172 笑顔が重い
甘味……いわゆるスイーツは、面倒くさいから今は作りたい気分ではないんだよね。また今度でイイですか~?
……と言える感じではない。
シュゼル皇子の笑顔という名の圧が、半端ないんですけど。ま・さ・に・重圧!!
「何が作れますか?」
シュゼル皇子が満面の笑みで訊いてきた。
普通 "笑顔" って人を癒すものだと思うんだけど……。
この人……笑顔で人をコロセそうですけど?
「……えっと」
「えっと?」
シュゼル皇子の笑顔が、さらに深くなった様な気がするのは、気のせいだろうか。莉奈は顔がひきつりそうなのを、必死で抑えていた。作る事を前提に、話が勝手にドンドンと進んでいく恐怖。
こういう感じで、色んな交渉をしていくのかもしれない。宰相様まじコワイ。
「簡単な……」
「簡単な?」
「苺バターでもお作り致しましょうか?」
莉奈は、色々なレシピをものスゴい勢いで頭を巡らし、とにかく簡単に出来る物を選んでみた。
ここでショートケーキなんかにしたら、スポンジ生地から作らなければならない。技能のお陰で目分量で出来るにしたって、混ぜたり焼いたり超が付くほど面倒くさい。
それでも作り始めたら面白いからイイのだけど……。今は作りたい気分ではない。
「「「苺バター?」」」
その言葉に、シュゼル皇子だけでなく、エギエディルス皇子やゲオルグ師団長達も釣れてしまった。
「バター同様にパンに塗ると、甘くて美味しいですよ?」
言葉で説明するのは難しいけど、苺の酸味とバターの甘さで美味しい。
母親と弟はこれが大好きで、苺の季節には必ず朝食にパンとコレだった。ジャムより美味しいって2人のお気に入り。
「いつ出来ますか?」
と嬉しそうにニッコリ。
「いつ……」
シュゼル皇子の笑顔という名の圧力に、若干顔がひきつるのを抑えるのが大変になってきた莉奈。
確かに作るのは簡単ですけど……何ですか? その圧力。期日とか時間とか、正確に伝えとかないといけないのかな?
どうにかして欲しいとフェリクス王を見たら、呆れ果ててこちらを見もしなかった。
「えっと……夕食までには出来ますよ」
待っても助けは来ないので、いつまでに作るかを伝えた。まぁ、1時間もかからないからいいけど。ただ、モニカ辺りに見つかったらスゴく面倒くさい。
「楽しみにお待ちしておりますね?」
「…………はい」
シュゼル皇子の笑顔が、ドシンと莉奈を押し潰していた。何かをした訳ではないのに、なんでこんなに疲れるのだろうか。
「陛下には、ガーリックバターでもお持ち致しましょうか?」
同じく疲れているだろうフェリクス王に、莉奈は別の物を作ってあげようと思った。甘い物はキライだから苺バターなんていらないだろうしね。
「「「ガーリックバター!?」」」
なのに食いついてきたのは、王以外だった。
皆さん……落ち着いてくれませんかね?




