678 危機一髪?
カカ王に莉奈の強い思いがのったのか、プロサッカー選手も真っ青なくらいの、豪速球となり空高くに飛んでいた。
どうやら莉奈は無意識のうちに、蹴りに魔力をのせていたらしい。
(あぁ、このまま、夜空に輝く星になってしまえばイイのに……)
ーーボゴッ!!
だが、そんな莉奈の願いも虚しく、数百メートルくらい先で何かに当たった様な、鈍い音が聞こえた。
暗くてよく見えないが、マルガイラみたいな飛行系の魔物にでも、当たってしまったのかもしれない。
でも、あそこまで遠くに飛べば、大丈夫なハズ。
そう安堵した莉奈の耳に、可愛い声が降り注ぐ。
「いっひゃぁぁ〜い!! お姉ちゃん、何するのーーっ!?」
バッドタイミングである。
莉奈の蹴ったカカ王の軌道の先に、エギエディルス皇子の小竜が飛んでいたらしい。
「何でこんな事をするの!?」
莉奈の目の前に、涙目で訴えながら小竜が降りて来た。
その小竜の下顎には、小さなタンコブが出来ている。どうやら、下顎にカカ王のアッパーカットが入った様だ。
「スミマセン、魔物カト思イマシタ」
そこに小竜がいたなんて、蹴った莉奈ですらビックリである。
とにかく遠くへ遠くへと思いっ切り蹴っただけ。魔物にすら、当てようとしていた訳じゃない。
しかし、蹴った理由が必要だと気付いた莉奈は、これ幸いと "カカ王"を蹴り飛ばした理由にした。
「魔物!? もう、ぼくと魔物をまちがえないでよ!」
プンスカしている小竜。
この辺りを、クルクルと飛び回っていたら、いきなり何かが飛んで来て、下顎に激痛が走ったそうだ。
ビックリして地上を見れば、莉奈が足を振り上げていたので、莉奈が “何か” を蹴り飛ばしたのだと気付いたらしい。
……災難である。
「すみません」
わざとではないが、何だか痛そうだなと、莉奈はもう一度謝っておく。
小竜はこれで誤魔化せたが、シュゼル皇子はどうだろうか?
フェリクス王が笑っている声は聞こえるが、シュゼル皇子がどうかは……怖くて振り返れない。
しかし、追及してこない様子を見ると、とりあえず大丈夫なのかもしれない。
「お前、まだフラフラしてたのかよ?」
てっきりヴァルタール皇国に帰ったと思っていたのに、小竜がまだこの辺をウロウロしていたのだ。
その事実を知り、エギエディルス皇子はため息を吐いている。
「……っ! あ、う、あぁーーっ! おじちゃん、おじちゃんが来たよ!!」
意味もなく、この辺にまだいた事がバレた小竜は、わたわたと焦っていたが、ハッと空を見上げた。
莉奈には夜空と星くらいしか見えないが、小竜には何か見えるみたいだ。
慌てふためく小竜の声が聞こえたのか、モルテグル兵も視線の先に何がいるのかと目を凝らしている。
そして、徐々に夜の闇から羽ばたく姿が見えれば、王竜の再来だと小さな歓声を上げていた。やはり竜は何度見ても嬉しいみたいである。
ーーグッジョブ、小竜。グッジョブ、王竜!!
小竜の言う"おじちゃん"とは王竜の事だった。
皆の歓声に紛れ、莉奈は額に流れていた汗を手で拭う。
なにせ、蹴り飛ばしたアレは、着火している超特大の爆弾みたいな物。危険なんて可愛い物ではない。
皆が空を見上げている中、莉奈だけは安堵のため息を吐く。これで完全に気は逸れた……のでは? と。
「どうだった?」
そんな莉奈をチラッと見つつ、フェリクス王は降りて来た王竜に訪ねた。
どうだったと訊くのだから、王竜に何か頼み事をしていたのだろう。アーリャが来る前に話をしていたのが、そうなのかもしれない。
王竜は涙目の小竜を、憐れそうに見たものの何も言わなかった。
「何とも言えん。数年も経てば、草木は生えるし地形も変わる」
「だが、お前なら何か分かるんじゃねぇの?」
王竜がフェリクス王を信頼している様に、フェリクス王も王竜を信頼している。
他の竜が気付かない事でも、王竜なら何か気付くだろうとフェリクス王が問えば、王竜は満更でもなさそうな表情を見せた。
「我が思うに、魔物暴走は片方だけに起きたと推測する」
魔物暴走の話を口にするという事は、きっとグルテニア王国の話だ。
やはり、フェリクス王は王竜に、グルテニア王国の様子を見て来る様に言っていたらしい。
となると……片方とは、先程話に出ていたグルテニア王国の町、 "モルガ"か "バイツ" のどちらかの事だろう。
シュゼル皇子達は、フェリクス王と王竜の話に耳を傾けていたが、今の莉奈は半分上の空。なかなか会話が頭に入ってこない。
思わず蹴ったカカ王の存在を、シュゼル皇子に追及されない様にと、ただただ祈るばかりだ。
そんな様子の莉奈はさておき、フェリクス王達の話は続く。
「"モルガ"だな?」
王竜の答えはフェリクス王の想定通りだったのか、薄っすら口端を上げていた。
きっとフェリクス王の頭には、何があったのかおおよその絵図が描かれているのだろう。
「ちょ、ちょ、ちょっと、どういう事よ!?」
その2人の会話に、困惑と驚き混じりの声を上げたのは、アーリャではなくアーシェスであった。




