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うつくしい二つの人形  作者: あさぎ
一章 人形は歩き出す
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2.転生した社畜は奴隷となって

 


 ここは、おとぎ話のような中世ヨーロッパ風の世界だ。


 今いる地域は、その中でも田舎の方。

 昔ながらの石畳のアンティークな街並みで世界的にも有名で、観光客も結構多いんだとか。

 なかなかオシャレで趣のある街らしい。


 らしい、というのは……人から聞いただけで、私自身で見た事が一度もなかったからだ。

 この世界に転生してきてからずっと屋敷で働き詰めで、たったの一度も外に出た事がなかったから。


 でも、きっと。

 自分から聞きに行ったわけでもなく、ただ耳にしただけでここまではっきりと覚えてしまったくらいなのだから……つまり、そうなるほど多くの人が口を揃えてそう言うのだから、きっと外の世界はよほど綺麗なんだろう。


 色んな人がいて、活気があって、面白くて。

 優しい人もいれば、盗賊とか悪い考えを持った人もいて。

 いつも何かしら変化があって、新鮮で。


 きっと、綺麗で汚くて……それでいて、賑やかなところだ。


 きっと楽しいところなんだろう。




 ……とここまで自分で散々言っておいてあれだが、行きたいとは微塵も思っていない。


 それはそれでまた別の話なのだ。




 人々の思惑が絡み合ったたくさんの情報、そして複雑な世間のしがらみ……


 なんとなくうまく『空気を読み』、その時その時でその社会集団にとっての『常識を踏まえる』ように言われて……

 またそうやって、見えない何かをどんどん強要されるようになって……


 こうして想像しているだけでも、なんだかどっと疲れてしまう。




 いつもどこにいても浮いてしまって、何ひとつまともにできない私。


 毎日食べて、飲んで、寝て。

 そうやってただ生きているだけで疲れてしまう……それが、私。


 人間として生きるのに、全く向いていない。

 社会の常識だとか、普通はこうだとかそういった基本的な知識が足りてない。


 足りてないから、生きるのがつらいのか。

 生きるのがつらくて動かないから、足りないのか。


 分からない。


 ともかく……前世の私と今の私、どちらもそうだった。


 だから本質的な生きづらさ、生きる事の息苦しさははたいして変わらなかった。




 苦しさのあまり自殺した私を待ち受けていたのは、また新たな地獄だった。


 毎日のキャパオーバーすぎる仕事量に、上司からの罵倒や暴言の嵐、無理難題ばかりの理不尽な業務。


 それが、今度は……


 広すぎていつまでやっても終わらない草むしり、埃一つ落としてはいけない屋敷の掃除、主人からの理不尽な叱責や暴力。


 ……となった訳だ。




 舞台こそ大きく変わったが、その本質はほとんど似たようなものだった。


 いや……会社への通勤という概念がなくなった分、ある意味楽になったのかもしれない。


 とはいえ体感ではどちらもほぼ同じで、私の生活は転生したところで結局何も変わらなかった。




 しかし、そんな環境にどこかホッと安心している自分がいた。


 以前は会社、そして今回は屋敷での奴隷生活。


 ひどく閉鎖的なそれらの空間は……苦しみを与え続けながら、社会にいられない私をある意味守ってくれてもいたのだった。



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