第81話温泉ロマンスは突然に②
お風呂から出た後三人に拷問を受けた僕は、ヘトヘトになりながらも一人でユドラシアを散歩していた。
(酷い目にあった......)
ずっと黙っていた僕も悪いとはいえ、一時間近く説教という名の拷問を受けるとは思っていなかった。よほど僕には聞かれたくなかった話らしいけど、そこまで隠す内容だったのかなとも思ってしまう。
(しばらくは戻りたくないなぁ)
こんな事になるならやっぱり別の宿に泊まった方が良かったのかもしれない。
「はぁ……」
ため息を吐きながら歩いていると、ふと誰かが僕にぶつかってきた。その衝動で僕は尻餅をついてしまう。
「あ、ご、ご、ごめんない」
僕にぶつかってきたのは、シーナやサラとさほど変わらない見た目の狐耳を生やした黒髪の少女だった。
「い、いや、僕は別に大丈夫だけど。それよりそんなに急いでどこへ」
「あ、も、もしかして冒険者様ですか?! わ、私を助けてください!」
「助けるって、誰を……」
「見つけたぞ!」
狐耳の少女の後を追ってきたように、これまた狐耳を生やした男がやって来る。僕が立ち上がると、少女は僕の背中に姿を隠した。
「いくら逃げても無駄だと言っただろ」
「私はあの場所には戻りたくありません! あそこに戻るくらいなら、縁を切ってくれても構いません!」
「そんな勝手な事、あの方が許すとでも思っているのか!」
「許さなくたっていい。とにかく私は……」
「いいから来い!」
僕の背後の少女に手を伸ばす男。僕はその手を払いのけた。
「何のつもりだ貴様!」
「冒険者様!」
「理由は分からないけど、この子がこんなにも嫌がっているのに、無理矢理連れて行く事ないだろ」
「お前には関係ない話だ。それとも名も知らなぬ彼女を守るのか?」
「助けてって言われたんだ。名前も何も知らないけど、守るよ」
「どこの人間が知らないが、妖狐族に刃向かう愚か者はこの場で倒させてもらう」
狐男はそう言いながら、懐から剣を取り出そうとするが、もうその時点でこの勝負に決着はついていた。
「遅いよ」
既に光の剣を用意していた僕は、わずか数秒の間に男との距離を詰め、その喉元に剣を突きつける。これはムラサメの屋敷での戦いで習得した僕の戦い方。魔力の消費を抑えて、敵が僕の攻撃を認識する前にその喉元に剣を突きつける。
シレナはこれを『光速の剣』と名付けた
まだ完全にものにしていないとはいえ、試しに使ってみるには絶好の機会だった。
「なっ、お前いつの間に懐に」
「これで僕の勝ちでいいよね。ここには旅行で来ているんだ、極力戦いたくないんだよ」
「く、そ。馬鹿にしやがって! 覚えてろ!」
逃げ出す狐の男。相手が魔王軍でない限りでは、極力敵を傷つけるような事はしたくなかった。だからこの戦い方でいい。
「ふぅ」
「ありがとうございます、冒険者様!」
戦いを終えて一息をつくと、背中に少女が抱きついてくる。成り行きとはいえ、思わず守ってしまったけど、この後何か悪い事は起きないよね?
「ユウマ、そろそろ寝る時間……」
「あ」
悪い事が起きてしまいました。
■□■□■□
狐の少女はフォルシアという名前だった
色々訳あってあの狐の男から逃げてきたらしい
ただその理由については今は話せないという事で、一時的ながら僕達が保護する事になった。
「勝手に達にしないでもらえないかしら」
「私達納得してない」
「え? 何で?」
けどそれに納得していないのが、三名ほどいらっしゃいました。
「だって私達が怒ってるのに、その間に知らない女の子とイチャイチャしている男なんて、信じられる訳ないでしょ」
「待って、僕は一度たりともフォルシアとはイチャイチャなんてしてないよ! むしろ僕は彼女を助けたんだよ?!」
「そうです。ユウマ様は私を助けてくれたんです!」
「様付けで呼ばせているあたりが怪しい」
「これはフォルシアが勝手に」
「酷いですユウマ様! 私に様をつけて呼んでほしいとあれほど頼んできたのに」
「何でそんな嘘をつくの?!」
「「「ユウマ?」」」
「あの、本当に僕は何もしてないので分かってください」
結局三人を説得するのに一晩を使ってしまった。なんとか三人は納得してくれたものの、まだ事は始まったばかり。
そもそもフォルシアがあの男に追われていたのか、そしてどうして帰りたくないのか知りたいことが山ほどあった。
特に僕が気になっていたのは、
「どうしてフォルシアは僕を見てすぐに冒険者だって分かったの?」
「魔力を視たんです」
「魔力を視る?」
「ユウマ様の内側に眠っている魔力です。私は一目見て、ユウマ様の魔力の強さを感じ取ったんです」
自信満々に答えるフォルシア。シレナ曰く、僕の魔力はまだ未熟だと言っていてけど、彼女には何が見えていたのだろうか。
まあそれはともかくとして、フォルシアをこうして保護してしまった以上はこの先何が起きるか分からないわけで……。
「せっかくの温泉が……」
「だ、大丈夫だよ。まだ二日はここにいるんだから」
「それでも安心できない」
「主にユウマのせい」
「本当ごめん……」




