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翌朝。

日が昇りきった頃に全員の支度が終わり、さぁ出発しようかと腰を上げた時、ふと見た窓の外側の景色の中、シーリアの腕章を着けた男たちを見つけた。


「バロン」


ドアに手をかけていたバロンに声をかけ、制止する。

何だ、と言うように振り返ったのを見て、顎で窓を指す。


「どうします?」


眉間に皺を寄せたバロンに問う。


「このままあいつらが過ぎ去るのを待ってもいいが、何か尋ねながら道を進んでいるしな……。

ここに来られても困る」


「ですね。

じゃあ……、」


バロンは騎士に知られているし、ティルとカルアは騎士に狙われているので易々と晒すわけにもいかない。

シルラも元騎士ですからそろそろ顔が割れているでしょうし、コトハ家族にあいつらの処理を任せるには心許ない。ルカと同じく彼らだけでは気を引けないでしょうし。

ワタシなら情報屋として知れていますし、カルアたちとの接触もまだバレていないはず。

ただ、一人で行くのはちょっとねぇ……。


というわけで、


「ルカ、行きますよ。

バロンたちはあいつらが見えなくなったらここを出てください」


「お前らは?」


「適当に撒いたらそっちと合流しますよ。

ナガルだかナカズだかの居場所なら大体見当付きますし」


そう言い捨てて、ルカの腕を掴んで外に出る。

子守りは任せた。





丁度騎士たちはこちらに向かってくる途中で、ワタシの顔を見て目を見開いた。

その横を何食わぬ顔で通り過ぎようとしたところで、


「お兄さん、」


声を掛けられた。


しかし、聞こえてないふりをしてルカと商店街のものを物色しながら歩いているように装う。

ここは活気のある商店街なので賑わっていますし、お兄さんならいくらでもいますから。

ワタシが反応してしまえば、始めから声を掛けられることが分かっていたみたいでしょう?

あ、ルカの腕は酒場を出た時点で離してますから。


「お兄さん、」


今度は少し大きな声で呼ばれ、肩を叩かれた。

振り向くと、先程見かけた騎士が全員着いてきていた。

これでルカの酒場から遠ざけて撒けば役目は終わる。


「何でしょう」


そう返しながら相手の様子を伺う。

カルアたちを探しに来たのか、ただ単にこの国に用があったのか。

三番隊。前者の方が可能性は高い。


「お兄さん、情報屋ですよね?

買いたい情報があります」


思惑通り食い付いて頂けたようで。


「場所を変えませんか?ここは人が多すぎます」


そう告げ、首を縦に振ったのを見てルカの酒場と反対側に歩き出す。

商店街の入り口付近にはまた別の酒場があります。





ボックス席にワタシとルカ、向かいに騎士たちという形で座る。


「で、買いたい情報というのは?」


そう話を切り出すと、ルカがいることを気にした様子でしたが、ゆっくりと口を開いた。


「今は亡きカルア様についての情報です」


「何故」


「我が君主がお探しです。

あれから八年も経つのにまだ供養出来ていない、と」


純粋にそう信じているんでしょう。

真っ直ぐ目を見て返された。

よくそんなので三番隊まで上がれましたよね。余程実力があるんでしょう。


「ふぅん。

当時の新人騎士に連れられてアルミラに亡命したというのなら聞いたことがあります。

その後は分かりかねますが、上手くいけばまだ生きているかもしれませんね」


「生きている……?

なら消息を辿って貰うことは出来ませんか?」


「一度見失ってますからねぇ。

八年も経ってますから容貌も変わっているでしょうし。

今さらもう一度見つけ出すというのは、ねぇ…。

生きているというのも可能性の話ですし」


「そうですか……。

また何か分かればこの腕章を着けた騎士に伝えて頂ければ助かります。

もう一つ聞きたいことが」


「何でしょう」


「ティル、という少年をご存知でしょうか」


やっぱりそっちも探しているんですね。


「ティル、ですか」


「はい。前第一団長の息子です。

騎士団に入団して欲しかったんですが、逃げられてしまって」


「逃げられたならそれが答えなんでしょう。

諦めればいいのでは?」


「前団長の息子ですよ?

私達からすれば絶対に欲しい戦力なんです。

そう簡単には諦められません」


「……バロンという男と母親とシーリアの外れに住んでいたと思いますが」


「それは知っています。

そこを訪ねたのですが逃げられ、その後どこに行ったのか分からないのです」


「アルミラで会いましたが。

アイザの隊に襲われたところを助けて頂きました」


そう何でもないことの様に告げると、キッとワタシを睨んで、腰に提げた剣に手をかける。


「勘違いしないでくださいよ。彼の一方的な言い掛かりです。

あなたと同じように王子について聞かれたんです。

その時は何も調べていませんでしたから、お引き取り頂こうとしたら襲いかかられました。

王子の情報だってその件があったから少し調べていただけですし」


「そうでしたか。それは失礼いたしました。

因みにアイザはどこへ?」


そう言いながら剣から手を離す。本当に純粋ですねぇ。


「アルミラの王に献上しましたが。

ティルともそれきりです」


「……そうですか。ではカルア様もティルもアルミラにいる可能性が高いということですね」


「そうじゃないですか?ティルは特に。

会ったのは三日前ですから」


「貴重な情報を有難うございます。御代はこれで足りるでしょうか」


そう言って渡されたのは1ヶ月は余裕で暮らせるであろう金額が入った封筒。

それを確認してコートの内側に仕舞うと、騎士たちは立ち上がって


「それでは失礼します」


と店を出て行った。

その足がルカの酒場と反対に進んだのを見て、ふ、と息を吐く。


「相変わらずの喋りだな」


騎士たちと話してる間は一言も発さなかったルカがそう言う。

そりゃどうも、と返すと呆れた様に溜め息を吐かれた。


「また面倒なのに絡まれてたな」


と言いながらコーヒーを出された。その男をちら、と見てから手をつける。

うん、こいつの方がコーヒーは美味しい。


「本当だよ。何で俺があんなの相手しなきゃならないんだか」


「お前が行くって言ったんだろー」


「あのメンバーなら俺が動くしかないだろ」


そう言うと、久々に敬語外れたなー、と返ってきた。

信用してない相手と依頼者には敬語だからね。

つか、昨日だけだろ敬語だったの。


「ふぅーん。そのカルアやらティルやらとは一緒に行動してるのか」


「そーそー。昨日俺んとこ来て俺もそれに巻き込まれた」


あーあ、ご愁傷さま、巻き込まれなくてよかった、とか言ってるリオンの頭をルカが叩く。

嫌なら断ればよかったのに。


「で?お前らこの後どうすんの?」


三人で昼御飯を食べているとそうリオンが聞いてきた。


「スムラートに行く。ナガルだかナカズだかを仲間にしたいみたい」


そう返すと、あー、あの変人か、腕は確かなんだがな、と返ってきた。

やっぱりバロンの知り合いには変人しかいないのか。


「人探しは?もういいのか?」


「いや、旅しながら探せばいいかと思って。あいつだっていつまでもアルミラにいないだろ」


そう言うと、ルカもリオンも悲しそうな困ったような顔をする。


「そうか。何か分かれば報告するが……」


「頼むよ。ここまで何も分からないのなんてあいつぐらいだ」


「見つけてどうするつもりだ?」


「さぁね。その時の気分かな。

殺すかもしれないし、そのまま放置かもしれないね」


そう言うとやっぱり困ったような顔をして立ち上がる。


「馬車なら王宮の近くに止まる。それに乗ってけ。ちゃんと酔い止め飲めよ」


「言われなくても分かってる」


と鞄から薬を取り出して流し込む。

その様子を見たリオンは、


「御代はいらねぇからな」


とだけ言ってカウンターに戻って行った。

残ったコーヒーを飲み干して、店を後にした。

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