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第60話炎の中の絆 後編

 私の窮地を救ってくれたのはフェルナだった。思わぬ人物の登場に、ムラサメも私も驚く。


「フェルナ……王都の入口の防衛は……?」


「先輩の仲間に託しました。それよりも心配な事が増えてしまいましたので」


「だからってこんな無茶な……」


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ!」


 突然声を張り上げらフェルナ。彼女が私に対して怒ったことは何度もある。けどこれは、本気で彼女が怒った時の声の張り上げ方だった。


「勝手な事をし過ぎですよ、先輩……。折角もう一度授かった命をどうして無駄にしようとするんですか。げほっ」


「フェルナ、煙を吸いすぎて……」


「この程度大丈夫ですよ。それよりも今は……」


 ムラサメに刃を向けるフェルナ。


「あの時返せなかった借りを返させてもらいますよ! ムラサメ」


「ふん、何者かと思いきやいつぞやの騎士見習いか。今や騎士団長の地位まで上り詰めたと聞いたが、その腕前いかなものか」


 あの日は私が彼女の前に立っていた。まだ騎士見習いに近かったフェルナは、いつも私に慕ってくれていて、いつも先輩と呼んで私に寄ってきた。


 だからあの日だって……。


「私はあの時とは違うんですよ。あの時何もできなかった私とは」


「フェルナ……」


「威勢だけは認めよう。しかしこの城もじきに崩れる。この王都は間も無く廃都と化すぞ」


「残念ながらそれはもうありませんよ」


 そう言った直後だった。どこか懐かしくて優しい魔力を近くから感じたのは。


「なぬっ。この魔力は」


 ムラサメの言葉と同時に、私達を、この城を波紋のような何かが通り過ぎていくのを感じた。同時に私達を覆っていた炎は一瞬で消え去り、残ったのは煤で全体が黒くなった廊下。


(この魔法……どうして……)


「今の魔法は……」


「先輩、立てますか?」


 フェルナが私に手を差し伸べてくれる。わたしは彼女の手を借りて何とか立ち上がり、自分の剣を手に取る。


「まさか儂の炎を消すものが現れようとは」


「流石にそこまでは想定できなかったようですね」


「くっ、じゃが儂の目的は果たせた。ならせめて汝らの命を」


「させませんわよ」


 私達とムラサメの間に声と共に水の塊が降ってくる。そしてその水の塊は人の形を形成して、姿を現した。


「……え?」


 先ほど感じたあの懐かしい魔力


 そして懐かしい声と姿


「よく、頑張りましたわね、セレナ」


 私はその人物に見覚えがある


 いや、忘れるはずがない


 でもどうしてこの場所に彼女がいるのか、それだけが分からなかった。


「ティア……師匠。どうして……」


「それはこちらのセリフでもありますわよ、セレナ。まさかお互いまた再会できるとは思っていませんでした」


 水を司る魔法剣士 ティア


 私に剣の技術を全て叩き込んでくれた世界でただ一人の師匠


「やはり先程の魔力はお主のものだったか」


「貴女も凝りませんわね、ムラサメ。まさか王都を燃やすなんて」


「ふん、死人が何を言う」


 師匠の登場に、動揺を見せないムラサメ。まるで何かを知っているような口ぶりではあったけど、私は目の前の光景にただ驚くことしかできなかった。


「フェルナ、これは……どういうことなの?」


「私も最初は驚きました。けど間違いなく、先輩の師匠です」


 何故なら彼女は私と同様、あの日の事件で既に亡くなっているはずの人だった。


 ■□■□■□

 アリスの話を一通り聞いた僕は、改めて自分が今するべきことを彼女に話した。


「確かに待つのが一番なのかもしれない。でもやっぱり行くよ」


「危ないって分かってるのに、どうして」


「どうしても何も、仲間だからだよ」


 きっとセレナの安全は確保されてはいる。それでも僕はこのまま待ち続けることはできない。


 シェルティア様に言われた言葉が気になっているから?


 違う


 ムラサメを倒して英雄に近づきたいから?


 違う


 セレナは僕にとって、僕達にとって大切な仲間だからだ。その仲間が今城の中で戦っているなら、僕は助けに行かなければならない。


「なら……私も行く」


「まだ怪我が治ってないからアリスは……」


「行く」


 立ち上がるアリス。先程まで治療を受けていたとは思えないほど、彼女の足取りはしっかりしていた。


「無理だけはしないでよ」


「それはこっちのセリフ」


 二人で王都へと足を踏み入れようとする。


「待って二人とも」


 けどそれを呼び止めてきたのは、治癒所にいたはずのハルカだった。


「ハルカ、目を覚ましたんだね」


「そんな事はどうでもいいよ。それより二人だけで行くなんてズルいよ。私も仲間なんだから連れて行って」


「体は大丈夫なの?」


「少し煙を吸ったくらいだから平気平気。ほら」


 余裕の表情で大剣を構えて見せるハルカ。どうやら治癒術師のおかげで、体力も回復したらしい。


「分かった、三人で行こう」


「うん!」


「了解」


 僕達は三人でほとんど燃えてしまった王都の中へと足を踏み入れる。セレナが居るであろう城まではそこそこの距離がある以上、この先で何が起きるか分からないので、警戒を強めながら僕達は足を進める。


 が、


「まさかのこのことこの場所に戻ってくるとはな、魔法使い」


 その道中で城の中にいるはずのムラサメと遭遇してしまった。


「何でここに」


「答えは簡単じゃ。主の仲間を消し炭にしたからに決まっておろう」


「っ!」

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