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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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555 カリスマ



 ーーカンカンカン!!




 フェリクス王達が"何か"に警戒し始めてすぐ、低いサイレンの音と共に鐘の音がけたたましく鳴り響いていた。

 街中を駆け巡るその音は、時を伝える鈍い鐘の音と違い、皆の心を不安にさせる嫌な音だった。

 家の窓を慌ただしく閉める姿が、アチラコチラに見える。

 冒険者らしき人は、ちょうど通りかかったこの馬車に気付き、飛び乗って来た。出入口の門に向かっているのに気付いた様だ。

「魔物か」

 エギエディルス皇子がそう呟いていた。

 国境の街だから侵略もありそうだが、この街の隣はヴァルタール皇国。

 フェリクス王がここにいる上に、意味もなく他国を侵略する訳がないので、必然的に魔物しかない。



 呟いていたエギエディルス皇子を見て、莉奈は苦笑いが漏れた。

 何故なら、まったく怖がる素振りがない上に、帯剣に手を掛けていたからだ。普通の子供は、まず逃げるのが先で戦おうなんて考えない。

 なのに、まだ見ぬ魔物に挑もうとしていたのだ。

 この姿を見ると、あぁフェリクス王の弟なんだなと、しみじみ思う。



「な、なぁ。引き返した方がイイんじゃ……」

 馬車に乗る一般人の声を聞いた御者が、乗り込んで来た冒険者達をチラッと見ていた。

 魔物がいる場所に向かうのは、ハイリスクである。

 しかも、この馬車は街を走るため、牽引する馬は魔物耐性のないただの馬。怯えるだけならまだしも、暴れ回られたら乗客の生命に関わる。




「門扉が見える所まででいい」

 フェリクス王は屋根の上から御者にそう伝えると、魔物の気配に集中していた。

 そんなフェリクス王を見て、莉奈はどうしようかと考えた。

 何も出来ない者が側にいるのは、邪魔どころか足手纏いである。フェリクス王達には気にせず戦って欲しい。

 そう思った莉奈は、いそいそと魔法鞄マジックバッグをあさり、貰ったナックルダスターを両指に装着した。

 どんな魔物かまだ全然分からないが、万が一、街中に入り込んでしまっても、一般人を逃す手伝いくらい出来るかもしれない。

 ポーションも所持しているし、コッソリ作っておいたシュゼルスペシャルもある。少しくらいは役に立つだろう。




 ヨシと気合いを入れていたら、アーシェスは目を丸くさせ、目の端で見ていたフェリクス王はクツクツと笑っていた。

 武器を渡したものの、フェリクス王は実際、莉奈に戦わせる気はあまりなかった。

 だが、莉奈はフェリクス王の背に隠れる気はない様に見える。

 フェリクス王がいるからと、守ってもらうのが当たり前だと思わず、戦う気概を見せる。その姿勢が貴族の女とは明らかに違い、フェリクス王はどこか心地良かった。



「そういう女は嫌いじゃねぇ」

 そう言って、フェリクス王は魔法鞄マジックバッグから対魔物用の刀を取り出していた。

 初めて王都に行った時、メンテナンスして貰っていた刀。莉奈の身長を超えた長さがあり、緩やかな弧を描いたあの綺麗な刀である。

 鞘からはまだ出していないが、その姿を見た冒険者達から、おぉと小さな感嘆の声が漏れていた。

 この世界では剣と言ったら真っ直ぐなモノが多い中、フェリクス王のそれは緩やかなカーブを描く刀。力で叩き斬れる剣とは違い、技術で斬る刀は見た目はカッコいいが扱いが難しく、冒険者には不人気だった。

 それを使うというのだから、実力がある証拠。冒険者達からは羨望の眼差しである。しかも、それがまた、長身のフェリクス王が持つと一際美しく見えるから、ますます冒険者達は惚けていた。

 魔物が向かって来ているというのに、恐怖心を忘れるくらいに。彼がいれば無敵な気分になるから不思議だ。

 カリスマ性とはフェリクス王のためにある言葉だと、莉奈は思うのだった。



 バタバタと慌ただしく窓を閉める者達も、目の端に刀を持つフェリクス王が入ると、二度見し手が止まっていた。

 思わず外に出ようとする女性達の姿もあった程である。

 それ程までに、フェリクス王の立ち姿は絵になるのだった。

 












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