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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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273 兼任みたいなモノ 



 先程、馬車に乗った時も感じたけれど、乗り心地が想像以上に良い。

 ガタガタと揺れないのだ。もっとガタガタ揺れると思っていただけに驚いた。


「あぁ。高い馬車には、サスペンションが付いているからな」

 何故だろうと疑問を投げ掛けてみれば、フェリクス王が答えてくれた。

 サスペンション……いわゆる揺れ防止が付いているみたいだ。

 だけど、それなりにお高いらしい。

 そんなモノが付いているのか、と莉奈は納得したのだった。




 ◇◇◇




 規制があるらしく、民家や店の高さはマンションみたいに飛び抜けて高い建物は少ない。

 その少ない高い建物も、そのほとんどが監視塔や見張り塔みたいなモノで、魔物や犯罪から守るモノの様だった。

 

 

 しかし、リヨンに行くまでの道中は実に楽しい。

 中で座っているよりも、こうやって手摺に掴まって外側に乗れるのが実に新鮮でイイ。

 夏の日差しは少し暑いけど、風をきって知らない街並みを見るのは、旅行にでも来た気分で面白くて楽しい。



「アンタ。馬車は初めてか?」

 幌の上に乗っていた20代くらいの若者が、覗く様に声を掛けてきた。

 莉奈の先程の言動や、フェリクス王との会話を聞いていたのか、初めてだと分かった様だ。

「はい」

「横乗りなんて怖くないのかよ?」

 莉奈が怖がるそぶりもなく、楽しそうだからだろう。

 女性は大抵は中、混んでいると仕方がなく上に乗るらしい。幌馬車の上も手摺りがあるから、意外と安定感があるとか。

「面白いですよ?」

 曲がり角なんか特にスリルがあって、遊具みたいで楽しい。

 万が一、手が手摺から離れても、後ろにいる王が支えてくれるだろうと、絶対的な安心感もあるしね。


「「「アハハ!!」」」

「横乗りが面白いなんて言う女、俺、初めて会った」

「可愛い顔してんのに、イイ度胸してんなぁ」

 若者達は、途端に愉快そうに笑っていた。

 横乗りは振り落とされる事もあるとかで、女性はまず敬遠するのだとか。握力の弱い年配者も、まずココは乗らないらしい。

 子供は乗りたがるみたいだけど。





 ◇◇◇




 

 色んな人と色々な話をしている内に、リヨンの中心街に着いた乗り合い馬車。莉奈が元気よく馬車からヒョイと飛び降りれば、後から降りた王からは苦笑いが漏れていた。

 自分の手を待たずに、飛び降りる女が珍しいからだ。大抵の女は手を差し出すのを待つ。それが、莉奈らしくて面白い。



「さっきの人達、腰に剣を提げていましたけど、職業は何ですかね?」

 小さくなって行く乗り合い馬車に、手を振りながら言った莉奈。

 乗っている間は終始、下から見上げる形ではあったが剣がチラリと見えたのだ。

 王城では、軍部に所属している警備隊や近衛兵が、帯剣していた。しかし、街ではどういう職業の人達が持つのだろうか。


「冒険者だろ」

 コッチから行くぞ、とフェリクス王は歩き出した。



 "冒・険・者" !!



「……えっと……魔物とか狩っちゃう的な?」

 莉奈のテンションは爆上がりである。

 自分の知っている冒険者とは、そういうモノだ。

 自分の力で狩り獲った魔物を、ギルドとかいう場所で売り買いする人達。不謹慎だと思いながらも、本物の冒険者の存在にワクワクしてしまった。

「そうだ。国によっては、警備隊の役目も兼任しているヤツ等もいるがな」

 魔物専門職とは、一概に言えないらしかった。

 なんでもそうだけど、その職業一本では生活が出来ない人達もいる様だ。

「ふ~ん。なら、陛……フェルナンデスさんも、兼任みたいなモノですね」

 良く考えてみれば、魔物討伐は国王陛下の仕事ではない。

 公務や政務と魔物討伐。国王と冒険者か近衛兵の兼務みたいなモノかなと。

「兼任……兄はどうした?」

 魔物討伐を "兼任" と言った莉奈の発想には笑いつつ、"兄" なら "お兄さん" ではないのかと訊いた。

 大体偽名にしろ何にしろ、ご丁寧に "さん" なんてモノを付けなくてイイ。呼び捨てで全然構わないのだ。むしろ、本名で呼べと言いたい。


「兄妹設定は休止致しました。あっ、武器屋はドコですか?」

 莉奈は適当に返すと、武器店はドコだとキョロキョロする。

「 "兼任" "設定" "休止" 」

 呆れ笑いの様な表情のフェリクス王。

 兄はどうしたと、からかってみれば斜め上にいく返答に、つくづく変わった女だなと感心していた。

「あっ、親子が良か――――」

 



 ――――バシン。




 親子の方が良かったかと訊く前に、頭に平手が落ちてきた。

 


「アホ」

 親子なんかあり得るか。

 そう一言口にして、フェリクス王は街道をスタスタ歩き出した。

 莉奈が顔を上げた時には、すでに後ろ姿しか見えなかった。しかし、声には今度こそ呆れた声が、混じっていたのだった。

 

 

 

 

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