688 ホルン王の娘
「どうして!?」
聖木が枯死すれば、瘴気は徐々に濃くなっていく。
瘴気が濃くなればなるほど、魔物が増え凶暴化する。だからこそ、皆は必死になって聖木を守り求め、国同士の諍いにも繋がっているのだ。
その大事で稀少なモルテグルの聖木が、生きているのか死んでいるのかすら、分からない状態なのである。
葉は完全に枯れ落ち枝も少なく、幹はまるで干からびているかの様だった。ヴァルタール皇国にある聖樹と比べるのは論外だが、ランデル達と出会った場所にあった聖木と比べても、雲泥の差だ。
「分からない」
アーリャはそう言って首を横に振った。
普通の樹木であれば、樹木医が診断出来る。だが、聖木は他の樹木とは根本的に性質が違う。
樹木に効果がある物が、聖木にも効くとは限らないし、逆効果になる場合もあるのだ。しかも、稀少過ぎて適当な処置など出来ず、現状維持するのがやっとであった。
「「「……」」」
コレも莉奈の作ったアレでどうにかなりそうだなと、フェリクス王兄弟とローレン補佐官は視線を合わせる。
ヴァルタール皇国の王宮にあるのは、護衛兵アンナの竜が、無理矢理引っこ抜いて来た物ではあるが、枯死しそうな状態は似ていた。
莉奈ではないが、どうせ枯れるなら試しても損はない。だが、誰もその事には触れなかった。
何故、何も言わないのかなと、莉奈がフェリクス王達へ振り返った時ーー
「アーリャお姉様!!」
屋敷の扉が勢いよく開き、可愛らしい少女が出て来た。
莉奈とは真逆で線が細く、守ってあげなくてはと思わせる様な、儚さがある。
アーリャ以外にも人がいるのだが、彼女には周りが見えていないのか、真っ直ぐ一直線に向かうとアーリャに抱き着いていた。
おそらく彼女がホルン王の娘で、アーリャの従姉妹にあたるミーシャなのだろう。実姉ではないのに"お姉様"と呼ぶくらいに、アーリャを姉の様に慕っているのだと想像する。
「爆発音があったから、不安で不安で……」
「ミーシャ。何もない、大丈夫だ」
アレを大丈夫と言い切るアーリャ。
莉奈に言わせれば、大丈夫どころか色々あり過ぎだった気もするが、そこは敢えてスルーした様だ。彼女に心配掛けない事が最優先だと、配慮したのかもしれない。
「それよりお客様の前だ。挨拶しなさい」
「……っ!」
そう言ってアーリャがミーシャを引き剥がし、フェリクス王達の前に出せば、ミーシャは目を見張り固まっていた。
フェリクス王兄弟の美貌に驚いた感じではなく、純粋に人がいて驚いたらしい。すぐにアーリャの背に隠れてしまった。
「彼女ってこんなに人見知りだったかしら?」
アーシェスの記憶に残るミーシャは、人の後ろに隠れる様なタイプではなかったハズ。
むしろ、大切に育てられた王女様という感じで、ツンと澄ました感じだった覚えがある。
「ホルン王が行方不明になってから、ずっとこんな感じだ」
本来なら父が行方不明になった今、ミーシャが次期王としてしっかりしなければいけないのだが、急に降って湧いた重荷に耐えられなかったらしい。
人見知りというより、怯えの方が強そうな気がした。
きっと、ミーシャなりに身の危険を感じているのだろう。
「ミーシャ」
礼儀についてフェリクス王兄弟は何も言わないが、王女として挨拶くらいはして欲しいと、アーリャは再びミーシャを背から強引に前に出す。
年齢的には莉奈と変わりがないが、おずおずとしている姿が可愛いなと、莉奈は思った。




