24話 大手通信会社社員、短い平穏と裸の幼女
一話抜けてました……。
さて、電話開発も一旦落ち着いた。とりあえず毎日夜な夜な実験する日々は終わりを告げる。
そうそう、電話料金に関してだけど一旦保留してある。
使ってみてからお値段のご相談はしましょうと伝えてある。
メッセージボックスの時も思ったけど、電話に関しても僕とアムだけでは実現できなかった。
タルムン商店の皆様のご協力とご尽力あってのこその実現だ。
そんなわけで……あんまりお金を頂くのは気が引けてしまう。
だから使ってみてもらってから、料金を決めてもいいかなって思う。
試用期間ってやつだね。あと相場が無いので決めづらかったってのが本音だ。
「デンワ……いっぱい使ってもらえるとイイネ」
「うん……そうだね」
役に立ってほしい。かなり頑張ったし。
まずはタルムン商店で利用回線が増えていけばいいなあ。
通信したい場所はたくさんあるって言ってたし。
増設はしやすいと思うんだよね。コストの大半はパイプ代と人件費。
特に電線がいらない点は重要だ。
魔法電話は魔力を飛ばして通信する。二拠点間を発射された『譜面玉』が行き来するので、物理的な線が必要ない。これはかなり大きい。
ソロモンシティには電線が無いから(そもそも普段使用する電気が無い。ラジオも無え)、いきなり電線を張ったりしたらどこかから苦情が出てもおかしくない。
インフラ構築するために大規模工事や、役所関係に許可が不要なのは大きな強みだ。
だけど一つだけ大きなネックがある。それがアンチマジックウィドーの糸だ。
この糸が中々の一品で、パイプのカーブ部分全てに利用したいぐらい相性が良い。
なんだけど、アンチマジックウィドーの糸はソロモンシティでかき集めても大した量にはならなかった。
1回線で大半を使い切ってしまった。
購入や、採取依頼を出そうにもソロモンシティ近郊ではアンチマジックウィドーは生息してないらしい。
なのでタルムン商店でもなかなか大量に仕入れる見込みは立ってない。
尽力はしているみたいだけど、すぐに調達は難しそうだ。どうにかならないものかなあ……。
****
今日はお休みだ。昨日の酒が少し残っているので休みで良かった。
電話も一旦落ち着いたので、今日は本当の休日だ。思いっきりのんびりしよう! と思っていた。
いやあ、朝のコーヒーが美味い。穏やかな一日になると……思っていた。
今思えば、こんな質問しなければ良かった。
「いや~、アンチマジックウィドーってどこにいるんだろうね?」
アムはパンケーキを食べまくっている。痩せの大食いだなあ。
「んにゃ~?? どっかで見たかも~。どこだっけなあ」
「へ~、そうなんだ!」
「あれ~? あの時かな~? フルフルちゃんと一緒に遊んだ時だった気がする~」
「フルフルさん?」
「多分そうだよ~、よ~し呼んでみよう」
「え??」
止める間もなく、アムは魔力を窓から飛ばした。
「おいおい、大丈夫なの? また怒られちゃうよ??」
「だいじょ~ぶだよ~」
またアムは大剣を持ち、フルフルさんが飛んでくる準備をした。
あ~、なんかビリビリしてるな。今回は機嫌が良いといいな~。
魔法陣が現れる。いや~なんかスゴイよね。雷化移動だっけ?
閃光と白煙の中からフルフルさんが現れる。
仁王立ちだと思われるシルエット。徐々に白煙が収まってくると――
「うええええ!?」
フルフルさん素っ裸じゃないですか! これは倫理的にダメです!
「ハア。お前はいつもタイミングが悪いな」
「フルフルちゃん、服どうしたの?」
「水浴びしてる時に、ミラージュウォーロックに盗まれた」
なんか強そうなモンスター? だな。そんなことより服を着てくれ~。
「あ、アム。服を用意してあげてよ!」
「は~い」
2階に服を取りに行くアム。そして残った、僕とフルフルさん。
仁王立ちしているフルフルさん。素っ裸にカバンだけを引っ提げてるスタイル。
「久しぶりだな、デン」
「え、ええ」
「どうした?」
「いえ……そのぉ」
「しかし……アンチマジックウィドーの糸が欲しいとはどういう事だ?
アムのやつ耐魔防具でも製造るつもりか?」
僕は視界にかろうじてフルフルさんの頭が入るぐらいに調整した。
断じて見てはいない。
「いやあ、僕がちょっと欲しいな~と思ってですね」
「ふむ……戦うのか?」
「いえいえいえ、え~っとですね……」
「『デンワ』に使うんだよ~」
アムが帰ってきてくれた。
お着替えしているフルフルさんと見ないように、ストレッチでもしよう。
今日は首が凝っているな~。ゴリゴリ。クルクル。
着替え終えたフルフルさんは、Tシャツに短パンのアムスタイルだ。
姉妹みたいで可愛いな。
「……落ち着かない服だな」
「裸よりいいでしょ」
「まあな。――して『デンワ』とは何だ?」
「待ってて~」
試作機の糸電話を持ってくるアム。
「フルフルはこっちを耳に当てて~」
「ふむ」
「よ~し、いっくよ~」
糸電話をする姉妹の風景を見て和む僕。
声がフルフルさんに届いたんだろう、フルフルさんは受話器ならぬ、受話コップを睨みつけた。
「器が……喋っただと?」
そこから軽く電話について説明することにした――
**
「つまり。モグモグ、離れたところでも会話をモグモグ、出来るようにする装置なのだな」
「そだよー、モグモグ」
「モグモグ、ゴクン。ふむ、念話に近いのか」
「あれはかなり波長の合う魔族じゃないと出来ないでしょ? プハ~パンケーキ美味し~」
「うむ、デンの料理は美味いな」
「はは、ありがとうございます」
パンケーキを食べ終えたので、甘いコーヒーを飲みつつゆったりする。
「なるほどな。それでアンチマジックウィドーの糸が必要なのか」
「そうですね。まあ、時間を掛ければ入荷すると思いますけど」
「アレは、密林のような熱くてジメジメしたところを好むからな。それもかなり強い」
「そ、そうなんだ」
「あれ~? 強かったっけ?」
溜息をつくフルフルさん。
「昔倒した時は、父上が一緒だったじゃないか」
「あ~パパがいたかも~、なんだっけアッチチッチ密林だっけ?」
「――アルチャドッテ密林だ」
「あそこ暑かったな~」
「酸も強い場所だからな、人間では入るだけで溶けていくだろう」
「お、おおう」
怖い場所が色々あるんだね。
「しかし……アンチマジックウィドーか。久々に狩りに行くか」
「アッチコッチ密林まで行くの?」
「あそこは遠すぎるし、あちらに近すぎる。ここからならコーチダルケ大森林でいいだろう」
「そこにアンチマジックウィドーがいるんですね??」
「恐らくな。安全過ぎるから行ったことは無いが」
フルフルさんの安全は確実に僕の危険だろうね。
「ふむ、食後の運動に今から行くか。魔石はあるか?」
「あ、はい」
今、魔石はいっぱいある。タルムンおじいさんに電話の実験用として大量に貰った分が残っている。
「よし……6個貰うぞ」
「どうぞ」
6個となると結構なお値段になるんだけど、アンチマジックウィドーの糸が手に入るならしょうがない。
色々理由があって魔石の販売は禁止されてるからいいんだけどさ。
「それじゃあ先に行くぞ、アム」
「にょ? アタシも行くの?」
「当然だ。アムが欲しいんだからな」
「欲しいのはデンだけど~、まいっか」
「ならデンも連れてくればいいだろう」
「そか、そーしよう」
「へ?」
なんか話の方向オカシイヨ。
「では先に行く。いつも通り飛雷針を立てておく。あと帰りの分の魔石は持って来いよ」
「は~い」
フルフルさんは全身が雷になり窓から飛び出していった。
「じゃ~アタシ達もいこ☆」
いこ☆ じゃないよ……。
「ぼ、僕が言っても役に立たないよ」
「ダイジョブダイジョブ」
「それに……モンスターに襲われたら……」
「アタシとフルフルがいるからダイジョ~ブ」
いつの間にかお出かけ用バックを背負わされる。
「で、でも……」
「ん~、魔石と~、食べ物と~、お水は~あっちでいっか」
聞く耳持ってくれない。どうしよう。
「デン」
「な、なに?」
アムはとびきりの笑顔とウインクを。
「人生、チャレンジ」
「せ、せめて、閉店の看板ぅぉぉぉぉぉぉぉ――」
体が……物凄く引き伸ばされた感じがした後に、物凄いスピードで体が飛んでいく気がする。
そして誰もいなくなった。




