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影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
外伝 人と狐の物語
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第91話三年前のあの日

 出会ったきっかけは本当に些細な事だった。スズカとリンシアはミルセンに出会う前からパーティを組んでいて、ミルセンと出会ったのはとある依頼でユドラシアにやって来たある日の事だった。


「温泉地の開拓にギルドの手を貸してほしいなんて、アリスも不思議な依頼を受けたね」


「これなら安全だから」


「安全?」


「何でもない」


 三年前のユドラシアはまだ温泉街として発展途上の街だった。今みたいに温泉が盛んではなかったものの、温泉地の開拓をギルドに依頼するほど力入れていたのは確かだった。

 私が安全だと言ったのは、勿論この依頼なら死の可能性は下がるからという意味だったけど、その事はまだ二人には話していない。


「あー疲れた。冒険者といえど流石に私達に力仕事は向いてないよ」


 そう言ったのはパーティの前衛を担うスズカ。彼女は冒険者の中でも珍しい二刀流の剣使いで、その実力はギルドの中でもかなり上だった。


「そうは言わないでしっかり働きましょうよスズカさん。これも民のためなんですから」


 それを慰めるのはリンシア。彼女は私達の回復薬を担う現役のシスターで、スズカとは昔からの仲だった。彼女は何かと仕事に対して民のためだと言っていたけど、彼女自身いつも本気で言っていたらしい。


「本当いつもそればかり言うよねリンシアは。これって本当に民のためになるの?」


「なりますよ、きっと」


「そこはきっとなんだ……」


 ちなみにスズカは何故さっきから文句を言っているのかと言うと、私達が今やっている仕事はひたすら穴を掘って温泉を掘り当ててほしいと言う依頼。

 そんな仕事を女の私達が何故請け負ったのかと言うと、安全な事もあるがスズカの筋力だ。


「アリスも何か言ってよ。そもそもこの依頼を受けたのもアリスなんだからさぁ」


「受けたのは私だけど、乗り気だったのはスズカ」


「うっ。た、確かに温泉を掘るのにはロマンは感じていたけど」


「なら文句を言わない」


 先ほども言ったように彼女は二刀流の剣士であるゆえに、二つの刀を使い慣らすほどの筋力を持っている。見た目では分からないため、初めて見た時は私も驚かされた。


「文句も言いたくなるわよ。だってもう半日近く掘っているのに、温泉のおの字も見えてこないでしょ」


「まだ三時間も掘っていませんよ、私達」


「細かいことはいいの! というか何で私だけ一生懸命に掘っているのに、二人は掘った土を運ぶことしかしないの?」


「「スズカしか筋肉ないし(ありませんから)」」


「私今日ほど自分の筋肉を恨んだことはないわ……」


 と和気藹々と話している私達ではあるけど、当時私がこの二人と出会ってからまだ三ヶ月くらいしか経っていなかった。

 それなのにこんなにも私が馴染めたのは、やはりスズカの持ち前の明るさと、それを陰ながら支えるリンシアの存在があったからなのかもしれない。


(この二人とならもしかしたら……)


 そんな事も考えた事もある。この二人なら本当のことを話しても、きっと受け入れてもらえるだろうし、この二人となら自分の過去も乗り越えられると思っていた。


「スズカは筋肉が取り柄」


「筋肉と書いてスズカと読みますからね」


「よし二人とも、まずはそこに正座しようか」


 ■□■□■□

 そしてその日の仕事も終わり、私達は三人で夕食を食べ歩きしていた。


「はー、疲れた。この仕事をあと三日も続けなきゃいけないなんて、流石に無理があるわよ」


「でも報酬はそれだけ弾むんですから、我慢しましょうよスズカ」


「そのセリフ、リンシアもちゃんと働いてから言ってよ」


「働いているじゃないですか。ねえ、アリス」


「うん」


「まずは二人に働くという概念から教えた方がいいかもしれないわね」


 結局ほぼ力仕事はスズカに任せっきりにはなったけど、スズカ自身も本気で怒っているわけではないのは見なくても分かっていた。

 冗談を言い合って、お互いに笑い合って、何も変わらない時間を過ごす。そんな日常を私達は当たり前のように過ごしていけると思っていた。


「あれ? あそこに誰か倒れている」


 けどそんな私達の日常が少しずつ崩れ始めていた。全てのきっかけはこの時、道端で倒れているミルセンを見つけたあの時だった。


「あれってもしかして狐?」


「確か妖狐族って呼ばれている種族でしたっけ」


「大丈夫ですか?」


 道端で倒れているミルセンに最初に声をかけたのはリンシア。それに対してミルセンが返した返事は、


「助け……て……」


「え?」


「お腹が減って……もう動けない……」


 こんな出会いがまさか全ての始まりにつながっているなんてこの時の私達は誰一人として思っていなかったと思う。


「お腹? もしかして何も食べてないんですか?」


「もう三日も食べていない……何か食べ物を……私に」


「スズカ」


「な、何で私の?」


「早く食べさせてあげてください!」


「わ、分かったわよ」


 これは三年前、私が実際に経験した悲劇の物語。


「むしゃむしゃ」


「すごいスピードで食べてる」


「よほどお腹が減っていたんですね」


 そしていつかは誰かに伝えなければならなかった、私達人と狐が起こした語られる事のない歴史の物語。

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