな顔を覗かせる。


「本音を言えばサリーローレンス嬢は断らなくとも、嫌味の一つ二つくらいは仰ると思っていたのだ」

「それは…… 」

「当初は正室に迎え入れると仰っていたかと思えば、恥知らずとも思えるランドブルの行動を正当化し、婚約破棄ならいざしらず、あろうことか側室に迎え入れるとは、親子揃って恥知らずとも言える」

「殿下、それ以上は仰らないでください。私の娘の事を思い仰ってくれたこと、感謝して胸に収めますゆえ、どうか、そ…… 」

「良い、この場の事は、戯言と思い聞き流してくれたら、それで良い。ーーーただ、私は王族の前に、人として謝りたかっただけだ」


 侯爵の言葉に、王子は手を翳すだけで自身の意志を伝え、再び語りだす。サリーも侯爵も突然の出来事に驚くが、謝罪したいという彼に黙って耳を預けた


「両陛下の病が、サリーローレンス嬢のお力で治ったとしても、我が子大事さ故に正室はカローナローレン嬢を選び、貴女を側室に迎え入れる話は無くならないだろう」

「「………… 」」

「王族として、歴代最高の聖女とも言われる貴女との縁を、簡単に切り離すことはできない。だから、側室なんて言葉が簡単に出てくる。それを恥知らずと言わずになんていう。ーーーそして、それを知った上で貴女に治療を頼む私も、恥知らずの一人だ」


 王子は、そこまで述べると再び頭を下げた。今回は、侯爵も頭を上げてとは言わなかった。彼の強い意志みたいなものが、垣間見れたからだ。


「だが、国の存亡がかかっている以上、私は恥知らずと言われても貴女にお願いしなければならない。お願いだ、両陛下を助けてくれ」

「勿論です。聖女である前に、わたくしはこの国の貴族であり国民です。両陛下の治療には誠心誠意、務めさせていただきます」


 今度はサリーが頭を下げ、王子は少しだけ気が晴れたように微笑んだ。


 王子の気持ちは伝わりはしたが、車内は少し重い空気が流れ、再び沈黙の時間が流れると、今度は侯爵が口を開いた。


「殿下は、疫病には掛からなかったのですか?」

「いや、私も母も兄弟も掛かったが、軽い発疹が現れただで直ぐに治った」

「それは、良かった。実は、私も似たようなもので、すぐに治りました」

「卿もですか。ーーーなぜ重症化する人と、しない人がいるのか、原因が突き止められたら良いのですが、薬師組合でも未だ分からず、調べるのに苦労してるようです」

「左様ですか。確かにそれさえ分かれば、被害を最小限に留めておけますからね」


 疫病の原因は未だ分からず、疫病に効く薬も開発できてない。現在は聖魔法だけが唯一の治療となり、教会の聖法師を頼る人が跡を絶たない。だが、優れた聖法師でも回復(リカバリ)が使える魔力量は一日一度だけで、全ての重症患者に直ぐに治療を施すことは困難な状態だ。


 重症化した患者は、そのうち回復(リカバリ)も効かなくなるのではないかと不安に襲われ、教会に高額の寄進が相次いでいる。


 金を持っている貴族は、我先にと大金を懐に入れ教会に通うが、お金に汚いと疫病に掛かるという噂が流れているため、疫病を恐れる教会は、公開くじ引きにて治療相手を決めており、貴族と教会の間には口論が絶えない。


 やがて教会には頼まず、直接聖法師に頼む貴族まで現れ、貴族と教会の溝は深まるばかりで、それを見た平民は面白可笑しく噂を流し、金持ち病の名前を広げることに一役買っていく。


 貴族と教会の対立は、国民にとって既に娯楽として話題に上がり、悪徳貴族には天罰がくだり重症化してしまい、貴族の言いなりならない教会は株を上げ、治療を施す事ができる聖法師は救いの巫女と皆に慕われる。


 そして、身分に関係なく一日に何度も治療を施す聖女サリーは、救世主と呼ばれ始めていた。




もう一つの作品です。


 勇者召喚の失敗例、運び屋。~俺は異世界でも日本でも、大金持ちになって幸せに暮らすぞ~

https://ncode.syosetu.com/n5810ij/


よろしくお願いします。

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