201 パン粉も作るの大変
だいぶ、面白い出来事に話が逸れてしまったが、本題のチキンカツに取り掛かる。
「材料はメインのロックバード。それを包んで揚げるための衣を用意する。卵、小麦粉……でパン粉」
卵と小麦粉をバットに用意したのだが、パン粉がない。だから作るしかない。
「パン粉って何?」
竜の広場でも誰かが言っていたけど、ここでも疑問が挙がった。
「いつも食べてるパンを……おろし器で粉々にしたモノ?」
と莉奈は、まだ作られている例の固いパンと、バゲットもどきを出してもらった。
「このパンをこうやって削る」
チーズおろし器があるので、それでパン粉を作る事にした。
日本と違って、チーズおろし器は縦に囲む様に4面付いていて面白い。粗めから細か目までおろせて便利だ。
「へぇ……"チーズグレーター" でパンをおろすのか」
リック料理長が感心した様に呟いた。
「へ? なんだって?」
と莉奈が眉を寄せて訊けば、
「 "チーズグレーター" ?」
と教えてくれた。
「はぁ~そういう名前」
"チーズグレーター" とかいうのか……これは。莉奈はチーズをおろすモノをマジマジと見た。
チーズおろし器はチーズおろし器としか、呼んだ事はなかったよ。キミはそんな小難しい名前が付いていたのか。
莉奈は、オシャレな名前が付いていたおろし器を、再び見ながらパンをおろし始めた。
「せっかく焼いたパンをおろしちゃうのか……」
莉奈が、とりあえず固すぎるパンをガリガリおろしていると、後ろの方から悲しげな声が聞こえた。
「……うん……まぁ……そうだね」
言われてみればそうだ。あっちの世界ではパンも機械で大量生産だから、パン粉を作るのも苦ではないけど……。こっちではパン自体が大変な思いをしながら作る。
それを、粉々にするなんて贅沢の極みなのかもしれない。
「やめる?」
莉奈はおろす手を止めた。
そもそも、基本的に魔法鞄でいつまでも保存出来てしまうから余分がない。
これから作る、パン粉の量を考えたらパンを作っている皆に、ものスゴく申し訳がなかったのだ。
今からなら、なんか別の料理に変えてもイイ。
「「「やめない」」」
食い気味に即答してくれた。
苦労もさることながら、新しい料理への欲の方が大きいらしい。
「あぁ……そうですか」
食への探求心なのか、ただの食いしん坊なのかは知らないけど、その返答には思わず苦笑いが出てしまった。
苦労<好奇心……の構図が頭に浮かんだからだ。
「パンは、後でまた焼くからイイ」
「なきゃないでイイ」
莉奈が少し躊躇していたら、料理人達が気にするなと背中を押してくれた。正直複雑な感じだ。
パン作りの大変さは知っているから余計である。そして、なきゃないでイイ……って、いいのかよ!!
「で、パン粉? をどうするんだ?」
見本兼味見用の分のパン粉を、作り終えたのを見計らってマテウス副料理長が訊いてきた。
「ん~と、まずは、鶏肉に塩。そんでもって小麦粉をまぶす。余分な粉を叩き落としたら、卵、パン粉の順で衣をつける」
「「「へぇ~」」」
そう説明すると、皆は興味深げに頷いていた。
胡椒を振りかけられないのは致し方ないが、なければないで構わない。個人的な好みでいうなら、胡椒は食べる時に後からガリガリ削りたてをかけるのが好き。
後がけの方が断然香りが良いし、なによりピリッとして美味しい。フェリクス王はこっちの方が好きだと思う。
「で、後は揚げるだけ」
と例のフライヤーを見た。
業務用なんて普段使う事なんてないから、自然と笑みが溢れる。
揚げ物と聞いた誰かが、すでにスイッチをONにしておいてくれたのか油が温かい。出来る人達がいると、全然違うよね。
―――ジュッ。
チキンカツを入れた途端、余分に付いていたパン粉が花火の様に広がった。そして、ゆっくりとジュワジュワ、チリチリと次第に揚がり始めると、イイ音と匂いが厨房を支配する。
揚げ物の揚がる匂いには逆らえない人達の、生唾を飲む音だけが響く。
「それも2度揚げするのかい?」
真横で見ていたリック料理長が生唾を飲んだ。
「これはしない。パン粉で揚げるとサクッとするから」
そんなリック料理長に笑いつつ、莉奈は答えた。
からあげは2度揚げした方が、カリカリして美味しいけど。カツは2度揚げはしない。
パン粉のおかげでサクッと揚がるからね。パン粉を2度づけするとさらにサクッとなると、聞いた事があるけど……面倒くさいからヤラナ~イ。
「「「へぇ」」」
皆が感心した様に頷いた。
揚げ物すべてが2度揚げする訳ではない。それにあった調理法があるのだ。まぁ、からあげも少量で揚げれば、2度揚げなんかしなくてもカリカリで美味しいんだけどね。
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