第17話「タッチ・アンド・ゴー」
朝日が差してくる。
今日は忙しい一日になりそうだ。
亮馬は快活に身支度を整え、朝食を食べながら母親と会話する。
「今日さ、久しぶりにさ、病院に行ってくるよ」
「あぁ、そうね。最近落ち着いているけれど、心配だものね」
「まあ……全然心配することはないんだけどさ。母さんが気にしてるみたいだから」
亮馬は会話しながらも、ご飯二杯目をよそい、鮭の切り身をかじり、インゲンやこんにゃくの煮物を口に入れている。
「母さん、麦茶!」
麦茶を三杯おかわりし
「フゥ~。ごちそうさま。じゃ、行ってくる!」
元気に登校した。
亮馬はリュックを片方の肩に引っかけ、朝日を浴びながら、足早に学校へ歩いていった。
校門に近づくと、後ろからパァンと肩を叩かれた。
「おはよー。亮馬」
大助と健太が笑っている。
「おはよー。大助。生物のレポート書いた?」
大助は
「あぁ。テキトーにな」
と言った。
健太は
「最後の方書いてないから、これから行って仕上げる。亮馬、見せてよ」
亮馬は
「仕方ないな。いいよ。でも、同じにならないように、気をつけて書けよ」
三人がふざけながら教室へ行くと、もう美代里が座っている。
「あ~おはよう。亮馬くん」
美代里の澄んだ声は心地良い。
美代里がいると世界は優しくて、柔らかいなと亮馬は思った。
★ーーー★ーーー★
亮馬はクラスメイト達といつものように、けれど、のびのびと、学校での一日を過ごし、下校時刻になった。
「おい亮馬、今日ハンバーガー食べてこうぜ」
と、大助が言った。
「行こ行こ」
健太も美代里も乗り気だ。
「うん。行くけどさ、ちょっと病院に寄っていきたいから、待合室で待っててくれないかな。すぐ終わるからさ」
「えっ? 具合悪いの?」
美代里が心配する。
「全然。ただ母さんが心配してるからさ、行くだけ」
亮馬は笑いながら答える。
「そう、よかった。心配しちゃった」
美代里は亮馬に笑いかけながら、カバンを持って立ち上がった。
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雲島メンタルクリニックに着くと、三人を待合室に残し、亮馬は診察室に入った。
雲島はパソコンに何か打ち込みながら、亮馬を見ると「やぁ。久しぶりだね」と笑みを浮かべて話しかけた。
「最近調子はどう? 何か変わったことは? 不安になったりすることはある? どんな些細なことでもいいんだよ。僕には何でも言ってくれ」
亮馬は雲島を正面から見据えた。
「確かに。最近不安になることがありましたね。記憶が薄れることも……でも、もう大丈夫です」
雲島はデータを打ち込みながら
「それはいつ? 記憶がないのはどのくらいの時間かな? どんなことに不安を覚える?」
と聞いてきた。
亮馬は下を向いて「クックック」と笑うと、上目づかいに雲島を見据え
「先生、僕はもう不安になって思ってませんよ。僕は“ビースト”だから。それより先生、いつから気づいてました? 何の目的で僕に近づいているんです?」
熱くなるでもなく、淡々と、しかし、相手の目を見据え、ハッキリと話しかける亮馬の様子は、どこか挑戦的で、得体の知れないすごみを感じさせた。
それが、雲島を戸惑わせた。
今、これは、自分の知っている亮馬ではない。
自分の知らぬ間に、事態は違う方向へ進んでしまっている。
亮馬は最後にこう付け加えた。
「何を考えているか知らないが、絶対にアンタの思う通りにはならない。それから、これはもういらないかな」
そう言うと、今まで与えられてきた錠剤を取り出し、雲島の目の前に粉々に砕いてみせた。
診察室を出た亮馬は、友人達と和気あいあいにふざけながら、ハンバーガーショップへ出かけた。
雲島は午後の診療を打ち切り、どこかへ出かけていった。
亮馬は片桐に雲島の件を報告し、調査を依頼した。




