表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第4章僕達の日常は常にハード
40/180

第38話人と魔物と母と娘

 女の子に連れられて僕とセレナが辿り着いた先は、やはりこの家の核と思われる場所。そこには一人の女性が安らかに眠っている。

 しかしその頭にはツノと尻尾が生えていて、人間ではないのは見て分かる。


「お母さん、お客さんが来たよー」


「ん……こんな時にお客さん?」


 女の子の声で目を覚ます女性。てっきりこのモンスターハウスの主人だから、もっとごつい母親が出て来るのかとおもっていたけど、一部を除けば普通の人間にしか見えなかった。


「貴方達は人間?」


「はい。実は近くのギルドで働いていて」


「つまり私を倒しに来たのかしら」


「え? あ、いや、そういう訳じゃなくて」


 子供である女の子の前でそんな事を言うわけにもいかないので、僕は言い淀む。


「実は私達家を探していて」


「家?」


 そんな僕を見かねて、セレナが代わりに説明をしてくれる。


「私達の他にも二人仲間がいて、四人が住めるような家を探しているの。それで不動産に聞いたら、この家から、その」


 それでも肝心な事が言えないセレナに対して、微笑みながら何かを察したかのように彼女は口を開いた。


「そういう事、ね。でもここを簡単には譲ることができないわ」


「何か条件があるの?」


「この子の事」


 そう言って女性が指差したのは、女の子。やはり彼女も気にしているのだろう。自分と彼女がこの場所で暮らし続ける事を。


「この子は実の私の子ではないの」


「それは何となくだけど分かります」


「ある日まだこの子が小さい頃に捨てられているところを、私が拾ってずっと育ててきたの。でもいつかこの子も知ることになる。自分が普通ではない事に」


「じゃあ僕達にこの家を譲る条件は」


「この子をずっとではなくていいから、ある程度成長するまで見届けてあげて欲しいの。私、私達は間もなくこの場所に去らなければいけないから」


 悲しそうに語る女性。女の子は何を話しているか分からないのか、不思議そうな顔で母親の顔を見つめている。

 きっと彼女はずっと気に病んでいたのだろう。こうして人間と魔物が共に暮らし続ける事を。ましてや、モンスターハウスと呼ばれてしまえば、命を狙われる事にもなる。僕達のような人達に。


「この子はシーナという名前です。私が付けた名前なので本当の名前は分かりませんが、どうかお願いできないでしょうか」


 ■□■□■□

「人間と魔物、相容れない存在だと思っていたけど、こんな不思議な事があるものね」


「でも必ずしも全てが善ではない」


「それはそうだけど……」


 その日の夜、ハルカとアリスとも合流した僕達は、家の一室を借りて一晩泊めてもらう事にした。ミゼと名乗ったあの女性は、シーナにこの夜全てを話すらしい。

 それで明日にはこの場所から去るとのこと。


「ユウマはどう思う? シーナの事」


「正直なところ僕はあの二人を引き離す理由はないんじゃないかなって思うんだけど」


「どうして?」


「見て分かると思うけど、シーナはミゼさんの事をもう母親と思い込んでしまっている。そこに僕達が介入する理由はどこにもないと思うんだけど」


「でもそしたら家が」


「その時は別の家を探すだけだよ。僕達に家族の形を壊す理由なんてどこにもない訳だし」


 それが僕の正直な答えだった。詳しくは分からないけど、恐らくこの世界で魔物と人間が共に暮らすことはほぼ稀な事なのは間違い無いと思う。

 だからと言って、その稀な事を壊す理由なんてどこにもない。きっとそれはシーナも望んでいると思う。


「家族の形、か」


「どうしたのユウマ」


「ちょっと思う事があってさ。僕も、その、色々あったから」


「そういえばユウマが住んでいた倭の国には魔物とかは存在しなかったの?」


「うん。そんなのとは縁遠い国だったよ」


 むしろそんなのが現れてしまったら、今頃日本は存在していないだろうし。


「とにかく僕はミゼさんともう一度話をしてみるよ。それでも駄目だったら、別の方法を考える」


「待ってユウマ」


「どうしたのアリス」


「ユウマの考えていることは間違ってない。だけどその母親もかなり大きな決断をしたと思う。それこそ私達が砕くべきではない」


「でも……」


「ごめんねユウマ、今回ばかりは私もアリスに賛成。ミゼさんの決断を私達は踏みにじるべきではない」


「セレナまで……」


 僕には二人がどうしてそこまでして止めようとしているのかは分からなかった。その理由を知る事になるのは、もっと先の話になるのだけど、今はまだ分からなかった。


「とにかく今は明日になるのを待つしかない。私達は今日は休もう」


「賛成。流石にあれだけの数の敵を相手にしたから私疲れちゃった」


 そう言いながらアリスとハルカは布団に入り込む。僕も煮え切らない気持ちになりながらも、布団に入りセレナも同じように眠りにつく。


(この世界の事はまだ知らない事が多い。だけど、そんなに人間と魔物は一緒にいちゃいけない存在なのかな)


 眠りにつく前そんな事を考えてしまう。セレナとアリスが止めた理由も分からない。確かに僕達人間と魔物は相反する存在だ。でもそれが全てではない。


 そう全てじゃないはずだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ