20
所変わって、ルカの酒場へ。
入って早々腕を引かれカウンター席へ。
バロンたちはまたボックス席で待機。
「何。
森の魔物の討伐なら成功したでしょう。
まだ何かあるんですか」
「お前なぁ…、俺がお前ら全員の実力が見たいって意味であのクエストを出したの分かってるだろ」
「そんな文句あっちに言ってくださいよ」
「はぁ……。
なぁ、お前ら腕試しってしたことあんの?」
溜息を一つ吐いて、手を頭の後ろで組みながら言う。
「ないです。
そんなことする前に移動してましたから。
何でそんなに気にするんですか」
「俺が一緒に行動するのに値するか見るためだろ」
そんな何当たり前の事言ってんの、みたいな顔されても。
確かにAランクで攻撃特化なので強いですけど。
「それに、やってみて気に入らなかったらお前もここに残ればいいじゃん。
面倒事から解放されるぞ?」
「……それは有りですね」
ここまで来ればシーリアの追っ手にも中々見つからないでしょうし。
「だろ?
やるなら団体戦だよなー。
チームどうする?」
「ワタシとルカとティルとシルラ、カルアとバロンとコトハ一家ですかね」
「あ、誰が誰だか分かんねぇ」
さっきの獣使いがティル、金髪がカルア、鎌背負ってんのがシルラ、おっさんがバロン、白髪の子供がコトハ、母親がカトネ、父親がラト。
ティルは素手、バロンは剣で前衛。
シルラは拳銃、ラトは猟銃の中衛。
コトハは弓で中後衛、カルアとカトネは魔術師。
と適当に説明する。
ルカにはこれで伝わるから大丈夫。
「おし、じゃあやるか」
ということで。
酒場の裏の開けた場所へ。
「全員降参するか捕まったチームが負けなー」
何でこんなことに、とかぶつぶつ呟いてるバロンにルカが弱い魔法弾を一発。
慌てて剣で弾いたのを合図に始まった。
カルアが頭上に魔法弾を降らせたのと同時にティルがコトハへと突っ込む。
ワタシたちの方へ降ってくる魔法弾はルカが全部同じ威力で相殺して、シルラがラトと銃撃戦を始める。
カトネが慌てて自分たちの方に防御壁を張り、間に合わなかったのはバロンが剣で弾きつつ、こっちに向かってくる。
「あいつコントロール下手くそだな。
味方まで攻撃してどうするんだよ」
と呆れた視線を向けるルカ。
まだまだ余裕ですね。
いつもの事ですよ、と返しつつ、
「ティル、先にラトとカトネを降参させてください」
と指示を出すと、それをフォローする様にシルラがコトハへと焦点を変え、不味いと思ったのかこちらへ向かう足を緩めたバロンにルカが先程よりは強い魔法弾を打ち込む。
それを躱すとバロンはワタシの方へ向かってきた。
シルラとコトハはやはり弓の方が射程距離が長いのかシルラが押されていた。
カトネとラトはティルに魔法弾なり銃弾なり大量に撃ち込んでいましたが、持ち前の規格外の運動神経で全部躱しあっという間に降参させた。
そのままティルにはカルアの方に向かわせ、シルラはコトハに利き腕の右の肩を撃たれ銃を使えず降参。
代わりにルカにコトハの相手をさせる。
ワタシは突っ込んで来たバロンの攻撃を躱しつつ、両手に魔法を貯めていたのを一つ放つ。
それは簡単に躱されましたが、勿論想定内でその足下に束縛の魔法をこっそり張っていましたが、それも気付いたようで、後ろに飛んで回避された。
ルカは飛んで来る弓を魔法弾で全部折り、新しく矢を出す隙に束縛の魔法を纏わせた弱い魔法弾をぶつけ、コトハは捕まった。
弓よりは魔法の方が攻撃間隔は短いですからね。
ティルは馬鹿みたいなカルアの出力の魔法に流石に近づけず、防戦一方の様なのでルカにサポートに行かせる。
「周りを見るほど余裕があるんだな!」
とバロンから視点を外していたときにまた突っ込まれ、魔法を撃つ間もないのでコートの内側から護身用の短剣を取り出し、上から振り下ろされた剣を受け止める。
短剣には触れた時に微弱電流の魔法を纏わせて。
感電して動けなくなったバロンに束縛の魔法をかけ、短剣を仕舞う。
「あなた本当に馬鹿力ですね。
右腕痺れて動きませんよ」
「お前こそ短剣を持っていたとはな。
武器がないからと仕掛けてみたんだが」
「接近戦に弱いんでね、魔術師は。
護身用に持ってるんです」
とまだ残ってるカルアたちを放置して話していると、ルカのちょっと焦ったレイネ、という声が聞こえたので左手に貯めていた防御魔法を展開する。
まだ手こずってるのか、と思いながらまた左手に防御魔法を貯めつつ近づく。
右手は回復しないと使い物にならなそうですね。
「何なの、あいつの出力。
相殺が間に合わねぇんだけど」
というルカの苛ついた声を聞いた瞬間魔力がなくなってきたのか相殺が間に合わず、魔法弾が当たり、カルアの攻撃が飛んで来る。
防御壁を張りながら、ルカの様子を見るとあの魔法弾には束縛の魔法が付いていたようでルカも脱落。
カルアの視界を奪うため砂煙を起こすと、その意図を察知したのかティルがその中に突っ込んで行きましたが、カルアが直ぐに風を起こして砂煙を払い、ティルに束縛をかけたのとティルがカルアに覆い被さったのが同時。
直ぐに動けないティルを退けて体制を立て直そうとしたので束縛の魔法を飛ばしましたが、魔法で弾かれまた魔法弾が浴びせられる。
魔力の温存のため防御壁ではなく相殺していきますが、それでもカルアはSランク。
このままじゃワタシの魔力が尽きて終わる、せめてルカが残っていたらなー、とか考えながら右腕に回復をかける。
治ったところで、もう魔力が尽きそうなので、一か八か相殺しながらカルアへと突っ込む。
「ちょっ!?」
それに驚いたのか、攻撃の手が緩んだ一瞬でカルアの足を払って転かし、首に短剣を当てる。
生憎束縛をかけるほど魔力が残っていないんでね。
降参ー、と悔しそうな声を聞いて短剣を仕舞い、左手を貸して立ち上がらせる。
「むー、短剣持ってるとか聞いてないんだけどー」
近づいてくるからびっくりしたじゃん、と文句を言われましたが、
「バロンとの時だって使ってます。
周りを見ていないのが悪いんでしょう」
それに攻撃を緩めたのも馬鹿ですね、と返す。
「確かに。
魔術師の癖に短剣を使うのは狡いな」
とバロンにも言われる。
呆れて溜息を吐くと、
「お前らな、もともとレイネは俺と行動してたんだ。
魔術師同士で行動してたら接近戦に弱すぎるだろ」
とこれまた呆れた声がルカから漏れた。
「え?じゃあ、レイネ前衛やってたの?」
シルラとルカの怪我を治しながらカルアが問う。
ルカは思いっきり吹っ飛んでましたからね。
「馬鹿か。
体力のない魔術師が前衛なんて出来るわけないだろ。
敵に近づかれた時用だ」
と、何故か全部ルカが説明した。
「で?
結局この腕試しは何だったんだ?」
とバロンが聞いた時に右腕に触れられて驚いてその方を見ると、さっき左手出されたから、とカルアに回復の魔法をかけられた。
「あぁ、お前らが弱すぎたらレイネとここに残ろうと思って」
そうルカが言った瞬間、右腕を思いっきり掴まれた。痛い。
「どういうことだ」
「だって、お前らと一緒に行動してもレイネには特にメリットないだろう」
と、ルカが答えると右腕の力が更に強まった。だから、痛いんですけど。
とカルアの頭を叩くと、キッと睨まれた。
「それで?
お前らはどうするんだ」
「んー、まぁ、割と接戦だったし。
楽しかったしな、付いて行こうかと思うけど?」
ただ、コトハだっけ、そっちの家族はもうちょっと鍛えた方がいいけど。
そう付け足して答える。
「店は?いいのか?」
「あぁ、構わねぇよ。
金稼ぐために何となくやっただけだから。
それよりさ、何でお前ら人巻き込みながら旅してんの?」




