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影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第4章僕達の日常は常にハード
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第35話異世界でニートはご勘弁

 アルカンディアに帰ってきて、間も無く一週間。フュリーナ水神祭などの疲れが残っていた僕達は、この一週間ほとんど宿から出る事なくダラけていた。


「このままじゃ駄目だ」


「どうしたのユウマ、急に真面目な顔して」


「どうしたのじゃないよ! 一週間僕達仕事にも行ってないんだよ? 冒険者として失格だよ」


「言われてみれば確かに仕事してないけど、別にいいと思うんだけど」


「いや、良くないってば」


 この一週間の生活は到底冒険者とは思えない位酷く、下手すればほぼ丸一日寝てた日もあった。それに甘えていた僕も僕だが、このままだと名前だけの冒険者になりかねない。


「このままだと僕達ニートになるんだよ?! それでもいいの?」


「いいも何も」


「お金はあるし」


「ニートって何?」


 全くやる気のない女子三人組。確かにフュリーナ水神祭での成功はかなり大きく、報酬もかなり入った。でもそれが働かなくていいとは全く繋がらない。


「宿屋のご主人も困ってたよ。流石に毎日居られるのは困るって」


「でも私達家ないし」


「路上生活嫌だもん」


「ユウマだけホームレスになれば解決」


「家は兎も角いつまでもここに居るのは迷惑だって! あとアリス、それ何も解決になってないから!」


 このままダラダラし続けても埒があかないので、三人を引っ張り出すように宿を出る。宿屋の主人には謝罪料として少しだけ多めに料金を支払っておいた。


「うぅ、折角の休日が」


「一週間ずっと休日だったよ?! ほら、ギルドに行って仕事探そう」


「「「はーい」」」


 やる気のない返事しか返ってこない事に、僕は呆れながらもギルドに入る。


「ミナさん、何か仕事ありますか?」


 僕はとりあえず受付嬢のミナさんに仕事がないか尋ねてみる。今の三人にはやる気が出る何か刺激的な仕事が必要だ。


「どうしたのユウマ君、そんなに勢い込んで」


「このままだと僕達はニートになりかねないんです! だから何か仕事ありませんか?」


「ニートって言葉は知らないけど、今丁度四人にぴったりな仕事が届いたの。それに行ってみる?」


 ミナさんは一枚の依頼書を渡してくる。どうやら魔物の討伐依頼らしい。場所もここからさほど遠くないし、体を動かすのにはもってこいだ。


「行きます、今すぐ行きます!」


「そう? じゃあ発注しておくから、まずは」


「ほら行くよ三人とも!」


「えー」


「今から討伐依頼?」


「面倒くさい」


「いい加減にしないと本当に怒るよ?」


 僕は三人を強引に引っ張り、仕事へ出かける。一週間怠けた分、体を動かして取り戻さないと。


「あ、行っちゃった。説明しなきゃいけない事があったけど、まあ現地に行けば分かるか」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 一週間ぶりの冒険者としての仕事として、僕達が引き受けたのはアルカンディアから北に向かった先にある湖に近頃住み着いたという魔物の討伐。


「ねえユウマ、魔物はいなさそうだし帰ろうよ」


「まだ来たばっかりだよね? どうしてそんなにやる気がないのさ」


「だって、水神祭も大成功だったし、あれが私達のピークみたいなものでしょ?」


「ピーク早すぎない?!」


 セレナとそんな会話をしながら、周囲を警戒して魔物を探すものの、気配がしない。確かに依頼は発注されているのに、その目標がいないってどういう事なのだろうか。


「ねえハルカ、あそこで寝たら気持ちよさそう」


「あ、確かに。ねえねえ、皆一緒に寝よう!」


「ハルカもアリスも、そろそろいい加減にしないと」


 そんな僕とは反対に、ハルカとアリスは何故か寝床を探して寝ようとしている。僕はそのあまりのぐうたらさに、いい加減怒ろうと思ったその時、


「待った二人とも、その木から今すぐ離れて!」


「え?」


 それらは動き出した。魔物は見当たらなかったのではなく、既にそこにいたんだ。湖を囲っていると思われた木々達、それら全てが今回の討伐目標だった。

 その近くで眠ろうとしたハルカとアリスは、無警戒でそれに近寄ってしまったので、


「きゃあ!」


「な、何?」


 木の魔物が出してきた根っこに見事に捕まってしまったのであった。


「セレナ、僕が時間を稼ぐから二人の救出を」


「分かった!」


 アリスとハルカをセレナに任せて、僕は久しぶりに剣と盾を作り出す。一週間使ってなかったので、形成できるか不安だったけど、これには問題なかった。

 ただ問題があったのは、


「ちょっとこの数は多すぎませんかね、依頼主さん」


 敵の数。湖にを囲うように生えていた木が魔物と化したのだから、その数はかなりの物だった。流石にこれを僕達四人で処理するのは難しいかもしれない。


「ユウマ、こっちの一体は倒したよ。ハルカとアリスも無事」


「分かった。とにかく数が数だから、気をつけて」


「ユウマも!」


 僕は剣と魔法を上手く駆使して、一体ずつ確実に魔物を撃退していく。アリスとハルカも攻撃に加わり、数は確実に減らせるものの、こちらの消耗も大きい。


「あれ、私こんなに体力少なかったっけ」


「もう……限界」


 特に一週間ほとんど動いてなかった僕達にとっては、長期戦はかなり厳しいものとなり、徐々に追い込まれていった。


(まさかこんなに数がいるなんて)


 おまけに夏の気温の暑さも上乗せして、僕達の体力はもはや限界に近い状態。何かこの状況を変えられる一手があれば……。


「そうだアリス、火の魔法って使える?」


「人形を通してなら」


「じゃあそれを僕に向けて打って!」


「え?」


「いいから早く!」


 アリスは不思議がりながらも僕に向けて火の魔法を打つ。僕はそれを剣で受け止めて、光の剣に炎の属性を付加する。


「木には一番火が効果的だから、ちょっと危険だけど一か八か」


 僕はその剣で一体の魔物を斬りつけ、他の魔物に引火させる。アリスには他の魔物に火を放つように指示し、セレナとハルカには残りの敵を倒すように改めて指示する。


(木を燃やすのは心が痛むけど……)


 敵をまとめて倒すのには、これ以外の方法がない。


 そしてそれから更に五分後。


「こ、これで全部?」


「うん、魔物の気配は消えたしこれで最後、かな」


 ようやく魔物の殲滅に成功。しかしその代償として、湖を覆っていた自然は無くなってしまった。


「それにしてもまさか、ユウマが剣を使えるようになっていたなんて」


「しかも魔法を付加させた」


「これって簡単にできる事じゃないよね」


 戦いを終えて、三人が口を揃えて言ったのは僕が今回行ったこの剣への魔法の付加について。これで二度目になるけど、まさか上手くいくとは思っていなかった。


「最初マゾになったのかと思った」


「私も。ついに変態の域を越えたのかと思った」


「元から変態だと思う」


「ねえ皆、さっきから酷くない?!」


 まあ何はともあれ、今回の依頼は辛くも成功。一週間ぶりの仕事としてはとてもいい刺激になった。


「やっぱり働く事は大事かもね」


「私もそう思う。この大剣はその為にあるし」


「いい汗かけた」


 これで三人も明日からまた冒険者として、働く気になってくれればいいなと思いながら、僕はこの日の仕事を締めくくった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 それから三日程経過して、セレナ達はちゃんとニート生活からは脱却してくれた。

 脱却してくれたのはいいのだけれど、


「さあ今日はこの仕事に行くわよ」


「また討伐依頼? もう少し落ち着いてできる依頼を」


「よし、今日こそは私が最後の一撃を与えてみせる」


「ハルカには負けられない」


 今度は三人を戦闘狂に目覚めさせてしまい、この三日間で受けた討伐依頼の数は二桁に登る。全部成功して、報酬はたんまりなんだけど、毎日魔物と戦っていたら流石に僕の体力が限界に達してしまう。


「ほらユウマも行くよ」


「ごめん僕は今日は行けない。全身が痛い」


「何情けない事言っているのよ!」


「男とは思えない」


「働けニート」


「つい三日前まで働こうともしなかった三人には言われたくないよ!」


 結局ミナさんが止めに入るまで、この三人の戦闘狂は止まらず、何と一週間で三桁近くの魔物を倒すという偉業を達成したのは、後にこの地の伝説として受け継がれる事になった。


 ニートも良くないけど、働きすぎにも注意いましょう。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「はぁ……疲れた」


 ようやく戦闘狂の三人の熱が冷め始めたある日の夕刻頃、依頼の報告を終えた僕は宿屋に戻ろうとしていた。


(まさかミナさんに止められるなんて……)


 流石にこの一週間仕事を引き受けすぎて、ストップがかかってしまったので、またしばらく受けられそうな仕事がなくなってしまった。


(これでまたニートにならなきゃいいんだけど)


 溜息を吐きながら宿屋に着く。しかし何故かその入口には荷物を持った三人の姿が。


「あれ? どうしたの」


「宿屋のご主人に追い出されました」


「まあ、いつかはそうなるよね……」


 僕達四人は同じ宿にずっとお世話になっていた。料金もちゃんと払っていたけど、やはり同じ客がずっと部屋を占領し続けるのは良くないらしい。


(この世界に来て一ヶ月半、宿屋生活もそろそろ終わりかも)


 水神祭でもらった報酬と、この荒稼ぎしたお金を使えば、もしかしたら何とかなるかもしれない。


「仕方がない、そろそろ探そうか家」


「やっぱりそういう結論になるよね。私達も同じこと考えてたの」


「仕事先の宿はまだ問題ないけど、アルカンディアをこれからも拠点として動くなら、宿屋生活もそろそろ卒業しなきゃ」


「でも今夕方だから」


「もうお店やってない」


「あ」


 この日僕達は宿屋を恨めしく見ながら、この街で恐らく初めての路上で寝泊りをすることになったのであった。


(ニートからホームレス、いいことないなぁ最近)


 日本だったらありそうだけど、こんな異世界に来てまでまさかこんな目に合うなんて、僕はある意味で不幸なのかもしれない。



 翌朝。


「ねえ別にこんな外で寝なくても、ギルドの中で寝ればよかったんじゃない」


「僕もそう思ったけど、それは言わないでぇぇ」


 どうやら自分を不幸にしているのは、自分自身だったという事が身にしみて分かりました。


「と、とにかく店も開いているし、早速探しに行こうか僕達の家」


「なんかそれ気持ち悪い」


「ユウマに家はいらない」


「私達三人だけの家でしょ?」


「それ本気で言ってたら、僕泣くよ?」

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