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唐突に始まった腕試し。正直、チームわけを聞いた時点で薄々意図には気づいていたが…とにかく気が進まなかった。何より、前衛が私とティルというのが悪い。剣を持っての模擬戦は何度もしたが、素手では一度もしたことがないのだ。あのバカみたいな身体能力を見せつけられて、どれくらい耐えられるか。それでも、戦術のいろはも覚えないあいつに負ける気はまだまだないのだけれども。凡人の私はその圧倒的な才能に少なくないダメージを負うことだろう。精神面で。
終わってみれば、団体戦だったこともありレイネの意外な面が見れて終わった。運が良かったような、微妙な気分。
ルカの店に戻り、レイネとルカ、私だけでこの旅のわけを話す。
「昔起こった反乱については知っているか」
「ああ、八年前のやつなら知ってるが」
「殿下…カルア様はそれの生き残りの王子だ。私は彼とティルの保護のためにこの旅をしている」
私の説明にレイネは不満そうな顔をした。氾濫のことについて説明を聞きたかったのだろう。
「ティルってのはあの素手のバカか。生き残りのオウジサマはともかくとして、なんでまたあいつを守る?」
「あの身体能力に、あの頭だぞ。ちょっと狡猾なやつなら言いくるめるのなんてわけがない。ローリスクハイリターンで、あの戦闘力が手に入る。それも、使い捨てにできる駒だ。わざわざ平和な国で反乱起こして王権奪うような連中が、手を出さないとでも思うのか」
長々と少し熱が篭ってしまいつつ語ると二人とも微妙な顔で私をみていた。
「ものっそい褒めてんだか、すごい勢いで貶してんだかわからないんだが」
「言ってることはわかりますし、避けるべき自体であることもわかりますが、親バカが入っていることも否めませんね」
「うるさいし親じゃない」
辛辣すぎるコメントにじと目をすると、ルカは呆れたため息をレイネは馬だけじゃなかったかと意味のわからない呟きを吐いた。
「で、バロンサンはそれで、他意はないわけだ」
「ずっと旅を続けるつもりもない。いつか…二人が育ってくれたなら、この旅を終わらせたいとは思っている。もちろん、何事もなく何処かで平穏に全員の生が終わるのもまた、ありだとは思っているが」
その場合、私は必ず先に死ぬ。このメンバーで一番初めに死ぬのだ。それは前衛という職のせいでもあり、私の性格のせいでもあり、年齢のせいでもある。終わりが見えなかったら、私はいつかきっと守れなくなる。だから、きっとは私は言うだけでその道は選ばないだろう。
「終わらせたい、ねぇ…」
ルカは訝しげに私をしばらく見たあと、まあいいかと手を打った。
「面白そうだから着いて行ってやるけど、これだけは覚えといてくれ。俺とレイネは、いつでも裏切る」
「……」
「裏切るとまでは言いませんが、いつでも抜けさせてはもらいます」
ルカの言い分に呆れた顔をしつつもレイネもそう言って頷いた。旅のメンバーに加わってくれるのはありがたいが、機嫌を損ねないようにだけ気をつけよう。
私一人じゃ、荷物は負いきれないから。
「一晩ここに泊まって、それから今度はこの国の中心へ行く」
夕食時に話すも殿下は聞いていない様子。彼のことはもうシルラに任せることにして、コトハの家族もコトハに任せ、最近僅かに成長したティルが話を聞いてるのに驚く。年下ができて、少し大人になったのかもしれない。素直にいいことだと思うが、離れてしまったようで少し寂しい。
「ソラト国の中心と言えば、首都のスムラートですか。そこに何があるんです?」
話を聞きはするがちんぷんかんぷんのティルとは違い、レイネとルカは理解してくれる。しかしルカはこの先の方針に口出す気はないようで、これからもレイネとの会話が主流になりそうだ。
「まず、大きな病院がある。コトハをそこで診てもらおう」
「…いらない」
私の言葉にコトハは静かに手を上げて呟いた。白い髪を指でつまんで見せて、首を傾げる。
「そこには、もう診てもらってる。無駄」
「そうか」
まあ、同じ国だ。そう言うこともあるだろう。だが、もちろんそれだけが理由ではない。
「けど、そこに私の知り合いの医者がいる。変わり者で困るんだが、器用なやつだ。コトハはそいつにも診せたいと思ってる。構わないか?」
尋ねるとこくりと頷く。続いて礼を言うのでこの話は終わり。レイネが呆れた目を向けた。
「あなたの知り合いには変人しかいないんですか」
「変人…とまでは言わないが、変なやつではある。若いうちに医学の権威になって、大手病院に引っ張りだこになり、数年で飽きて今は鍛治師をしていると聞いたな」
「…十分すぎるほど変ですねぇ」
彼には昔命を救ってもらったことがある。その時は丁度医学に飽き始めていた頃で、趣味で医療器具を手作りしているレベルの変人だった。
もう飽きてんだけど、僕はこれ向いてんですよねー
のほほんと言った彼は前髪を目が隠れるほど伸ばしていてイマイチ顔はよく見えなかったが、コトハと同じく色素が薄いのが悩みだと言っていた。光の加減で白にも見えるグレーの髪は彼にはよくにあっていたように思う。年齢は、私と同じか下だった気がする。
「ナカズ言う名前を知らないか」
「そのヘンテコな名前なら、最近よく聞きますけど」
レイネの説明によると、ここ最近の武器屋で知らぬものはいないほどの名前らしい。珍妙な形の奇抜な武器ばかりを作る鍛治師で、けれどその威力は折り紙付き。剣なら素晴らしい切れ味を。鎚なら驚くほどの硬さを。飛び道具なら、手に馴染む形状と軽さを追求したそれらは芸術的な見た目と合わさって貴族のコレクターがつくほどだとか。
「まさかと思いますがナカズがその変人ですか」
「彼は名前を変える癖がある。今はナカズと名乗っていると聞いていたが、それほど有名とは思わなかったな」
鍛治師になった。ナカズと名乗っている。よかったらとナイフ一本同封して手紙を送って来たのは数年前か。彼とは良き友人として今でも仲良くしている。もともと孤児で名前に拘りがないところが少々面倒だが。酷い時には日替わりで名が変わるのだ。全ては彼の気分次第で。
「以前は何と?」
「ナガル。規則性はあるようなんだが、それも信用し過ぎは良くない。ナガルとナカズはお気に入りらしく、よく名乗るな。ナカズは鍛治師、ナガルは医者の名前だ」
ナガという音が好きのようだが、必ずしもそれで始まるわけではない。何度も言うが、彼の気分次第である。昔はグレートディなんとかかんとか長ったらしい名前を名乗っていたこともあった。本人含め覚えられなかったから一時間経たずに辞めた。
「ナガルは聞いたことあるな。どっかの農村で流行った疫病を治す薬を発明したんだろ?」
「それは初耳だが、何処かで聞いたような話だな」
話に割って入ったルカの情報は置いておくとして。
「とにかく、次は彼に会いに行こうと思う」
戦闘要員は十分集まった。そろそろ一人くらい非戦闘員がいてもいいと思うのだ。
そもそも、このメンバーは何かに特化し過ぎていて、他のことができなさ過ぎる。武器の手入れもまともに行えてるのかどうか。殿下の回復魔法はすごいが、やはり医学の知識というものは侮れない。レイネの薬学も凄いが、そう言った要員は多いに越したことはないだろう。ドワーフの友人もいるにいるが偏屈だし、鍛治師を手に入れるついでだと思えば彼のところへ行く手間も惜しくはなかった。
「そんなわけで、明日からまた馬車の旅だ」
「……」
改めて宣言した私にレイネは酷く嫌そうな顔をした。
昨日の更新分遅くなってしまいました。
すみません。




