677 何故、なぜ、ナゼーーッ!?
「"カルメ焼き" というのは、お菓子ですね」
砂糖、水、重曹と材料は3つ。
材料が少なく工程も簡単だが、これを作るのにはコツが必要で、難しい部類に入る……そんなお菓子だ。
だけど、弟とワイワイ作るのは楽しかったなと、莉奈は思いを馳せた。
「「お菓子!!」」
シュゼル皇子とエギエディルス皇子の瞳は、キラッキラだ。
お腹は満たされていても、莉奈が口にした知らないお菓子への欲求は、果てしないらしい。
「重曹でお菓子なんか出来るのかよ!?」
「作るのは超面白いよ?」
「マジか!!」
混ぜて膨らませる工程は、まるで化学の実験みたいで、ケーキとは全然違う面白さがある。
莉奈が面白いと言ったものだから、エギエディルス皇子はさらに興味津々な顔をしていた。
「ただ、初心者には激ムズのお菓子なんだよね」
基本的に簡単に出来る料理やお菓子はないが、その中でもカルメ焼きは難易度が高いお菓子だ。
だけど、その分、成功した時の達成感は格別である。
「お前なら作れるだろ?」
そう言って、エギエディルス皇子が可愛い瞳で見てきた。
確かに莉奈は初心者ではない上に、料理に特化した "技能" も持っている。だから、おそらく失敗しないだろう。
だが、これは自分でやるからこその醍醐味がある。面白さや楽しさは、やらないと分からない。
阿波踊りではないが、作る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら作らなければ損々である。
「まぁ、そうだけど……エド、これは食べるより作る方が面白いんだよ?」
「何だよ、作る方が面白いって」
確かにパン作りとかお菓子作りとか、少し手伝った時は面白かったし楽しかった。
カルメ焼きもそれと同じ様な感覚なのかなと、エギエディルス皇子は首を傾げる。
シュゼル皇子も期待の目をこちらに向けているし、作らない選択肢はなさそうだ。
仕方ないなと莉奈は王妃スライムから降り、ゴソゴソと魔法鞄をあさる。水や砂糖はたっぷり入っているが、重曹はあったか記憶が曖昧だ。
でも、以前にフリッターを作った時に貰った重曹が、確かまだ魔法鞄の中にあったハズ。
「あったあった」
やはり、魔法鞄に残っていた。
キラーアントの毒餌にするには少ないが、カルメ焼きに使うには十分な量だ。銅製のお玉はないが、小さなフライパンならある。
それで作れるかなと考えながら、莉奈が "重曹" を取り出そうとした瞬間ーー
手に何かが引っ掛かり、魔法鞄から “何か“ がコロンと横から出て来た。もちろん、重曹ではない。何故なら今、手に持っているからだ。
(なっ!?)
そのフォルムが見えた途端、莉奈の心臓がドクリと跳ねる。
それが足元へ落ちて行く様は、まるでスローモーションの様に見えた。
赤っぽい色で縦に少しシワがあり、ラグビーボールみたいに大きいアーモンド……ではなく "種子"。
そう、足元に落ち様としているのは、真珠姫から貰った "カカ王"である。
何故、永久封印したハズのカカ王が、このタイミングで飛び出て来てしまったのか。
こんな事になるなら、どこかに埋めておけば良かった……いや、種子なのだから、芽が出てきてしまう可能性がある。むしろ、粉砕しておけば良かったのか?
でも、真珠姫から貰ったモノを、捨てるのは少し罪悪感があるし、食べ物を粗末には出来ない。そう思って保管しておいたのが悪かったのか。
そもそも、初めからシュゼル皇子に献上……いやいやいや、それはないないない!!
落ちるまでのたった数秒が、莉奈には永遠の様に感じた。
たらればの後悔で、莉奈の頭の中は、今、大パニックである。
よりにもよって、シュゼル皇子の見ている前で落とすだなんて!!
……やばいヤバイやばいヤバイやばいヤバイ!!
超絶体絶命。緊急事態だ。
莉奈はそう思うが早いか、足元に落ちて来るカカ王を、思いっきり蹴飛ばした。もはや、反射的と言ってもイイ。
莉奈は頭で考える先に、迫り来る恐怖で身体が動いたのである。
くれた真珠姫には悪いけれど、シュゼル皇子に見られたともなれば、この世の終わりだ。
ーーごめんなさい、真珠姫!!




