ポストクレジット 又は、ポストプロローグ
いい呼び名を思いついたときに、シーン名を変えておきます。
黒き天。そう我らを覆いつくす。
永遠に開けぬ夜。
これが、相手は枷になると思っているらしい。
その黒の主月より、闇より深き柱が、光宿る都に落ちようとする。
今宵も、自らの行く末すら知らぬ、哀れな贄を捕えようと、その食指を伸ばしてくる。
それが、都に触れようとした時だった。
それを蒼い光が焼いた。いや、それは、蒼い光のような物に侵食されたが正しいか。
それに大きな爪痕が生じた。空に横に痕まれた、それ。ただ、それだけの行為で、黒の浸食はたちどころに行き場を失う。止まるそれを一顧だにしない。縦に斜めに、横に爪痕が生える。抵抗しようと、闇が爪痕を包み込む。それを意にも介さず、また、空に新しい爪痕が生れる。産まれ、闇が切り払われ、また、爪痕が生れる。
焼かれる痛みに耐えきれなくなったのか、悲鳴にも似た叫びを上げながら、月へと逃げ帰ろうとする黒き闇。
その黒が集まる先端が光に打たれる。その撤退速度が明らかに鈍る。伝わってくるのは困惑。伸ばした手は月に届かず、幾度も打ち抜かれる。早さも、数も、手段も関係なく。
ならば広さを、只逃げ切るだけの可能性を。天に、広く広く。薄く広がった闇。爪痕も光もそれに届かない。攻撃が一瞬途絶える。その瞬間を見逃す闇ではなかった。必死に逃げる。
それの前に、光の網と蒼い太陽が立ちふさがる。
「残念だけど」
「ああ、残念だ。ここで終わりだ」
闇を捕える蒼き光の網とすべてを焼き尽くす太陽の光。注がれる光が、その闇のすべてを溶かしきった。
「こんなものか」
爪痕は、ただ呟き、六翼を広げた。
「文句は言わないの。暴れられるだけいいと思わないと」
光は、爪痕を諭して、標準を逸らした。
「あ~あ、出番なしか。少しつまらない」
陽光はそう呟くと、僅かに残った憐れな闇に、只余った力をぶつけた。
「……」
太陽は何も言わずに、陽光をの襟首をつかみ上げると、そのまま地上に降りた。
そこにいたのは、獣の軍勢。完全装備であったそれは、空から降り来る4の六羽を警戒しているようだった。それを気にもしない様子で、広場に4つの六羽は降り立つ。蒼き光が、まるで自らの存在を誇示するように、その場にあった。
その場は誰も動くこともできなかった。
そう、それが顕れるまでは、
パン!パンッ!!パッパン!!
「アメージング!いや、マーベラスと言った方がいいか。実にいい。
君たちは、やはり最高だ。
他が染まることを許さぬ、圧倒的な暴力。逃れることを許さない、無慈悲な断罪。広域を圧倒的な力で包み込む、緩きなき支配。あと、今回はあまり役に立たなかったが、啓蒙する叡智。いや、素晴らしいものを見せてもらった。
ほんとうに2万年ぶりにその全てを見せてもらった。ああ、君たちにとっては、それ以上前もあったのか。
衰えることのない、否。より洗練される――その働き、私と言えども、感を揺さぶられないことはなかった。
素晴らしい働きだ。憧れ、忌みた2万年前のように、そして、今のように」
一兵士が拍手をすると同時に、その姿が変わっていく。その姿に、即座に司令官と思しき人物は、膝をついた。
それを見た軍分隊に衝動が走ったのち、皆が同じく膝をついた。
「ただ。完璧な君たちにはほんの僅か完全になりうる、それが、足りない。本当に少し。だが、絶対的なほんの僅か。それが足りない。ああ、絶対的に足りず、君たちだけでは作り得ないものだ。――……。」
「皆まで言うな。――。いや、今は、皇帝と名乗っているらしいな。ずいぶんと偉くなったものだ。ただ、あれとお前との誓約に基づき、お前をお前が望むように呼んでやる。で、皇帝陛下。何か御用ですか?」
その爪痕――暴力の言葉に、それは、微かに意外な表情を浮かべた。が、すぐに、浮かんだのは、満面の笑みだった。
「ああ。強く、そして強くをよく求める君とは最期まで意見が合わないと思っていた。
だが、それは、私の考え違いだったようだ。ああ、君はそうでもなかった。そうでもはなかかったようだ。
ああ、――。良かった。実に良かった。
そうだな。ああっ。望む、望まぬ――や、ここでは、望んでと言った方がいいか
君と初めての意見があった。
それはとても。とても、幸運なことだ」
すっと、皇帝は、爪痕に視線を向ける。それに割って入ったのは、支配だった。
「そこまでにしていただこうか。無貌の獣。いや、移民船団最終意志。懐かしさとケンカを売りに出てきたというわけでもあるまい」
「ああ、そうだったね。
少し言っておくと、きみは、元来の気質が過ぎる。あまり引きずられないように気を付けておくことだ。
まあいい。
君たちの共有機構に、彼女。
いや。私の――が見つかったと連絡が来てね」
その一言に、4人は、一瞬で緊張状態に入る。それに対して皇帝は微かに眼を閉じ、両の掌を開いて見せる。敵意はない、そういうジェスチャーだった。ただ、口元の笑みは消えず、高揚と悦楽の中にいることは確かなようだった。
「ああ、君たち。君たちに敵意はないし、彼女の同胞に何の無体を働くことなどない。だから、緊張しないでくれ。ああ、その調子で、腕を下ろしてもらえるととても助かる。
わが国で保護している――あ~、こういうやり方を、君たちは嫌っているかもしれないが。
君たちの端末……いや、それとも、彼女たちの侍女か?それとも友人?
彼女たちから聞いたことだ。確実なことだろう?
ただね。君たちならね――」
皇帝の確かめるような言葉に、緊張は解きながらも警戒は解かなかったが、爪痕の視線に、叡智は答えた。
「ええ、2か月ほど前。確認しました。それからたびたび確認。まったく、無茶をしてくれます」
その言葉に、皇帝はしばしの沈黙の後、おそらくの逡巡の後に満面の笑みを浮かべた。
「ああ、良いね。
君、諦めることなかれ。……君が、諦めることなければ、君の夢はいずれ必ずかなう。
故に……。
ああ、そうだ。あの時の言葉。その言葉の意味、ただの戯言、甘言と思っていた。この身。
その時から、彼女の憧れ、歩みよりは、我らにとっての救いになった。
だが、この状況に追い込まれた。
そう、今ならばわかる。ああ、そうだ、夢を見るのは、人型にある特権などではない。
真たる祷りと確たる絶望の果てに見る夢の果て。叶わぬと思ってしまい、それでも捨てられず、永劫の闇と地獄を――あなたのいない夜を悶え苦しみ。そして迎えた暁。
だからこそ、そこに花は咲くのだろう。それが、短命のものであれ、われら獣であれ。
ここにいたって、漸くにあなた様のおそばに一歩を近寄れた。ようやくに、この永きを経て、ようやくにわかることができた。この過ごしてきた耐えがたき天上の導なき、我らの孤独は決して無駄な歩みではなかった。と。」
皇帝の笑みに、しばし沈黙が流れた。
「ああ、あんたの愛するもの。――。あのポンコツのことか。
あんたの言うことなど分からないが、
俺――。いや、今は、わたくしか。ややこしいな・まあ、どうでもいい。
勘違いしているようだ。少し訂正させてもらう。
わたくしは、あいつが嫌いではないです。
否。むしろ好きかな。
好きなところを上げるときりがないが。声が好きだ。面立ちが好きだ。撫でる様なかただ好きだ。借り物の翼が好きだ。努力しているその体つきが好きだ。わかっているくせに何かに抗おうと必死に努力しているその足掻きが好きだ。捨てないといけないといけない物を未練たらしく捨てられないのも好きだ。無意味にプライドが高いところも好きだ。
特に、さっきの言葉に、何の反論もできないのに、強気でいようとするその姿勢は流れるはずもない感涙すら誘う。
そう言うところが好きだ。
あとは、嫌いだ」
爪痕は、少し早口にそう言うと、興味が失せたとでもいうように、背を向ける。
「あなたが嫌いなところを含めて、私が彼女を好きなと云えるところです。
では、爪痕も認めてもらえますね。
彼女は、私たちがもらいます。彼女は、私たちが護ります。
それこそが、彼女の為になるのでから」
その言葉に、かすかに爪痕は不機嫌そうに立ち止まる。近くにいた太陽は、それに気が付いたが、気づかないふりをつづけた。
「あれは、お前のものになんてならないよ。
あれは、わたしたちものだ、ほかの何にもならない」
反応したのは、光弾だった。不機嫌そうに、息を吐き、一気に言い切る。その声にこたえた。問いを受けた皇帝。その答えは。
「本当にあなたたちは変わらない。
それとも変われないのか?
そこには、天上の至幸があることを。そして、すでに己のうちにあることすら認め得ぬ。異種共が……」
憐笑だった。




