336 シュゼル・スペシャル再び
「で? お前は何を飲んだんだよ」
それはそうと、回復した様子ではあるが、さっきは何を飲んだのだとフェリクス王が莉奈を見た。
「……え〜と。ポーション?」
「ほぉ?」
視線を逸らして答えてみれば、フェリクス王は全く信じてくれなかった。
「シュゼ……シュゼル・スペシャル?」
莉奈がダンマリを決め込んでいたら、近くにいる王竜から怪訝そうな声が聞こえた。
どうやら莉奈が飲んだ後、地面に放ってしまったグラスを見つけ【鑑定】した模様。
そうなのだ。莉奈が飲んだのは以前作って魔法鞄の肥やしにしていた例の "シュゼル・スペシャル" である。
空ならまだ良かったのだが、グラスの底に僅かに残っていた様でバレてしまった。
ーーヤバっ!!
王竜も【鑑定】が出来るのかよ!!
「おい?」
スタコラと逃げようとした莉奈の首根っこを、フェリクス王がむんずと掴んだ。
莉奈、激焦りである。
「ちょ、ちょっと、きゅ、急用が!!」
「ほぉ、この俺を差し置いて急用だと? 一体どんな用だ」
言ってみろと、フェリクス王が口端を上げた。
どの世界に、国王陛下を無視して去れると思うのだ。
「トイレ」
「あほ」
ーーパシン。
フェリクス王の失笑と同時に、莉奈の頭に平手が落ちた。
◇◇◇
【シュゼル・スペシャル】
"ポーション" と "王家の秘酒" を特別な配合で混ぜた魔法薬。
〈用途〉
個人差はあるが10〜30分程、狂戦士状態になる。
その際受けたキズは、常人ではない速さで修復される。
〈その他〉
飲料水。
効き目が切れた後、異様な脱力感が身体を襲う。
「「……」」
王竜はそこまで詳しい鑑定は出来ないらしく、ザックリだけど莉奈が作り方と効能、副作用を説明すれば、フェリクス王と王竜は絶句した。
それもそうだ。
一般人が魔法薬を作れる訳がない。そして、その名称、効力に王達は唖然としていたのだ。
「お前は一体何を作ってやがる」
「んぎゃあ!! いたいイタイ痛いっ!!」
フェリクス王は莉奈の頭を鷲掴みした。
怒りはないが、呆れと心配が混在していたのだ。
狂戦士は勿論気になるが、何より名が "シュゼル・スペシャル" である。
作った人間の思考が反映される事もあるというが、それにしてもどういう名称だ。
大体、魔法薬についてはいくら鑑定で視たとしても、100%安全とは言えない。
1万分の1くらいの確率だが、稀に誤差や誤表記が生じるとか。
そのため、国としては万が一の場合も懸念し、一応臨床試験や治験を行って配給や売買するのだ。
なのに、莉奈は勝手に作り口にした。大問題である。
売買していない事から薬事法違反には引っかからないが、無資格調剤である。
知らないで作り、自分で勝手に飲んでいるにしても、忠告は必要だろう。
「で、体調は? 脱力感以外、支障はねぇのかよ?」
未知なる魔法薬を飲んだのだ。
本当に脱力感以外に副作用はないのか、フェリクス王はクイッと莉奈の下顎を掴み自分に向けた。
ーーボボっ。
その仕草に、莉奈の頬が真っ赤に染まった。
「熱でも出たのか?」
莉奈が魔法薬を飲んだ後だったため、副作用かとフェリクス王は眉根を寄せた。
そして、つい何も考えずさらに引き寄せ、莉奈のおでこに自分のおでこを当てた。
普段なら、絶対にこんな事などしないのだが、莉奈が変な魔法薬を飲んだせいで思考が鈍ってしまったのだ。
要するに、心配したのである。
フェリクス王の端正な顔が、目の前に迫った。
数cmの距離、数cmの……。
ーーボン!!
莉奈、撃沈である。
「あ゛?」
顔から湯気を出してフニャリと倒れた莉奈に、フェリクス王は眉根のシワをさらに深めた。
どういう事だ、副作用が他にもあったのかと思ったのだ。
しかし、フェリクス王は、横から聞こえた深いため息の音で、頭が一気に冷えた。
「我の眼前で、愛の誓いをするとは破廉恥な」
王竜が心底から呆れ、半目になっていた。
まさか、目の前でキスをしようとする輩がいた……と言っているのだ。
「……」
フェリクス王、絶句である。
そんな訳があるかと、強く言いたかった。
何故、そんな勘違いをしてやがる? 今のはただ、熱を測るつもりの行動だろうがと。
だが、腕の中でグッタリする莉奈を見て、反論する気力が削げ諦めたのであった。




