554 不穏な足音
ちょっと、お昼に間に合いませんでした。
_(:3 」∠)_ そんな日もあるよねー
「馬車」
国境を渡ったが、ウクスナ公国の首都に行くには、街の反対側から出なければ行けない。
徒歩での移動だとやはり時間がかかるので、また馬車移動である。
エギエディルス皇子がゲンナリしていた。
「クッションいる?」
「だから、スライムをクッションとか言ってんじゃねぇよ」
莉奈が魔法鞄からおもむろに出したスライムを見て、フェリクス王は下を向いて肩を震わせていた。
貴族の馬車でない限り、クッションなど付いていない場合が多い。だから、長時間はお尻に負担が掛かるため、着替えをお尻に敷く者もいる。
先程、スライムスライムと言っていたのは耳にしていたが、そういう使い方をしていたのかとフェリクス王は納得していた。
「ちょっと、それ、このクッションカバーに入れてもらってもイイかしら?」
アーシェスは持参していたクッションのカバーを外し、そのカバーにスライムを入れて欲しいと莉奈に願い出た。
莉奈の体調を心配しつつ、アーシェスもローレン補佐官も先程の事を言及しないでくれた。それがものスゴく温かい。
「いいですよ? 何色にします?」
「え? 色?」
「いろんな色がありますよ?」
莉奈は快諾すると、たくさんあるスライムから何色にするか訊いた。
一時的にスライム狩りにハマっていたので、透明はもちろん黒、白、赤、青、黄、緑、紫と文字通り色とりどり持っている。しかも、個体差があるため、大きさも小さい個体から超特大な物まで豊富で多種多様。
だから、中に入れるとはいえ、好みの色を選んだ方がイイかなと莉奈は思ったのだ。
「お前は"スライムキラー"かよ!」
それを聞いていたエギエディルス皇子が、すぐにツッコミを入れていた。
子供でも、そんなに多種多様に狩り獲ったりしない。スライムの店でも開けそうなくらいに、莉奈はスライムを持っていそうだ。
「弾力も個体差がありますよ?」
「え? そうなの?」
「マジで!?」
エギエディルス皇子のツッコミは華麗に無視し、莉奈はアーシェスとローレン補佐官と、スライム談義に花が咲く。
その辺にいるスライムなんて、イチイチ気にしない。
食べる事も考えた事もないが、ましてやお尻に敷いてクッションにだなんて考えた事もなかった。
しかも、個体によって弾力が変わるなんて想像すらしなかった。莉奈に言われなかったら、スライムに向き合う事はなかっただろう。
「「……」」
スライム話で花が咲く莉奈達を、王兄弟が呆れ顔で見ていたのであった。
◇◇◇
———ウクスナ公国、国境の街マヨン。
川を隔て、ヴァルタール皇国とは反対側に位置する街。
ゴルゼンギルと建物自体の造りは同じで、街並みも一見似て見える。
「え? 何この座り心地」
莉奈が街並みをのんびりと見ていると、アーシェスが驚きの声をあげていた。
莉奈から貰ったスライムを、早速持参のクッションと入れ替えてみたアーシェスは、そのスライムクッションの座り心地に目を丸くさせていたのだ。
柔らか過ぎず硬過ぎず、ちょうどイイ柔らかさで自分のお尻を包んでくれる。
馬車の振動が逆に心地イイくらいに、スライムクッションがフィットする。振動するたびにポヨポヨと、スライムが形を変え、お尻を優しく優しくサポートしてくれていた。
「いやだわ。なんかクセになりそうなんだけど」
スライムのままだと何か変な背徳感や罪悪感があるが、カバーを掛けたら気にならない。
「高級感重視なら、毛皮のカバーもありだと思いますよ?」
「毛皮! 確かにイイわね!」
「夏はスライムを冷やして使えば、ひんやりクッションになるし、逆に冬は温めてあったかクッションに」
「「なるほど!!」」
スライムクッションの使い道を説明すれば、アーシェスとローレン補佐官は大きく頷いていた。
スライムをクッションにする発想もなかったが、それを温めたり冷やしたりなんてもっとである。
再び始まったスライム談義に、フェリクス王兄弟は呆れていたのであった。
「あれ?」
スライム談義をしながら、マヨンの街並みを見ていた莉奈は、行き交う街の人の様子が少し違う事に気付いた。
マヨンの方が兵が少なく、冒険者が多い気がしたのだ。街の活気は明らかにゴルゼンギルの方が溢れているし、マヨンは殺風景な感じがする。
活気が少ないと閑散として見えるし、空気感もどこか違う。
「並んでると、ヴァルタールとの国力の差が歴然よね」
景色を見ていた莉奈と同じく、馬車の屋根から街並みを見ていたアーシェスが、深いため息を吐いていた。
ウクスナに分国したばかりとはいえ、マヨンは旧グルテニア国の街そのまま。十数年前は国境壁の厚さ然り、街並み然り、同じ様に見えた。
だが、今はどうだ。
ゴルゼンギルは、以前とは比べものにならないくらいの分厚い防壁に囲まれ、警備兵や警ら隊がしっかりと街を守っている。魔物の侵入も、犯罪も許さない厳格な姿勢がありありと分かる。
それに比べマヨンは、以前と同じままの薄い防壁。
警備兵は少なく、警ら隊も少ない。その代わりに冒険者の姿が増え、重々しい雰囲気。活気はあるが、街の騒がしさとはまったく違い、楽しい感じがしない。
「国が落ち着かない以上、仕方がないですよ」
貴族間の争いだけでも疲弊していくのに、グルテニア王国は最悪な事に王族が争っているのだ。
王族が争えば、当然下にいる貴族も争う訳で、魔物討伐や抑制に人員を回せない。国境の街マヨンはそれでもまだイイ方で、僻地の町や村はもっと悲惨な事態になっている可能性すらあった。
ローレン補佐官は、ヴァルタール皇国に……いや、フェリクス王がいて良かったなと実感する。
馬車が街を走れば、所々、街の外壁に深い傷跡があるのが見えた。
それは魔物によるモノか人によるモノか、莉奈には分からないが、ゴルゼンギルでは見かけない傷跡だ。アーシェスが言っていた様に国に余力がないため、修復に手が回らないのだろう。
街並みを見ているアーシェス達をよそに、フェリクス王は何か妙な気配を感じていた。
馬車にガタガタと揺られながら、その気配を探れば、空気の歪みの様な感覚がした。
フェリクス王は、同じく馬車の屋根に座るローレン補佐官と、エギエディルス皇子に視線を移せば、フェリクス王の目配せに気付き、二人は小さく頷いていた。




