(39)冒険者たち_2
「ちぃ、あの脳筋め」
アストリアスは前線を把握するため、自らも前に出ながら、各パーティーに支援魔法と指示を出していく。
「嬢ちゃんが暴走した。真っすぐBOSSに殴り込みやがった」
「オウ」
「ヤルー」
「イチバンヤリトラレタ!」
「オレタチモイクゾ」
「黙れ、脳筋ども。ジャック、ボードウェン、パパゲーノ、ザコ共の釣り出しを続けてくれ。ダービデ、ビクトル、あのじゃじゃ馬をフォローしてくれ。俺も前に出る」
聖属性の防護と肉体強化魔法を唱えたアストリアスは飛ぶように森を駆けていった。
この【魔蟲の黒森】のBOSS、【巨大不死芋蟲】は直径2m、長さ10mを超える巨大な黒い芋虫で口腔の周りには沢山の触手をうねらせ、狼たちに襲い掛かった。
触手には麻痺の効果があるため、麻痺が利かない精霊狼である風狼、土狼、水狼が囮となり、炎狼とメイド二人がBOSSの取り巻きの排除、そして魔狼を護衛につけたヴァージニアが、
「いやぁぁぁぁぁ!」
と槍でBOSSの腹に一撃を加えた。
BOSSの周囲の草花や植物は枯れはてているため、小さな広場になっており、蟲の群れと狼の群れの戦いは混戦の様相を見せていた。
しかしヴァージニアのフィールドが広場を覆っているため、19頭の狼はまるで一匹の生き物であるかのように互いにフォローしあいながら数に倍する敵と互角の戦いを演じていた。そこに、
「【聖なる矢】」
「【炎の槍】」
「【厄祓い】」
「【聖域】」
後続のパーティーとアストリアスが参戦し、形勢は一気に傾いた。
「【魔槍乱舞】」
高速で槍を突き出すヴァージニアの武器魔法が黒芋虫の腹に決まり、ついにBOSSはその動きを止めた。
* * *
ゴチッ
「あいたぁ」
アストリアスの拳骨がヴァージニアの脳天を打ち、少女の目に涙が浮かぶ。
「ちょっと、レディにひどくない?」
「ひどくない。お前のせいで無駄なリスクを負ったんだ」
「私を誰だと思ってるの」
「お前の親父が誰だろうと関係ない」
「……でもその分早く討伐できたでしょ?」
無言で拳を上げるアストリアスに、ヴァージニアが思わず頭を押さえる。
「被害が無かったからまだいいが、無駄なリスクを負ったのは他のメンバーだ。お前のせいで仲間が死んでも、そんな風にへらへらしているのか?」
その言葉に表情を改めるヴァージニア。
「……冒険者は自己責任でしょ? わたくしのせいって誰が決めるのよ」
「責任の有無を決めるのは周囲とお前自身だ」
「わたくし自身……」
少女の耳に、または脳に“周囲”という言葉はスルーされたらしい。
「……そうね、二人には指示したけど、他のレイドメンバーにも作戦の変更を伝え無かったのは失敗だったわ」
「おい」
そうじゃねぇだろ、というレイドリーダーの言葉もまたスルーされていた。
「わたくしの行動で全体の作戦行動を乱してしまいました。申し訳ありませんでしたわ」
優雅といって良い仕草でヴァージニアはメンバー全員(アストリアス除く)に謝罪し、苦笑されながらも、その謝罪は受け入れられた。
「俺への謝罪はないのかよ!」
「レディに暴力を振るうような男に謝罪の必要はありません」
ぷぃっと顔を背ける様子に笑いが上がる。
「それはそうと、嬢ちゃん。ラストアタックはアンタだ。みんな期待してるんだから早く剥ぎとってくれよ」
仲間の言葉にヴァージニアは生贄の短刀を取り出し、黒い巨大芋虫の屍骸に突き立てると、その場に数多くのドロップアイテムが転がり落ち、歓声が上がる。
BOSSは魔法の品や珍しい装飾品、特別な魔法に使用する貴重な触媒や魔力結晶などをドロップする。一品ものも多いため【適正化】されてしまうインベントリ収納を避けて、手持ちのバッグで回収していく。
取り巻きのザコにも次々と短刀が突き立てられ、ノーマルドロップはインベントリに、レアアイテムは手持ちと分けて回収していく。その判断もまた冒険者の経験だ。初心者がビギナーズラックで手に入れたレアアイテムをいつもの癖でインベントリに仕舞ってしまい、ノーマルアイテムになってしまった、等という悲惨な笑い話は枚挙に暇がない。
一通りのアイテム回収と傷の手当てを終えた一行は、騎乗用の魔物を召喚し、クピドの町へと帰路についた。
* * *
ドロップアイテムは一度金額(マナ貨)に換算されてから、均等に分配される。良いアイテムを手に入れたものは金額が少なく、アイテムを受け取らず金だけ受け取る者もいる。この辺はそれぞれの懐事情と考え方による。
ヴァージニアは珍しい装飾品と、召喚強化アイテムで散々迷った末、自分の貯蓄を切り崩して両方入手し、ホクホク顔であった。
生活のために冒険をする他のメンバーとしてはマナ貨が手に入るのはありがたいので特に異論は出なかった。
ドロップの分配後、クエストの完了報告を行うとステータス画面のマナ貨表示が成功報酬分(一般家庭の生活費一か月分に相当)が増加した。これでレイドパーティーは解散となる。
「よっし、後は」
「「「「「宴会だ!」」」」」
今日、一番冒険者たちの足並みがそろった瞬間であった。
* * *
「昨日の話の続き、聞かせてくれる?」
一人で飲んでいたアストリアスにヴァージニアが話しかける。その位置関係は昨晩と同じだ。
「……なぜ聞きたい」
「知りたいから」
「なぜ」
「知ってるくせに」
深い溜息を吐くと、神官は重い口を開いた。
「俺じゃない。俺にはあの姫君の底を抜くなんてできない」
かつて王の第三姫アリーシャの底が抜けた場に居合わせ、その治療に尽力し、大神官の秘蔵っ子と呼ばれた男は、あの日のことを少女に語って聞かせた。
「自ら底を抜いた? 一歳にも満たない赤子が?」
「おかしなことを言っているのは判っている。そうだと言っているわけじゃあない。それしか考えられないだけだ」
少女はしばし無言であったが、インベントリと鞄から二つの物を取り出した。
「なんだ」
「情報料よ」
一つは魔力結晶。簡単にポンと渡すようなものではない。一財産だ。
そしてもう一つは紋章が描かれサインの入った羊皮紙。
「……こっちだけもらっとこう」
「ダメよ、両方セット。いらないなら捨てればいいわ」
魔力結晶に手を伸ばした神官の手をやんわりと遮りながら少女はささやく。
神官が両方を懐に入れたのを確認してから少女は席を立った。
* * *
「ふうん、アリーシャ……ね。最近はバルバラもご執心らしいし、ちょっと興味が沸いてきたわ」
グリゴリ王の第一姫にして王の名代として各地の豪族へのあいさつ回りに出ているヴィルジーニア姫は、そっと呟いた。
ヴァージニア:英語
ヴィルジーニア:独語
明日も投稿予定




