第13話滅びた村と大剣少女③
「ほ、本当の理由なんてあるわけないでしょ。私はただ、この村から離れたくないだけで」
「僕も話を聞いた時はそう思った。この村を、自分の居場所を守りたいって。でも、ハルカの家に入って気がついたことがある」
「気がついた事?」
見た目は普通の部屋だし、何の違和感もない。でも僕が目に付けたのはそこではない。彼女が住処としたこの家の構造だった。
「ここ元は家とかじゃなくて、何かを守る為に作られた建物でしょ? 普通の家と比べたら部屋は縦長だし、それに」
僕は部屋の奥に視線をやる。その地面には人が通れるような扉があった。恐らくあの地下の先に何かがあるのだろう。
「変な観察力持っているんだね。……でも正解よ」
「離れたくないんじゃなくて、離れないんだよね?」
「うん。これだけは何があっても守りたいから、私」
そこまでして彼女が守りたいものが何なのかは分からないけど、もしそれが本当ならば彼女は、この先もそれを守る為に居続けるのだろう。
たった一人でこの村に。
「そうか、それなら」
「納得してくれた?」
「うん。ミナさんにもそう説明しておく。だけど、一つ頼みを聞いてくれないかな」
「頼み?」
「僕達にもそれを守るのを手伝わせてくれないかな」
「え?」
思わぬ言葉が出たからか、驚きを隠せていないハルカ。この先も彼女が一人で居続けるなんて、あまりにも可哀想すぎる。一年だけでも本当は辛かったはずなのに、更に何年も一人でいるなんて僕だったら耐えることができない。
「て、手伝うってどうやって」
「ここからアルカンディアまで半日かかる距離だから、毎日というわけにはいかないけど、定期的に僕のパーティのメンバーがクロムにやって来る。そうすればハルカだって、一人ぼっちにならなくて済むでしょ?」
「そ、そんな事本当にできるの?」
「やってみるさ。皆だって話せば理解してくれる」
「嬉しい……。でもいいの? 本当に」
「何度も言わせないでよ。やるって決めたからには、やる。理由はそれ以外にない」
「ありがとう、ユウマ」
この世界に来て、間もなく一週間。こういう事をどうしても放っておく事ができない僕は、また新しい挑戦を始めることになったのだった。
■□■□■□
結局その日は、ハルカと長話をしていたせいで大した睡眠時間が取れなかった。でも長く話したおかげで、ハルカとは打ち解けて、なかなかいい一晩を過ごせたのだった。
そしてまだ皆が寝静まっている早朝。
「ふわぁ」
一番最初に起きた僕は、外の空気を吸いに外へ出ていた。
(やっぱり慣れないところで寝ると、ぐっすり寝れないなぁ)
まだ宿のベットは寝やすかったけど、ここは布団もなかったので地面で寝ていた。その為、起きるのも自然と早くなってしまった。
(それにしても……)
改めて村を見直すと、魔王軍の力がどれほどのものだったのがよく分かる。一年経っても、こうして形に残っていて……。
(あれ、よく考えたらおかしくないか)
村が滅びたのは一年前だというのに、どうしてここまで形をキープ出来ているのだろうか。一年も経てば、こんな風に当時のような形を残せるのなんて普通は難しい。
(ハルカが守ろうとしているものって、もしかして)
時間を止める何かとかなのだろうか。
「永遠の魔法、我々はそう呼んでいる」
声がどこからか聞こえる。
「誰だ!」
僕は声がした方を向くが、そこには誰もいない。
「ここだよ、少年」
背後から声がしたかと思ったら、僕は強烈な眠気に襲わる。
(睡眠魔法か)
僕はギリギリのところで意識を保ち、声の主と対峙する。
「あの狂戦士を討ち取った者と聞いたが、まさか私の睡眠魔法に耐えきるとは」
僕を襲撃したのは、フードを被った人物。顔は認識できないものの、声からして女性だろうか。
「お前は何者だ」
「それはこちらが聞きたいところだが、それはいい。それよりこの村の事を知りたいのだろう」
「何か知っているの?」
「知っていると言えばク嘘になるかもしれない。しかし、この村にかかっている魔法については知っている」
「そういえばさっき、永遠の魔法って言っていたけど、それの事?」
「永遠の魔法、それはまさに言葉の通りで、すべての時間を止めて、永遠の時を過ごす事ができる。ただし、その代償としてその魔法を使ったら、その者と周囲の人間の時も止めてしまう」
「それってどういう」
「そこにいる少女に聞く方が早いだろう」
「あ」
背後から声がする。そこにはハルカが立っていた。
「ハルカ」
「ごめんユウマ」
それだけ言うとハルカは逃げ出してしまう。僕は急いでその姿を追う。
「待ってハルカ、君はもしかしてこの村に」
「私は……私は」
彼女の足取りは重かったのか、すぐに追いついてその手を掴む。
「何かあったならちゃんと教えてほしい。僕やアリスにも分かるように」
「私はただ、この村を永遠のものにしたかったの。たとえ魔王軍の襲撃でボロボロになったとしても、形だけを残しておきたかった。たとえそれが、大きな代償を払う事になったとしても」
「じゃあハルカは本当に」
「私は一生この姿で過ごすの。しかも死ぬ事もできない。だから一人で……ずっと過ごしていたかった」
「じゃあもしかしてミナさんは」
「それも分かっていて、私を保護しようとしていたの。でも私はもう……」
そこまで言ったところで、ハルカは泣き崩れてしまう。たぶんずっと誰にも話せなくて、辛かったのだろう。でも今は彼女の側には僕達がいる。
「昨日も言ったけど、ハルカはもう一人じゃない。僕達が協力する。それだけは絶対に約束するから、信じてほしい」
「ユウマ……」
気がつけば空は、今の彼女の心を表すかのように雨が降り出していた。