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(51)大隊長と底抜け姫とボク

「王国軍は」

「「「「「「「最強! 最強!」」」」」」」

 外ではアルトゥール大隊長の命令で、騎士、兵士たち(決闘騒ぎのギャラリーたち)が一緒になって走っている。因みにどれだけ走れば終わりになるのかは未定である。

 そんなBGMの中、王国騎士団のシュラノ・アルトゥール大隊長は、姿勢よく紅茶を(小指を立てて)飲みながら、ことの顛末を聞いた。

「……クロムウェル君」

「は、はい」

「私は君の父上から君の事をよろしく、と頼まれていてね。だからまだ従士ですらない君の騎士団への立ち入りを認めている。それを婦女子と決闘騒ぎを起こすとは、嘆かわしい限りです」

「……はい」

 鉛でも飲み込んだかのような顔で落ち込むセザール。

「決闘は良い。男は強くあらねばならぬし、退けぬ時もある。しかしそれは婦女子を守るために使わねばならぬ。それを年下の女子に暴力を命じ、あまつさえ負けるなど情けないことです。それではお父上の後を継ぐなど夢のまた夢」

 セザールの顔は、絶望に染まり、その目に涙が浮かぶ。

「ちょっと待ってよ! そんな言い方ってないじゃない! 強いものが弱いものをいじめちゃダメ。それはいい。でも年下だろうが女だろうが勝負は勝負で、勝ち負けは時の運じゃない」

 アリーシャが思わずアルトゥールに噛みつく。

「君も先ほど同じように言っていたと記憶していますが?」

「リーはいいの、勝ったんだから。負けたセザールに言う権利がある。でも他の人はダメ。戦ったのはセザールなんだから、戦わなかった人は勝ち負けのことをどうこう言っちゃダメ」

「おまえ……」

 涙の浮いた目で、なぜか熱い視線をアリーシャに向けるセザール。

「……ふむ、一理ありますね。貴方が男であったならば貴方の言う通りでしょうが、」

「それがおかしい、ビシィ!」

 と言いながら指を突き付けるアリーシャ。その指をニナが、失礼にあたりますから、と手を添えそっと下ろさせる。

「戦うのが嫌いな男性だっているだろうし、逆に得意な女性だっているかもしれない。やらせもしない内から男だ女だって決めつけないで。だいたい魔力量の男女差なんてないし、魔法構築速度もそう。基礎体力を除けば戦いに男女差なんてないじゃない」

「しかし戦場に女性を連れて行くといろいろ問題が出るのもまた事実」

「それは男のモラルの問題で女性のせいじゃない!」

「むう」

 戦場では【穿貫(ペネトレイト)】と呼ばれる伝説級の鬼神も、六歳児に説得されそうになっていた。

「……言葉を差し挟んでよろしいでしょうか」

 控えめにニナが申し出、アルトゥールが頷く。

「クロムウェル様の責は、護衛の方に命じてアリーシャ様に暴力を振るおうとしたことと、その罪を護衛の方一人に負わせたこと。その点についてはアルトゥール様からご指導いただきたいと存じます」

「うむ、それには私も思うところがある。しっかりと灸を据えてやろう」

 静かな老人の言葉にセザール他、取り巻き達も震えあがる。

「決闘の勝敗については、相手が女性だから、というのは別として負けたのだから鍛えなおす、とされてはいかがでしょうか?」

「わかった。『女に負けた』という言い方をするな、ということだな」

「はい。アリーシャ様、如何でしょうか?」

 出過ぎた真似をした使い魔が恐る々々、主を窺う。

「あい。リーの言いたいことはそれです。ニナ、さすがです」

 破顔するアリーシャにニナもホッとしたような笑顔を浮かべ、そっと手にした書類をアリーシャに見せる。

「あ、そっか」

 すっかり忘れていた目的を思い出すアリーシャ。

「アルトゥール大隊長。決闘の件はここまででいいですか?」

「よろしい。では本日お越しいただいた用件の話をしましょうか。お前たちは退出してよい。あ、いや待て、クロムウェル君だけは残れ」

 護衛も残ると言ったが、機密に関することだ、とセザール以外は追い出す。

「あの、俺はいいのでしょうか?」

「よく聞いておきなさい。では姫、お願いいたします」

「あい」

 文方のミスで戦争中の王の軍への補給物資が滞っている。それを現在アリーシャが見直しを行っていることを説明する。

「お前が補給の見直し?」

 思わず口に出たセザールが、パシン、という音と共に後ろにひっくり返る。

「黙って聞きなさい」

 詠唱をした様子もないアルトゥールと額を抑えて、はい、と小さく答えるセザール。

「失礼、続けてください」

 かっこい~、と羨望の視線をアルトゥールに向けていたアリーシャは、心なしか嬉しそうに説明を再開する。

 ある程度物資の動きが分かってきたので、その量や頻度が適正か判断するために、部隊の規模や一般的な消費量を知りたいと説明する。

「話は分かりましたが、部隊は広く展開しています。説明が煩雑ですな」

 その答えを予想していたアリーシャはニナに地図を出させ、机の上に広げた。更に部隊を表す駒や物資を表す駒を並べ始めた。

「なるほど、これは便利だ。このようなものを作り出す魔法があったとは」

「ごめんなさい、魔法じゃなくてリーが木を削って作りました」

 神殿には内緒にしておいてくださいね、と笑う底抜けと、予想もしなかった答えに目を見開く大隊長。セザールは目をキラキラさせて地図と駒を見入っていた。

 各部隊の規模、人数、構成を聞き取り、メモを取り、部隊が分割、統合される度に規模を表す駒の数を動かし、地図の上を移動させ、物資の流れも駒で表していく。

 そうしていくと軍全体の動きが自然と頭の中でイメージできるようになっていた。

「……これはいい。姫君。この地図と駒、お譲りいただけないか?」

「今は補給の確認のために使ってますから持って帰ります。地図はそちらで準備してください。駒は改めて作りますし、何なら石を使ってもいいわけですから」

「いや、これからも使いたいから、きちんとした駒を作っていただきたい」

「あい。あ、作るときに声をかけますから、誰か寄越してください。その人に作り方を教えます」

「わかった」

「立候補します!」

 目をキラキラさせたセザールが、直立不動で申し出る。

「……わかったから、座っとれ」

 興味を持った子供の我がままに老人は表情を変えずにそう命じるが、目元がわずかに緩んでいた。

「ありがとうです。大体わかりました」

「いや、こちらこそ礼を言う。改めて現在の軍の動きを確認できた」

「今度、文長(ふみおさ)に提案してみますが、文方(ふみかた)と騎士団一緒にこうした確認の場を作ったらどうかな?」

 姫の提案に少し考えこみ、文方とは仲が悪いからのぉ、と少し及び腰のアルトゥール。

「……だが、そうした方が良いのは間違いないな。こちらは異論ない。文長へは?」

「リーから説明します。今の調査が完了したらその報告をするつもりです。それに一緒に出てください」

 本題も終わり、少し弛緩した空気が流れたところにニナがお茶のお代わりを置く。

「正直、底抜け姫がいらっしゃるというので、騎士団では少々揉めましてな」

「やっぱり、穢れる、って?」

「ええ。それに騎士や兵士、戦場に出るものは験を担ぐものですからな」

 そんな感じじゃなかったけどな、と先ほどの決闘騒ぎなどを思い出してアリーシャが問うと、

「あー、特に問題のありそうな連中は現在、外で訓練中でしてな。その采配で約束の時間に遅れてしまい、申し訳ない」

「そういう事情だったんですね。ごめいわくおかけしました」

 アリーシャの言葉に、セザールが立ち上がる。

「発言をお許しください」

「もう本題は済んだ。自由にしろ」

 アルトゥールの言葉に、はい、と応じ、

「アリーシャ姫。俺は貴方が王国の財をネコババしてると聞いて、父上が戦場で戦っているのにって思うと許せなくって、失礼なことを言いました。ごめんなさい」

 セザールの言葉にきょとん、とした顔を見せるアリーシャ。しかしその顔は見る見る綻び、にこぉ、と破顔する。

「ありがとう、セザール。解ってくれて嬉しい」

 アリーシャの笑顔に、セザールの顔がみるみる赤くなり、思わず、

「アリーシャ。大きくなったら結婚しよう!」

 パシン、という音と共にセザールがひっくり返る。

「少し頭を冷やしなさい」

 紅茶を飲みながら、アルトゥールは静かにそう告げた。


 それからちょくちょく騎士団にアリーシャとニナが訪れ、運動したり、奇妙な踊りを踊る姿が見られるようになっていた。

 憎々しげに見るものもいたが、ニナがやんわりと追い返したりして大きな問題にはならなかった。

 また、クロムウェルの若様からアリーシャに(もうすぐ冬だというのに)花が届くようになり、母親は、きゃーっ、と歓声を上げ、下の姉は、わたくしが見定めます、と妙に張り切っていた。

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