(32)ストーン家
不快な表現、女性への暴力などの描写があります、ご注意ください
富裕街に立つその屋敷の門柱傍に作られた止まり木に三羽の使い魔が留まっていた。
屋敷に掛けられた結界に阻まれ、予め登録された使い魔以外は中に入れないため、こうして外に使い魔溜まりが作られている。
三羽のハトはフランクと従士の男、それにメイドの一人に反応していたため、この屋敷内に三人がいることは間違いない。
「こちらはストーン家のお屋敷だそうです」
メイドのアンブロージアが近くで聞き取りをしてきた。
「フランクはともかく、更に二人もいるとなると、当たりかな?」
「告発されて、対策会議に集まった、という可能性もありますが」
用心深いのか、ネガティブなのか、フェードルが誤りの可能性を指摘する。そもそも今回のように会ったことのない相手に使い魔を飛ばすなど、彼の常識の範疇を超えていた。
アリーシャが魔力を広げて周囲を探知する【フィールド】を展開するが、屋敷の結界に阻まれて中を窺い知ることができない。
「ま、当然か。アンはここに残ってジョーや兵士たちにここのことを伝えて」
「それは判りましたけど、アリーシャ様はどうするんですか?」
少し考えてからアンブロージアにいくつかの指示を出してから、
「じゃ、いこっか」
街路と屋敷を分かつ門を開け、数段の階段を上がってドアノッカーを叩……
「と、届かない。フェードルさん、叩いて」
しばらくすると、若い女使用人が現れ、胡乱な視線を向けて用向きを尋ねてきた。
アリーシャがフランク・ストーン並びに従者とメイドの名を出して面会を求めた。合わせてさりげなく開かれた扉に一歩足を踏み出し、屋敷内にフィールドを伸ばしてニナを探す。
背後ではその様子をかなり安全距離をとった位置で、アンブロージアがハラハラと見守っていた。
しかしメイドは突然のことに困惑して、ダメです、居りません、と慌てて扉を閉めようとする。
「こちらに誘拐された少女が運び込まれたという証言もあるのですよ」
我慢しきれずフェードルがハッタリをかます。するとメイドは予想以上に露骨に狼狽し、ダメです、帰ってください、と乱暴に扉を閉めようとする。
「何を騒いでいるのですか?」
揉め事の雰囲気に全く頓着しない温和な口調で、中年女性が声をかけてきた。
「奥様……」
メイドは安堵の表情を浮かべ……ずに、泣きそうな顔になってしまった。
「ストーン家のメイドともあろう者が、お客様相手にそのような態度ではいけませんよ。旦那様にオシオキしていただきましょうか?」
メイドは泣きそうな顔から、泣き顔に変わり、申し訳ありません、と土下座せんばかりに謝りだした。
「失礼、ストーン夫人? こちらに女性が連れ込まれたとの通報がありまして」
フェードルが先ほどのハッタリ設定をそのまま続けて言うと、
「ああ、ニナさんね。来ておりますよ。さ、こちらへどうぞ」
と、柔和な笑みを浮かべ、あっさりと二人を招き入れた。
顔を見合わせ頷き合った後、アリーシャとフェードルの二人はストーン夫人に続いた。
扉が閉まる直前、アリーシャが一瞬振り返り外を見ると、不安そうなアンブロージアが大きく頷いていた。
* * *
ワナかな?
たとえ罠でもニナ嬢の無事を確認するのが先決です。
コソコソと話しながらアリーシャは屋敷内に魔力のフィールドを広げたが、いくつか中を見通せない部屋(私室など)があり、ニナの存在を発見できなかった。
そんな中を見通せない部屋の一つ、その扉の前で夫人が立ち止まり、ノックをする。
「旦那様。お客様のお連れ様が御出です」
夫人が返事を待たずに扉を開ける。扉に隙間ができた途端、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
魔法で遮断されていた室内の音が解放され、ニナの悲痛な叫びが辺りに響いた。
扉を無理やり押し開け、踏み込むアリーシャとフェードル。夫人は普通に客人にするように頭を下げてそれを見送っていた。
窓がなく、壁一面に棚を備えたその部屋の床で、ニナが痙攣したように身体を震わせていた。必死でそのお腹を庇っているが下腹部からは羊水と血が溢れている。
朗らかな笑みでそれを眺める中年男と、傍らに立つ一組の男女。それに壁際で顔を青くする四人の男女の姿があった。
「【治癒】を!」
「心得てます!」
アリーシャの言葉にフェードルがニナに駆け寄り、男とニナの間にアリーシャが立つ。
そこで初めて男は乱入者の存在に気づいたように顔を歪めた。
「なんだお前は」
「グリゴリ王の第三姫アリーシャ。ニナに何をした!」
能面のような無表情でアリーシャが男を睨む。
「【底抜け】か。【底抜け】風情が私に喋りかけるな、汚らわしい。おい!」
中年男、エドワード・ストーンはつかつかとアリーシャたちを案内した夫人に近づき、その胸倉を掴んで数度平手打ちを浴びせた。
「勝手に汚い【底抜け】を家にあげやがって」
力いっぱい叩かれた頬は内出血でみるみる色を変え、鼻血と口からも血を垂らしながら、ストーン夫人は柔和な笑みを浮かべ、丁寧な所作で、失礼しました、と頭を下げた。
その視線はやはりどこも見ていないようであり、フランク、パオラを除く男女四人はその様子に更に顔を青くする。
まったく、【清潔】魔法を大々的に行わなければ、と睨む幼女、絶叫する少女、顔を腫らした妻、緊張に体を固くする息子と姪、怯える男女らの視線を受けながら、エドワードは部屋の掃除のことをぶつぶつと思案していた。
「姫、だめだ。これは怪我じゃない、毒だ!」
「失礼な事を言うな!」
フェードルの言葉にエドワードが突然激昂し、今度はフェードルの胸ぐらを掴む。
「彼女には薬を飲んでもらっただけだ。彼女は無事帰すと約束したからね。彼女は無事だ。それを毒だなんて~!」
喋りながら段々テンションが上がっていくエドワード。フェードルは掴まれた手を振りほどくが、エドワードは気にせず喋り続けている。
「ニナに何をした!」
強圧な魔力を周囲にまで広げながら、アリーシャが怒鳴る。
「堕胎薬を飲ませただけさ」
ニナの絶叫が上がる。
更新日設定間違えて明日にしてた。修正して19時投稿




