↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/87

力の開放 5

 デルタステータスに、確かにそれはあった。


『確かに 今日の定期メンテナンス時はなかったはず  いったいいつの間に 共有記憶にアクセスしたというのだ?デルタ 何かわかるか?』


「わ、わからないけど、これってどうすればいいの?見たこともないステータスが、いっぱい表示されているんだけど、ゼクスマキナ」


 さっきまで表示されていた、ドレスの状態や、残弾数などのステータスの代わりに表示されていたのは、デルタが今まで見たこともない数字や文字の羅列だった。唯一その中で読み取れたのjは、世界干渉の値だけだった。その数値は、10+と示されている。


『デルタ 今から お前にしかできないことを  依頼する』


 デルタは、ゼクスマキナの言葉に力強く頷いた。今までになく緊張しているはずなのに、デルタの心中はこれまでにないほどに、落ち着いていた。その状況をゼクスマキナは、確認したのだろう。少し言葉を切って、そして続けた。


『心の中にある記憶を呼び起こせ  あの記憶を  余すことなく』


「あの記憶?」


『瞼の裏に焼き付いている記憶だ  それは デルタが望むのならば 今ならば見えるはず』


 その言葉の意味が解っているように、デルタは頷いた。そのままに、すっと瞼を閉じる。瞼の裏は、あの日につながっていた。



 

 視線の先には、ひたすらに絶望的なほどに蒼い空が広がっている。冷たくて懐かしくて、でも、なぜかそれはとても悲しい。視界を遮るように、溶けて柔らかくなった岩や鉄がふわふわと浮いている。それを脇目に見ながら、その中をひたすらに落ちていく。やがて、いくつもの層を超えて、中心に進んで行く。まるで魅かれているように、もう……止まらない。


 

 いつからか、蒼い空と自分の体の境界が消えていく。蒼い空が自分になっていく。自分が蒼い空になっていく。


 その蒼い空の中から、同じように蒼い手がデルタに差し伸べられた。ほのかにそれは、暖かい。腕に抱かれて、微笑みを浮かべて眠る。


 それが、知っている世界のすべてだった。


 

 

 その手が消えていく。空を砕いて、怖いものがやってくる。




 いつも(知っている世界)が終わった その刻(とき)の記憶




 デルタは、再び、目を開いた。目の前のHUDには、もう、さっきの表示はなにも見出すことはできなかった。たった一つを除き、すべて消えてしまった。


「これが、私たちの世界の力、その底にある空――確かに見えたよ」


 デルタの中から、蒼い光が……閃光となって解き放たれた。




 獣は、勝利を確信していた。


 あの機体は、弱い。この表皮を破き、中心にまで届く火力を持っていないことは、先ほどまでの攻撃で認識していた。勝利は確実だ。なぜならば、獣は、仲間の中では、たぐいまれなき頑強さを誇っていた。いかなる攻撃からも、かの御方を守って見せよう。それは獣の誇りだった。


 奇妙な攻撃を仕掛けてきているおそらくあの機体の仲間がいた。攻撃の苛烈さは、あの機体をはるかに上回っていたが、それでも、獣を止めるにはあともう少しが足りなかった。



 獣は吠えた。同胞たちの為に、愛おしき創造主の為に。獣は誓約して(誓って)いた。過去の過ちは決して繰り返さない。現在(いま)の世界を歪めるすべての不正を正す。


 その瞬間だった。獣の瞳を、蒼い閃光が灼いた。なんとない閃光。ただ、それは、獣にとって思い起こすことを許されなず、わずかに触れることも、躊躇うような穢れ、忌避すべき念入りに砕き鎮めた蒼ざめた記憶。それが墓場からまるで這い出ように、小指の爪の先の先をねとりと出した。


 たったそれだけのことで、たったそれだけで、想像を絶する嫌悪と無力感が獣の底からにじみ出す。忌まわしき記憶に焼かれ、獣は怒りの咆哮を上げる。忌憶死すべし、排すべし。一切の慈悲ない。


 ただ、黙すべし。


 その怒りのままに、獣は、自らの持つ最大の火力を、その閃光の元に叩き込むことにした。煌々とした紅い火が口の中に生まれる。それを吐き出そうとしたその時だった。



 獣の体のあちこちに小規模な爆発が生じる。


 微かな不快を感じて、獣は空を見上げた。そこには、


「へ、獣の親玉さん、ハエにたかられる気持ちはどうだ?たっぷりとたかってやるぜ」


 魔属領の飛行兵が、小型爆弾を次々に投下していく。なぜと思いながらも、それを追い払おう――と、した瞬間だった。大量の砲弾が、同時かつ正確に、獣に襲い掛かった。不意に生じた巨大な圧力に、一瞬獣のバランスを崩す。獣をイラつかせるのに十分だった。


 そこにあったのは、獣にとっては見たこともないものだった。いや、近いものは知っている。だが、ここまでの性能は持っていなかった。再び、火砲が開く。正面から受けたはずの獣の巨体がわずかに浮いた。地を走る小さき戦車たち。それが、火砲を開いた。


「Turret stance coordinate input 7-1-1. 10 seconds later simultaneous salvo... 4, 3, 2, 1, 0 Fire」


 無線の先からは、意味も読み取れない言語が聞こえてきた。その後、再び直撃弾。体表にまるで、巨大な焔の花が咲いたようなその攻撃を、獣は驚きと戦慄をもって受け止めた。そして、刹那の後に、悟った。これは、我らに敵成す存在であるということに。


 もはや、なりふりなどかまっていられない。そう思い、獣は、力を集中させて、対象に体を向ける。方々から、火力が集中するが、深く腰を落した正面からくる攻撃に抗うすべなど、とうの昔に習得していた。眼前の蒼い閃光はまだ小さい。



 勝った。



 獣の脳裏にその言葉が浮かぶ。炎を束ね、火線となす。束ねられるぬ、火球とは一線を画す力。それは、大地を焼き、陣を薙ぎ払う。味方も敵も薙ぎ払い、ただ、本当に倒すべきそれだけを目指す。それは、動くこともなく、火線の奥に消えた。



 勝った。



 一瞬のセンサーアウト――‡   ‡使用……………………反応なし。




 勝った   勝った――――――――勝った。ようやく



 獣は吠えた。



 歓喜と感激……獣を突き動かしたそれを、誰も責められもしないだろう。




「悪いな。恨むなら今の雇い主を恨んでくれ。戦闘姫をお前にくれてやるわけにはいかないとの命でな。」


 不意に、炎が引き裂かれ、棒きれが飛んでくる。


 棒?……否、あれは槍だと思った瞬間だった。再びの攻撃。正体不明ながら、総体積の約1割が消し飛んだ。


「さて、露払いは、ここまででいいか。さて。いいぞ、戦闘姫。存分にやれ。」


 聞いたことのある声が、獣の耳朶を打った。そんな馬鹿なという気持ちと、その行動の帰結に非常に納得のいくいう気持ちが、同時に体を駆け巡る。



 異常はすぐに起こった。獣は何かを思い出した。でも、それは、形になることもなく、ただただ、内なる叫びへと書き換わっていった。




 デルタは、最後の調整に手間取っていた。蒼い光は、逆巻荒れ狂いながらも、デルタの中にあった。


『世界干渉20突破  デルタ  これ以上はサブドレスでは 危険だ  』


 それは、デルタもわかっていた。力はただ集まって、蒼い光を形成していたが、それは、何かを成すわけでもなく、ただ、いたずらに閃光と蒼雷となって消えていく。


「せ、制御できないよ。こんなの。」


 記憶から、確かにデルタは、力を得た。しかし、得た力の制御も知らないし、それはとても制御できるようなものではないそう感じていた。


『デルタ 力の開放制御率低下  現在制御率12%  制御不可能  レッドゾーンに突入する  デルタ』


 見えている蒼い記憶に焼かれていく。HUDの一部が火を噴いたのを感じて、デルタは思わず目を閉じた。

 



「いえ、メアリ様。私、無属性だったし、精霊は見えなかった。私には、だれも話しかけてこなかったわ」


 なぜか、あの日の教会が目に浮かんだ。デルタが失意に沈んでいる時、目の前には、満面の笑みを浮かべた義姉のメアリがいた。肩にそっと手を添えられて、そのまま、強く抱きしめられるように、引き寄せられる。


「デルタ。かわいそうだけど、それでよかった。あなたには……何もなかった。あなたは何もなかった。それでいいの。」


 失意に沈んでいるデルタはそれに気が付かない。メリアはそれでも、言葉を繋げる。


「私を忘れないでいて。私は聖女になってしまう。ううん、聖女にしか慣れないけど、私を忘れないで。失敗作でもいい。お願い。生きて。生きてまた会いましょう。……私、デルタの分まで生きて行くから。……お願い。……本当に皮肉。私は、この言葉が届かないって知ってるのに。でも、きっと、あなたは生きていられる。きっと、実験棟の人たちは、あなたに良くしてくれる。デルタ。生きて……また会いたいよ。また、お姉さまってデルタに呼んでほしいよ。……だから、デルタ。忘れないで。貴方には、メリアっていういじわるなお姉さまと、メルファっていう意地の悪い継母がいた。そこから巣立って、あなたは幸せになるの。」


 小さくて弱々しい声だった。なぜ気が付かなかったのかとデルタは思わず不安に感じた。


「あなたに、会えたこと。そして、あなたと過ごせて本当に楽しかった3年間を私は誇りにしている。遠からず、私は逝くわ。デルタ、あなたの生涯が無事になることを祈っているわ。では、デルタ、いずれどこかで会いましょう。私のこと、忘れないでね……お願いだから、忘れないで」


 小さな背中は声も出さずに泣いている。それに初めて気が付いた。手を伸ばす。気付く。あの時、本当は、どうしたかったのか。



「本当は、わかっていたのかもしれない。」


 すっと手を伸ばした先には、獣の姿があった。あれだけ荒れ狂っていた嵐はいつの間にか納まっていた。初対面の時の獣は、あんなに大きくて、あんなに怖かった。それなのに、ここからならば、まるで、手の中にすっぽりと納まるように小さい。


「世界は、力。そして、その世界の力振るうのが、力の開放。」


 漏れ出ていたエネルギーを一気に、内部に圧縮させる。溜まっていたエネルギーを一気に解放する。


 蒼い閃光が、体内から沸き起こった。デルタは、再び、獣を見据える。そこには、大きなダメージを受け、地に伏せながらも、一切の闘志を失っていない獣の姿があった。その姿に、ただもがいていただけの過去の自分が被る。それを、頭を振って振り払った。


『世界再編率 1% リアクター浸食開始  エンジン稼働率300%』



 ゼクスマキナの声も遠く聞こえる。すっと、息を吸うと、伸ばしていた手に、もう片方の手を握り組み合わせた。手と手の中に、何かが生れる鼓動を感じる。蒼い鼓動が手の内よりあふれて、外を目指している。


「干渉兵装 『力の開放』 構築」



 

 デルタは、その鼓動を、目の前の獣に解き放った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。