第86話荒ぶる風の狐 前編
フォルシアの耳を頼り、夕食までの僅かな時間を使って、あの声の元を探すことにした。
「それはいいけど、どうしてアリスまで?」
「フォルシアに誘われた」
「どうしてフォルシアが?!」
二人きりでやるかと思いきや、何故かアリスまで付いてきたことに僕が驚いていると、フォルシアがこっそり耳打ちをしてきた。
「私なりの配慮ですよ、ユウマ様」
と言って片目を瞑るフォルシア。配慮ってもしかしてさっきの話を聞いてたとか? いや、それだったらあまりにも耳が良すぎるし、何より……。
(そんな配慮嬉しくないよ!)
「それでシレナの声が聞こえた可能性がある場所って?」
そんな僕とは裏腹に、アリスは淡々と話を進めようとする。本当にさっきの出来事は忘れてほしいというアピールなのだろうか。
「まずはユウマ様と私が声を聞いたポイントへ向かいます。恐らくではありますが、そこから近くに魔力源があると思われます」
フォルシアの指示通りに、昼に僕と彼女が聞いたポイントへと移動する。流石にもう一度あの声が聞こえてくることはなく、次の段階へと進める。
「ここからそう遠くない距離に、魔法が使われた跡が見えます。その場所は……」
僕達には見えない何かをフォルシアが辿って、その場所から移動する。そして僕達三人がたどり着いたのは、ユドラシアから少しでた先にあった何かの廃墟だった。
もしも誰かがいた時のための対策として、僕達は近くの草むらに身を屈めて潜み、廃墟の様子を見る。
「ここにシレナが?」
「いえ、ここには魔法がが使われた跡があるだけで、恐らくユウマ様の探している方はここにはいません」
「なら何故ここに?」
「ここに人がいたなら、何かの手がかりがあるかもしれないじゃないですか。それにこの場所、誰かが潜んでいる可能性があります」
「どうしてそれが分かるの?」
「最初に言った通り私にはその人が持つ魔力を視ることができるんです。もっと細かく言うと、この世界に漂っている魔力の流れも視えます」
長々と説明するフォルシアの話に僕は付いていけない。僕達が冒険者であることを見抜いたのも、魔力を視たからと言っていたけど、サッパリなことが多い。
「それは信じて大丈夫なこと?」
「はい。簡単には信じられないような話かもしれないですが、私の目と耳を信じてください」
アリスの言葉に真っ直ぐにフォルシアは答える。僕にしか聞こえなかったシレナの声を、彼女が聞き取れたのだから信じていいのかもしれないけど、アリス達からしたら声も聞いてないので信じられないのは当然なのかもしれない。
「ユウマ、どうする?」
「僕は信じていいと思っているけど、アリスは違うの?」
「私には信じることができない。ユウマが聞いた声については信じていいかもしれないけど、フォルシアが嘘をついている可能性がある」
「そ、そんな嘘だなんて私は」
「ならどうして」
と、アリスが何か言いかけたところで突然僕らを目掛けて何かが飛んできた。
「危ない二人とも!」
咄嗟に避ける僕達。元いた場所には炎で燃えたような焦げた跡が残っていた。
「火の魔法?」
まさか……。
「ユウマ、フォルシアから離れて! やっぱり彼女は」
アリスが何かを叫ぶ。しかしそれよりも先に、再び火の玉が僕達に降り注ぎ、会話する隙すら与えられない。
(どこから魔法が……)
廃墟の方に目線を向ける。すると廃墟の三階辺りから人影が動くのが見えた。
(あんな遠くからどうやってこの魔法を)
しかしそんな事を考える間も無く、次の一手が……。
「ごめんなさい」
僕達のすぐ近く、謝罪の言葉と共にフォルシアから放たれた。
「え?」
どうして……フォルシアが。
「私を誘ってきた時から怪しかった。だから警戒して正解」
しかしその魔法を受け止めたのはアリスだった。しかも人形ではなく、アリス自身の体で。
「アリス!」
「この程度、大丈夫」
「フォルシア、どうして」
「あ……あぁ」
僕が問い質そうとしたところ、さっきまでの様子とは打って変わって、挙動不審になるフォルシア。さっきフォルシアは明らかに僕に敵意を向けていた。それなのに今は……。
「ち、違うんです、わ、私はぁ」
「フォルシア?」
「ユウマ、この狐は私達を最初から騙すつもりだった」
「違うんです。違うんです!」
「ならどうして、私が闇の魔法を使えるのを知っている? 魔力だけで分かるものじゃない」
「そ、それは……」
「お前は私をこれに誘う時、闇の魔法の力を貸して欲しいと言った。それは本来、私と私の仲間しか知らない事。それをどうしてあなたが分かるの? 何より今の行動は何?」
「う……うぅ……」
詰め寄るアリスとうめき出すフォルシア。
「待ったアリス! 何かおかしい」
「え?」
フォルシアの異変に気がついた僕は、咄嗟に身を乗り出して二人の間に入った。
「フォルシア、何か事情があるならまず自分の口で」
「うぁぁぁ!」
フォルシアが何かを叫ぶと共に、彼女の周囲に急激な風が巻き起こった。突風に僕とアリスの体は吹き飛ばされそうになるが、何とか堪える。
「これはフォルシアの魔法?」
「風を司る妖狐族……まさか」
「アリス、力を貸して!」
「え?」
「暴走したフォルシアを止める!」




