波紋
葉月は目の前で子供のように声を上げて泣く少女を抱きしめる力を強めた。
その手にある少しだけ年季の入ったリボンを彼女に見えないように握りこみ、開いている反対側の手でその頭をゆっくりなでる。
まるで小さな子供をあやしているかのようなその優しい手つきは、少女の涙を加速させた。
泣きつかれてしまったのか、しばらくすると目を閉じすっかりおとなしくなってしまった少女を自身の体にあずけたまま、葉月はそっと耳を澄ませる。
分厚い雲の壁に阻まれているというのにかすかに聞こえてくる破壊音は、彼女がもう魔力を制御できなくなっていることの証明だった。
「私、何してるんだろ。奇跡を起こせたのに、うれしさより後悔の方が大きいなんて」
葉月は心ここにあらずといった様子で視線を上げる。
視線の先に天井はなく、きれいな青空がまるで「いつでも待っているよ」と言わんばかりに広がっている。
口の中に広がる鉄の味に顔をしかめながらも葉月は引きつったような笑顔を天に向けた。
「へんなの。私って思っていたよりも人間だったんだな」
葉月は壁の向こうで戦っている魔法少女たちや、自分に様々な影響をくれた人たちのことを思い浮かべ、そして決意を固めたかのように再度変身をした。
「片づけは苦手だけど、このくらいはしないとね」
前髪に隠されていた濁った瞳が左目同様に光り輝く。
それに反応してか、ショコラミントは魔力が高まる感覚に体を震わせた。
「お姉さん・・・いや、私の命の恩人にして最も尊敬するべき史上最強の魔法少女、ストロベリースフレ。
・・・私のわがままで苦しめてごめんなさい。この責任は私がとるから、私のことを許さないでください。
そして、ありがとう。貴女のおかげでこの世界に価値があるって思えたよ」
ショコラミントは眠る少女を傍らに抱きしめながら、握りこんだままだったくすんだリボンに魔力をこれでもかと送り込んだ。
リボンの中心にある金属の小さな玉に集中して魔力が流れ込んでいき、一気に熱を帯び始める。
その熱さに手のひらが焼け、煙を発しても、ショコラミントは顔をしかめながらその手を離そうとはしなかった。
どんどんなにかの気配が大きくなっていく。
その気配は壁の外で戦っている魔法少女たちにも伝わっているようだ。
「おい!何をするつもりだ!」「馬鹿な真似はやめなさい!」などショコラミントと面識のある魔法少女たちの抗議の声が壁の外から聞こえてきた気がした。
それでもショコラミントはそんな声に耳を傾けることはなくいたってまじめな面持ちで、手のひらにありったけの魔力を集中させていった。
『魔力抑制装置について?そんなこと聞いてどうするの?あなたは魔力制御完璧だから発動することなんてほぼ確定でないのに』
『まぁ、その・・・いろいろ知っておいた方がいいかなって思って』
『まあいいけど・・・もっと安全装置を良いものにするための研究を進めたいんだけど、なぜかかたくなに追加の研究予算申請が許可下りないのよね。財務省にまた文句言わなくっちゃ!』
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『いい?魔法少女が安心して全力で戦うための装置だけど、さっき教えた通り一歩間違えれば自爆装置になりかねないから使い方には気を付けるのよ?』
ちえり大臣の声がショコラミントの脳内で思い起こされる。
ショコラミントは噴き出す汗をぬぐうことなく、額を少女に軽く当ててから穏やかな表情で目を閉じた。
一瞬の沈黙が流れた
時が止まったかのようにも感じたその沈黙ののち、間もなく大きな爆発音が雲の塊をきれいさっぱり吹き飛ばす。
魔力の波紋が空中で戦っていた魔法少女たちをやさしく押し流していく。
雲が切れ、青空が町の上空に顔を出すと、そこには二つの宝石だけが残り、再度沈黙があたりを包み込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・葉月・・・?はづき、はづきぃ!!!」
ハッとしてから取り乱し、泣き叫ぶソルトエースをデビビンとうーにゃんが取り押さえている間にデスサイズがその宝石を両手で受け止めた。
「本っ当に馬鹿で短慮で身勝手な人」
デスサイズの声はどこか寂しさとまとい、空気に溶けて消えていった。
「あなたが留学から帰ってくるまでは仕方ないから私が町を守ってあげるわよ」
飛行機を見送りながら、やよいは端末から記者会見の生配信に視線を落とした。
《魔法省を思わせるようなロゴを使用し、魔法少女を性的搾取しているサイトの運用組織を先日摘発しました。この事件をきっかけに法の改正を進めていくことが可決しました。》
ちえり大臣を中心に護摩と達磨の二人をはさみ、複数のスーツ姿の男性が並ぶ会見画面を閉じてから、やよいは空港のベンチから立ち上がった。
「あなたが目指したものが何だったかわけがわからないけれど、少なくとも誰も傷つかない世界に一歩ずつ近づいているとは思うわ」
エルエルは事件ののちに「パートナーを探す旅に出るエル!」と言い残し姿を消してからやよいのもとには連絡ひとつよこしてきていない。
青い空の下、きれいに整えられたとあるホテルの一室に、誰かの生活していた痕跡が今だ残っている。
その中で、部屋に作り付けられた白い化粧棚の上に、三つの宝石が陽の光に照らされて輝いていた。
そのうち二つは輝きこそ失われているものの、壊れる様子はなく力強い不思議な空気を発しているようだった。
10年後の春
「エルエルは魔法少女のパートナー妖精、エルエルだエル!二人は魔法少女の適正があるエル!」
手をつないで帰宅を急ぐ二人の小学生に小さな飛行物体が話しかけていた。
「え?」
「私たち?」
ずり落ちかけたランドセルを背負いなおし、二人が顔を見合わせる。
「このマジカルジュエルが君たちに呼ばれているんだエル!魔法少女ミルキィと魔法少女ステラとして、闇をつかさどるものを倒してほしいエル!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これにて完結とさせていただきます。
もう少し日常会を淹れて引き伸ばしたかったのですがネタ切れ&最終話までの大まかなストーリーが確定していたのであまり寄り道できませんでした。
また機会があったら他の魔法少女にフォーカスしたお話など書きたいなと思ってプロットを作っていますので、その際はまた読んでいただけたら幸いです。
後日この作品の紹介をする動画をyoutubeにて投稿予定です。
各魔法少女のキャラデザなども動画にて公開しますので楽しみにしていてください。
ぜひ視聴よろしくお願いします。




