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初心者マークの貼られた軽自動車を運転しながら、助手席に座る義妹を見る。
いつものことながら、何の病なのだろうか?
十日にいっぺんくらいに働いている会社から家に帰ってくる父。
その父が、用意する義妹用の薬。
いや、製薬会社かなんか知らんが、ちょっと怖いわと思う。
怖い物見たさに聴いてみたら、『時がくればわかる。』と短く、とても真剣な顔をして言われたのは覚えている。
「リキ兄さん。いつもごめんね?」
「零華が謝ることじゃない。」
「うーん。そうかもしれないけど、こればっかりは謝っておかないと。」
「なぜそんな言い方するんだよ?」
「…時が近づいて来たの…。」
「っ!?」
真剣な義妹の横顔にドキリとしてしまう。
血のつながりがないから、最近は気を緩めると変なことを考えてしょうがない。
特に、夢でそこそこヤバめなのを見たときは、朝のテントが…
っと、そんなこと考えてる場合じゃねーよっ!
今の発言のほうが何かと大事だろう、おい。
時が近づいてきた。
ソレが何の時かはわからないし。
父が言っていた言葉と同じ意味なのかさえ分からない。
ただ、義妹の真剣な表情に。
欲情以外に、何か胸騒ぎを覚えたのだった。
家に帰りつく。
フラフラとしながらも、自室へと向かう零華。
俺はというと、冷蔵庫から麦茶の入った容器を取り出し、自分用のコップにその麦茶を注いで、ソファーに座った。
なんと無しに、テレビをつける。
ニュースかぁ。
まあ、まだ昼のバラエティにも時間があるしな、学校に今から戻っても、もしも妹に何かあったらと思うと、行く気は起こらなかった。
先ほどの発言も気になるしな。
少しからだがだるいな。
「リキ…に…い…さん。」
ん?零華の声だよな。
少し震え気味だが、何かあったのだろうか?
まさか部屋に虫でも?
「どうした?何かあったのか?」
「ある…ううん。起こる、起こすの方が正解かな?」
「なに?…が?」
声に思わず振り返る。
先ほどよりも熱っぽい表情の零華がいつの間にか、ソファーに腰掛けている俺の背後まで近づいていた。
リビングの入り口から声が聞こえたはずなのに、なんと言う身軽さ!
だが、ソレよりも気になったのは…
零華の犬歯はあんなに鋭かっただろうか?
そして、なにより…
零華の両の瞳はあんなにも妖しい赤色をしていただろうか?
わからない、わからないが、自らの背を流れる冷や汗が、何かの警報のように思えた。
零華の瞳に意識が吸い寄せられる。
はは、なんだか蛇に睨まれたカエルみたいな気分だ。
他人事のようにさえ思えるこの時間は唐突に終わりをむかえる。
ゆっくりと口を大きく開く零華。
そして…
「頂きますね…。」
俺の左耳に口を寄せると、そうつぶやく零華。
ぐじゅり
生々しい音が自らの首辺りからした。
そして、意識が暗転したのだった。