173 イチゴ香る苺バター
結局ロックバードは、すべてを処理するには時間がかかるらしく、明日以降となった。別に王達の分だけは先に処理して、夕食に回す事も出来るらしいけど、調理をするのは私達だからね。
食べられない者達の反感を、無闇に買うのはよろしくないだろう……と明日以降に決まった。それと、丁度いい機会だからと解体の仕方、処理の仕方をやった事のない人達に教えるそうだ。
教えてやろうか? とフェリクス王に言われたが、丁重にお断りした。魚の解体ならまだしも、獣系はやった事はないから、気持ちが悪い。それに、絶対にからかって言っているに違いない。
しかし、解体してくれる人達には、感謝しかない。だって、狩って解体する人達がいるから、お肉が食べれるんだものね。
スーパーでなんでも売られているから、命を食べるって事をすっかり忘れてしまう。
◇◇◇
「リナ、おかえり。竜はどうだった?」
厨房に戻るとラナ女官長が、優しい笑顔で迎えてくれた。仕事が一段落ついて会いに来てくれた様だ。
年齢もお母さんと近いせいか、いるだけでほっとする。心が休まるとはこの事である。
モニカも一緒に戻って来たみたいだけど、背後にいる彼女は見なかった事にしよう。彼女は時折狩人の様な目でこっちを見る。くわばらくわばら。
「かっこよかったよ? 王竜はデカかった」
どんな感想だよって言われるかもだけど、他にいいようがなかった。
後からエギエディルス皇子に訊いた事だけど、初めに竜が頭に直接話し掛けた【念話】は、番以外には滅多にやらない行為だとか。
言葉を使って話す事も、魔力を少なからず使うため面倒くさがってやらないそうだ。そこまでして話をしてみたいと、竜の興味を惹けた事がスゴいと彼は羨ましがっていた。
「やっぱり、怖くはなかったのね」
ラナ女官長は苦笑いしていた。さすがの莉奈も、本物を見れば少しは怖がると思っていたのだ。
「竜はかっこいい!!」
莉奈は、興奮冷め止まないのか、瞳をキラキラとさせていた。
「竜で喜ぶ女……初めて見た」
料理人がボソッと、複雑な表情で呟くと、聞こえていた皆は苦笑いした。宝石やアクセサリーで喜ぶ女性は数多いが、魔物の竜を見て喜ぶ女性はまずいない。
失神する方が多いのである。莉奈の喜ぶポイントがオカシイと思う皆であった。
◇◇◇
「……で? 何を作るんだい?」
マテウス副料理長が、莉奈の頭をポンポンと優しく叩いた。理由はともかくとして、喜ぶ莉奈はなんだか可愛いと思う。
「苺、ブラックベリーを沢山貰ったから "苺バター" と、陛下には "ガーリックバター" でも作ろうかと」
「「「苺バター!?」」」
「「「ガーリックバター!?」」」
皆が一斉に目をキラッとさせた。こういう時の皆って、ちょっと引くくらいコワイ時がある。人も動物なんだと思う瞬間だ。
「簡単だから、すぐ出来るよ」
どっちも簡単で、おまけに材料も少なくて済む。
莉奈は、まず苺バターを作ろうと材料と道具を用意し始めた。必要な道具はボウルと泡立て器とヘラ、そして作った苺バターを入れる小瓶。
材料は、ブラックベリーとバター、ハチミツの3つだ。
「まずは、バターをボウルに入れておいて、常温に戻して柔らかくしておく」
「「「ふんふん」」」
「砂糖でもいいけど、ハチミツがあるのでハチミツを……」
「リナの鞄には……ハチミツが入っているのか!?」
魔法鞄から取り出したハチミツを見たリック料理長が、目を丸くさせていた。そんな物を一体何処で手に入れ持っているのだと。
「藁も入ってるよ?」
王宮の裏にたまたま落ちていたから、意味はないけど拾ってみた。ハチミツは警備兵のアンナが、無茶をやって蜂の巣を落としたので拾った物だった。
「「「なんでだよ!?」」」
全員からツッコミが入った。皆は莉奈の魔法鞄には一体何が入っているのか気になっていた。
「リックさん、マテウスさん、これ混ぜといて」
と驚いているリック料理長、マテウス副料理長に、莉奈は笑いながら、バターとハチミツの入ったボウルを泡立て器と一緒に押し付けた。苺を用意しなければいけないからね。
「どこまでかき混ぜればいいんだ?」
とリック料理長。ただ混ぜるだけなのか、それとも空気を入れてよく混ぜるのか。
「クリーム状になるまで」
莉奈は簡単に説明した。全然固いから、混ぜて柔らかくして欲しいと。「「分かった」」と頷くリック料理長とマテウス副料理長にそれを任せて、莉奈はブラックベリーを切る事にする。
苺バターだから、苺を入れない事には始まらない。
「ブラックベリーをどうするの?」
ラナ女官長が横から覗いてきた。慣れてはきたけど、本当に皆はやる事なす事が気になるんだなと思う。
「みじん切りにする」
大雑把なみじん切りでも問題はない。ぶつ切りでない限りは平気だ。たぶん皆も食べるだろうから、多めに作る予定。
支給品の砂糖ではなく自分のハチミツだから、多めに作れるし。本当ならハチミツではなく練乳を入れたいところ。その方がガッツリ甘くてクリーミーなんだよね。
メープルシロップにすれば、また違った香りがする苺バターになる。好みの問題かな。
それも、面倒なら苺ジャムで作れば簡単だ。新鮮な苺で作った方が断然美味しいけど。
「こんな感じでどうかな?」
とリック料理長が混ぜたバターを見せた。白っぽくなってクリーム状になっている。
「いい感じ……で、ブラックベリーと混ぜる」
莉奈は泡立て器を受け取り、それに付いたバターも勿体ないのでヘラで落とす。そして、たった今切ったブラックベリーを混ぜてもらった。
「へぇ~ブラックベリーとバターを混ぜるだけか」
マテウス副料理長が、感心した様に頷き、同じ様にブラックベリーを入れてざっくり混ぜ始めた。こんなに簡単だとは思わなかった様だった。
「簡単でしょ?」
「「ああ」」
と話ながらも出来上がった苺バターを、小瓶に次々と入れていく。このまま出来立てを食べてもいいけど、1度冷やしてからの方が味が締まる気がするので、冷やす事にする。
皆がすぐに食べたそうな顔をしているから、シュゼル皇子の作ってくれた冷凍庫に入れておけばいいかな。ガーリックバターを作っている間に冷えるだろう。
「ボウルに残ったのは!?」
と誰かが嬉々として声を上げた。莉奈は小さく笑っていた。だって、絶対に誰かが言うと思ったし。
「食べてもいいけど、少し冷やした方が美味しいと思うよ?」
「「「分かった!!」」」
ん? 分かった……って言った人数が多いけど、大丈夫なのかな?
ボウルにそんなには、へばりついてないと思うけど……。
……うっわ~。モニカが率先してパンを用意し始めたし……。
モニカさ~~ん?




