25話 大手通信会社社員、コーチダルケ大森林に降り立つ
音のトンネル? を抜けるとそこは。
「かーみーなーりでしたーー!!?」
目の前には触れれば消し炭になりそうな雷が。
僕は腰を抜かし、逃げるように後方へへたり込んだ。
よく見ると雷はフルフルさんの左手から放出されている。
「遅かったな」
「ちょっち準備してた~」
フルフルさんは雷を仕舞った。
僕は息を整え周りを見渡す。ここがコーチダルケ大森林なのか。
西のダンジョンのように大きな森なんだけど、空気が綺麗で空も見える。瘴気が無いのかな。
「ふむ、初めて来たがやはり強そうな気配はしないな」
「ん~そうかも~」
二人の発言にちょっとだけ安心する。案外モンスターがいないのかもしれないね。
綺麗な空気にはモンスターが発生しないのかも――
「フン!」
急にフルフルさんが茂みに何かを投げつけた。
「ぷぷ、ほっとけばいいのに~」
「下等モンスターごときが我を覗き見するとは、10年早い」
フルフルさんはちょっとご立腹だ。腕を組んで仁王立ち。フルフルスタイルと名付けよう。
「な、なんかいたの??」
「見てみれば~?」
恐る恐る茂みに近づいてみる。
「う、うわあ! これ、これ!?」
「ただの犬だ、狼狽えるな」
「雑魚モンスターだよ~」
いやいや、普通に凶暴そうな犬だよ?
牙は10センチ近くあるよ? 噛まれたら絶対バッドステータスだよ?
「ッチ、警戒されたな。弱い癖にめんどくさい」
「足音消そっか?」
「そこまでする必要ないだろう。さて探索を始めるか。行くぞ! デン」
「はい!!」
僕はアムにぴったりくっついて同行することにした。
怖い……手でも繋いでいて欲しい気分だ。
**
「ね~、場所わかるの~?」
「アンチマジックウィドーは、湿度の高いところに生息していることが多い。
恐らく、糸を作るには水分が必要なんだろう。こっちに大瀑布があったはずだ」
「へえ~、フルフル物知り~」
「アンチマジックウィドーは定期的に住処を移動させる。
生息しているなら、巣の跡が見つかるはずなんだが。
人間は、巣の跡から糸を採取していると聞いたことがあるな」
「へえへえへえ~」
「なるほど~」
コーチダルケ大森林を進むと、少し湿度が上がった気がする。
肌に纏わりつく湿気が涼しく心地よい。
「アム。1度広範囲のエコーを使ってみてはどうだ」
「オッケ~い」
アムは両方の手をパチンと鳴らした。小さな魔法陣が輝いている。
音波で探知してるんだね。
「あった~」
「よし、行こう」
速足で進む2人。ま、待ってくれ~。
**
「これは巣だな。新しいが……」
「なんかおっきくな~い?」
5本ぐらいの大木の間を、糸というか厚手のマフラーみたいな繊維の束が縦横無尽に交差していた。
巣……というか結界に近い。
「うわあ! これだけあれば十分ですよー!」
目の前の素材にテンションが上がる。
2人はそうでもないみたい。
「アム……どう思う」
「ん~~、クモさんの巣ってもっと小さいのがいっぱいあったと思うんだけど」
「その通りだ。こんな馬鹿デカイ巣は見たことが無い」
「後は、この辺……、生き物がほとんどいないよ~」
「――食い散らかした後というわけか。ククク」
「そうかも~」
フルフルさんが嗤ってる。なんか……怖いし、ピリピリしている。
というかパチパチ電気が走ってる。危ない。
僕としては採取だけして帰りたいんですけど……。
「変異した化け物が近くにいるのだな。腕が鳴る。行くぞ!!」
「あ、さ、採取……」
「後にしろ! 行くぞ!」
お宝を前に立ち去るのは悲しいけど、置いてかれたら死んでしまう。
後ろ髪引かれながら2人についていくことにした。
**
「フルフル。いたよ」
アムは指差す方向は少し下った場所だ。なんか空気が重くなってるように見える。
これは……瘴気だろうか?
「行くぞ!」
フルフルさんは瘴気の中に飛び込んでいく。
「デン! アタシ達もいくよ~」
「う、うん!」
坂を下るとアンチマジックウィドーの糸が見える。
先程同様に結界のように木々に張り巡らされている。それも先程より新鮮? だ。糸に艶がある。
「もう戦ってる!」
アムが叫び、僕は辺りを見回す。
「――上か!」
巨木から巨木へと縦横無尽に飛び回るフルフルさん。
「風の力を足にエンチャントしてるんだよ~」
「すげえ」
そして飛び回ってる中心に、黒く光るモンスターがいる。
アンチマジックウィドーだ。
ウィドーってぐらいだからメス蜘蛛だろうとは思ってたけど、顔は非常に女性的だ。
黒光りしたフォルムは非常に硬そうだし、所々に鮮血のような赤い模様がある。
そして体長がデカイ。身長3メートル近くあるのではないだろうか?
そんなメス蜘蛛が8本の鋭い足と糸を使い襲ってくるのだ。恐ろしい。
「怖いね……」
「ん~、前見たやつの3倍ぐらい大きいかも」
「そんなに!?」
「多分、突然変異で大きくなっちゃったのかも。
おっきすぎて、近場の生物全部食べちゃうんだね~、ほら」
アムが指差した先には糸に絡まる獲物たちが。
さっきみた犬のモンスターや、鹿、頭が無くなった生物が無造作に絡まっていた。
「う、うわあ!」
「ぷふふ、デン可愛い~。一応離れないでね。フルフルが一人で片づけちゃうと思うけど」
「うん」
僕はアムの左肩に隠れ、縮こまった。滑稽だなと思う。
でも夢中で戦闘風景を見ていた。
小さいフルフルさんが巨大な蜘蛛相手に戦っている姿は単純にかっこよかった。
僕も戦えるスキル持ちだったらなあと、思ってしまう。
「ガアァァ!」
フルフルさんが吠え、口から雷の玉が飛び出した。
「あ、雷哮弾だ」
雷哮弾がアンチマジックウィドーの顔面に直撃する。
僕なら一撃で消し炭だろう。
だけど、アンチマジックウィドーの顔は歪んでいるもののまだまだ元気そうだ。
「ヴィオオオオオォォォォ!!」
アンチマジックウィドーも負けじと、口から糸を吐き飛ばした。
フルフルさんは余裕をもって避ける。
フルフルさんはアンチマジックウィドーを中心に旋回するように飛び跳ねる。
そして雷哮弾をぶつけまくる。
アンチマジックウィドーは動かない。体は360度回るようでガードはしているものの雷哮弾は全て命中する。
アンチマジックウィドーは焼け焦げていく。ダメージは与えてると思うんだけど……。
「糸が邪魔で攻撃しづらいのかな?」
「ん~そうかも~。雷哮弾は魔法攻撃だから糸は破壊できないし」
なかなかの鉄壁具合だな。
糸の結界で魔法攻撃を散らしつつ、接近すれば鋭い足で攻撃か糸で絡めて身動きを封じる。
あ、糸を飛ばした。ふむ、遠距離攻撃も出来るんだな。
まあ、攻撃は防御に比べれば大したことなさそうだけど。
「そろそろ手伝おっかな~」
アムは背伸びしてストレッチする。Tシャツは張り裂けんばかりに胸を強調した。
「フルフルー! 手伝おっか!?」
大声、というか魔法で音量を上げた声が一帯に拡がる。
ちらとフルフルさんがこちらを見た気がする。
「好きにしろ」
フルフルさんの声が足元から聞こえた。というか足元にいた。
「え!? え? 上にも下にもフルフルさん???」
「あれは、分身体だ」
分身……かっこいいな。
「分身まで使うなんて、結構大変??」
「そうでもないが、時間がかかる。糸は完全魔法防御だが、甲殻も魔法耐性があるようだ。
接近してぶち抜くのが一番早いんだが……」
クイと顎を上にあげ、上を見ろと合図する。
数秒後、分身体が突っ込んだ。
糸をかいくぐり、胸元まで辿り着いた。その瞬間――
「あ!」
分身が弾け飛んだ。ただ、分身は雷になりアンチマジックウィドーにダメージを与える。
「接近すると自慢の足で切り刻むというわけだ。クククやっかいだな」
言葉とは裏腹に楽しそうな、フルフルさん。
「よし、行くぞ! アムなら糸を破壊できるであろう」
「ん~~、結構硬そうだけどなあ~やってみる」
フルフルさんは今まで通り、周回しつつ雷哮弾をぶつける。
周回の円はどんどん小さくなってきている。よりスリリングに。
アムは『音叉爆弾』を投げて糸を壊していく。
『音叉爆弾』は糸を破壊できるみたいだ。
昔言ってたけど、『音叉爆弾』は魔法攻撃には該当しないみたい。
フルフルさんがダメージを与えつつ、ヘイトを自分に集めている。
その間に、アムが糸結界の一角を破壊していく。
このままいけば、結界は崩壊しそうだね。
この2人、やっぱ強いよ。
**
5分後。
かなり追い詰めてきているな。
ただ、アンチマジックウィドーが自分の周囲に糸を張り巡らせている。
自分の周囲に絶対的な結界を張ろうとしているのだろう。
雷哮弾は合間を縫って命中するが、どんどん当てれる場所が減ってきている。
さしずめ糸の繭ってところか。
そんな中アムの『音叉爆弾』はいい感じで糸結界を破壊している。
もうすぐで本体近くへ『音叉爆弾』をぶつけれそうだ。
「へへへ~、ぴょいー!」
『音叉爆弾』は、『とりゃー!』という掛け声で爆発する。
爆発音は変更可能なんだね……。
しかし、これまではずっとフルフルさんが攻撃対象だったけど、アムに攻撃の矛先が移った。
「ヴィオオオオオォォォォッオ!!」
アムにめがけ糸が飛んでくる。アム、華麗に回避!
「へっへ~ん、あったらないよ~」
出来立てほやほやの糸は、ヌメヌメしていてなかなか気持ち悪い。
攻撃対象が移ったので、フルフルさんが超接近していた。
「相手は私だ」
両手の人差し指と親指で三角形を作り、三角を通過するように雷哮弾を放つ。
強化バージョンの雷哮弾だ! 轟・雷哮弾と名付けよう!
轟・雷哮弾はクリーンヒットした!
「ヴィオオオオオォォォォッオ!! グビュオオォ!」
怒ってるな。終幕は近そうだ。
アンチマジックウィドーは糸に次いで毒液のようなものを吐き出し、接近を阻止する。
「フン、仕舞だ」
フルフルさんは、仁王立ちのフルフルスタイルで更に両腕を交差させ構えた。
足元は暴風、上半身は雷が轟く。本気モードってところだろうか。
アムはせっせと『音叉爆弾』で結界を破壊する。
そんな風景が最後に見た風景だった。
(え?)
急に体を浮遊感が支配した。
そして、視界が空に移る。
更に、トンデモナイ速さで引っ張られて、どこかへ飛んで行った。
飛んで行ったのは、もちろん僕の事である。
(どうなってるんだーーー!??)




