174 食欲そそるガーリックバター
「苺バターを冷やしておいて……」
冷やしている間にガーリックバターを……と説明しようとしたら、厨房の端にいる連中を見つけてしまった。
「うっまっ!」
「苺バター甘っ!」
「美味し~~い。たっぷりつけたいわね」
先程手渡したボウルに残っていた苺バターを、モニカを含めて数人で取り囲み、味見をしていた。出来るのを皆で待つという選択肢がないらしい。
「「「…………」」」
真面目に作り方を訊いていた者は、怒りを通り越してドン引きであった。冷やして食べた方がと言ったから、魔法を使える料理人に頼んで冷やした後に、早速削ぎ落としながら焼いたパンに塗って食べているみたいである。
「えっと……皆の分はあるんだし……冷えたら皆でゆっくり食べよう?」
リック料理長達の顔が険しくなってきたので、莉奈はさっさと作業を終わらせて食べようと提案した。
どのみちボウルに残っていた苺バターの量なんて、たかが知れている。たっぷりのせて食べた方が美味しいのだ。
「……そうだな」
ボソリと誰かが呟けばやっと、次の工程に集中し始めたのであった。
「次は "ガーリックバター" を作るんだけど、バターはさっきと同じ様に常温で柔らかくしておいて?」
「はいよ」
莉奈が言えば近くにいた料理人が、率先してテキパキと準備する。ガーリックバターも混ぜて作るから、バターが固いと混ぜにくい。
「その間に……」
「パンを焼けばいいんだな!?」
莉奈が説明を終えるまでに、食い意地の張った誰かが挙手をした。
「違――っう!」
なんでだよ。早いよ。最後まで説明聞けよ!
ただのバタートースト食わすぞ!?
「ガーリックバターを作るんだから、ニンニクを切る」
莉奈は呆れながら説明を続けた。
この世界もガーリックと言う国や地方、ニンニクと言う国や地方があるらしい。他の名称で呼ぶ所もあるとか。
元の世界と一緒で色々な言語があるのだろう。オニオンスープを作った時に、玉ねぎスープじゃないの? ってツッコミが入らなかったのもそのためみたいだ。
「ニンニクを切るって、輪切り?」
とリック料理長が、ニンニクの準備をしながら訊いてきた。
「みじん切り半分、すりおろし半分かな」
半々くらいが丁度いいと思うけど、これも個人の好みだろう。
「後は、乾燥バジルと乾燥パセリを用意して」
莉奈が言えば棚から乾燥バジル・パセリを取り出してくれた。勿論出来たバターを入れる小瓶もだ。
一言で色々察して用意してくれる。有り難いよね?
真っ先に味見をした連中に、爪の垢でも飲ませたい。
……実際、爪の垢なんて入れたら、ドン引きだけど。
「バターがクリーム状になったら、みじん切りとすりおろしたニンニクを混ぜる、良く混ざったら乾燥バジルとパセリを混ぜて出来上がり」
苺バターより少し工程が多いけど、基本混ぜるだけだ。ラップでもあれば棒状に包んで冷やし固まらせ、輪切りすれば使いやすい。
パンだけでなく、パスタに混ぜても美味しい……けど、パスタがない。小麦粉から作れない事もないけど、今からパスタを作るのは面倒くさい。
「パンだ!! パンを用意しよう」
出来上がりなんて言ったものだから、今すぐに食べる気の様だ。誰とは言わず、バタバタとパンを用意し始めた。
行動が早過ぎて、莉奈はもう苦笑しか出なかった。
「茹でたじゃがいもにのせても美味しいよ?」
ホクホクのじゃがいもにガーリックバターは最高だと思う。莉奈が新たな提案をすれば、料理人達は慌ただしくじゃがいもを茹でる準備に取り掛かっていた。
「「「じゃがいもを茹でるぞ!!」」」
「「「オ――――ッ!!」」」
天井に向けて拳を突き上げ、何だか知らないが、厨房にいる皆が一丸となった瞬間であった。




