(43)審議
八歳から十四歳の六年間に渡り少女に加えられた暴力(性的なものを含む)の加害者六名(男三名、女三名)に対する神殿法に基づく告発が、グリゴリ王が第三姫アリーシャの名において神殿に為されたのはおよそ一月半前。
二週間の予備審議の末、告発書が受理され、六名に対する告発状が発行され、そして本日、告発内容に対する審議が行われることとなった。
場所は王都の分神殿内の礼拝所。告発側、被告発側の関係者の他、傍聴人席には多くの人が詰めかけていた。
巷で話題の【底抜け姫】を見るために市民が、被告発者に豪族の縁者が含まれていることから、それを擁護したい豪族関係者が集まっていた。
告発者席に六歳の女の子が座っていることに多くの者が驚く。底抜け姫の名で告発されたといっても名義だけで、審議には代理の者が立つと誰もが思っていたことと、神殿内に【底抜け】が居ること、この二つの意味で予想を裏切っていた。
議長役は王都本神殿の神官長が今回執り行うが、その背後、一段高くなった席に、明らかに格下に見える若い神官が座る。
「ではこれより審議を開始する」
議長は背後の若い神官に審議の開始を指示する。神官は秩序の槍を握りしめ呪文を唱え始める。
「【審議】」
聖具を触媒に、第一種神官免許を有する神官だけが取得可能な特殊魔法を唱えると、神官を中心に魔力が広がり、礼拝所全体を覆った。
--フィールドに似ているけど、ちょっと気持ち悪い
まるで頭の中に侵入してくるような生ぬるい魔力にアリーシャは不快げに顔をゆがめる。周囲を見ると同じような反応を示す人もいれば、まるで気にしていない人もいた。
「始めよ」
半分トランス状態と見られる若い神官の声に議長は頷き、告発者に説明を求める。
告発者であるアリーシャは、ほとんど手元の資料を見ることなく、滔々と六名の罪状とその証拠を示して行く姿に、議場のほぼ全員が目を見開く。
告発された六人の側もそれに反論、特にニナの書いた宣誓書が反論の論拠となったが、それ自体拷問の末強制された偽の宣誓書であることが既に分かっていたため、反論の論拠となり得なかった。
そのため告発への反論はニナの個人攻撃並びに【底抜け】であるアリーシャへの攻撃に変わっていき、議事が滞りがちになってきた。
「そもそも【底抜け】がなぜ神殿内にいる! 神への不敬だ、追い出せ!」
そうだそうだ、と傍聴人席の豪族縁者やその取り巻きが騒ぎ立て、議長も抑えきれない。
「どっちが不敬だよ、神殿内で騒ぐなよ」
傍聴人席から上がった声は、偶然にも騒ぎが途切れた瞬間に発せられたため、議場中の視線を集めた。
「あ、やば」
メモ帳を持った黒髪の女性が、慌てて小さくなるが、腕っぷしの良さそうな有力者の取り巻きが威嚇し始める。
「お嬢さん、隣が空いてるかな?」
席を詰めてもらって、その女性の隣に身分の高そうな壮年の男が座り、威嚇の視線を向ける者たちをにらみ返す。
「なんだ。私に何か用か?」
周囲の市民たちも豪族関係者たちを睨む。人数だけなら市民たちのほうが多いし、身分の高そうな男が味方に付いてくれたため、安心して豪族たちに反抗的な態度を示せる。
そこに議長が審議の進行を妨げるものは議場から退場させる旨を改めて宣言し、審議を再開させた。
結局、碌な反論が為されることなく、審議は終了した。
「以上で審議は終了です」
議長が背後の神官に最大級の礼で首を垂れると、半目の神官はすぅっと軽く息を吸った後、
「フランク・ストーン。ニナを被害者とする暴行、脅迫、強要、強制性交、若年者への性交……以上二十三項目の罪により有罪とし懲役九年」
更に罰金(神殿に支払う)と補償金(被害者に支払う)が示され、他五人にも同様に罪が読み上げられていく。
男二人はフランクとほぼ同じで懲役八年。女三人は特に主導的であったパオラ・ウルケルが懲役五年、他の二人が三年となった。
懲役刑は領主(この場合は王国)が執行し、多くの場合は強制労働となる。
判決を聞き豪族たちからは嘆きの叫びが、市民からは歓声が上がった。
「バッコ卿、ありがとうです」
傍聴人席で市民を守ってくれた壮年の男性にアリーシャが礼を言う。
「なに、私自身が良かれと思ったことをしたまでですよ」
アーノルド・バッコ騎士卿は厳つい顔に似合わぬチャーミングなウィンクで答える。
「助けていただいてありがとうございました」
審議中、一生懸命にメモを取っていた女性が、慌てて立ち上がって礼を言う。
「ちょうどいいタイミングだったね」
アリーシャが笑いかけると、まったく、とその黒髪の女性も笑う。ふっとアリーシャの視線が彼女のメモ帳に止まる。随分と一生懸命に審議中の書き物をしていた。
「ああ、これ? 仕事半分、趣味半分よ」
彼女は名刺を二人に渡した。
「『両翼の魔法』新聞社のマーサさん?」
「そ。まだまだ発行部数の少ない新聞社だけど、王都じゃ二番目よ」
ま、二社しかないんだけどね、とからからと笑う。
「でも女に記事を書かせてくれるのは在りがたいからね。頭カッチコチの『真実の秩序』社には負けてられないわよ」
「あの子は私が育てます!」
女記者との会話は、ニナの叫びに中断させられた。




