帝立学園の戦闘姫 1
実験棟の入り口の先には、馬車が待ち構えていた。横には大きく実験棟のマークがしるされている。
「さあ、さあ、夕方までは早いいんだ。乗った乗った」
御者の人にせっつかれるまま、デルタと、アリアは馬車に乗り込む。扉が閉まる音がすると、すぐに馬車は走り始めた。
その馬車の中で、デルタは、アリアからの説明を受けていた。
帝立学園には、いくつかの学科が存在していて、その中には、実務を貴ぶ科目も存在している。その学科は、帝立学園の中に実習用の町を作っている。ということをかいつまんで教えてくれた。
「そこでは、学生と、教師、あと、許可を受けた一般人がいるわ。原則としては、安全なところよ」
商業科並びに流通科、帝国内部で働くための内政科は、庶民の学生も多いため、実習の場をこの町の中に設けている。
逆に皇族貴族たちの多くは、帝王科、外交科や、軍事科に在籍していて、架空の国を用意し、そこに、学生軍を配備し、実際にそれを基本にした外交戦術を構築するなど本格的なものだ。
それを聞いて、デルタは、へぇッという言葉しか出てこなかった。学園と言っても、いろいろとあるのだなと言う言葉が、一番適切だった。だけど、ゼクスマキナはそう思っていなかったようだけど、その答えをデルタに教えることはなかった。
「原則として、3つ約束して、1つは、あなたは、学生じゃないから、ここに来るときは正当な理由が必要。何か欲しかったら、私に許可を取ること」
「はい」
「2つ目は、学生との接触は可能な限り避けて、あなたは、学生じゃないし、研究科によくないイメージを持っている人は意外と多いの
それに、派閥や国に取り込まれたら結構大変なことになる。」
「学生さんと仲良くなってはいけないのですか?」
デルタは意外そうに声を上げる。
「ええ、ここの学生、特に外交科、王政科は、全員が貴族や王族よ。王政科は軍事科も併設しているし、外交科は、軍事科のスカウトもしているの。言葉巧みに、軍事科に転学させられる学生は本当に多いの。」
「特にデルタちゃんは、世間知らずもいいとことなのだから、簡単に丸め込まれちゃうわ」
「・・・はい」
「そして、3つ目、朝の鐘とお昼の鐘と夕の鐘の回数に気を付けること。特に夕の鐘が4回鳴ったら、研究科行きの乗合馬車に飛び乗ること。できないときは、すぐに学園ギルドに飛び込んで、研究科のアリアの名前で保護を受けること」
「何でですか?」
上の2つは、きちんと理解できる。でも、3つ目の意味は何だろう。
「3回鐘が鳴ったら、怖い教師さんたちが、見回りに来るから、外を歩いちゃいけないの。学生の本分は学業だから、夜は、みんな家に帰りましょうということよ。4回目は、とっても怖い先生が出てくるから、とっても危険なの。だから、注意してねっていうこと」
「はい!」
「よろしい、デルタへアリアからの命令ね」
「商人科、学園ギルド入口、到着しました。」
そこまで話したところで、ちょうど目的の場所についたらしい、御者の声と、ベルの音が馬車の中に響く。デルタは、馬車が止まるのをワクワクしながら待っていた。
すごい人ごみ!馬車から降りたデルタは、思わず、めまいを覚えるようだった。今まで一人で生きてきて、視界に入る人数は最大でも3人だったデルタは、視界を埋め尽くすような人、人、人の群れに押されていた。
「さあ、行くわよ!!」
その声に、思わず、前を行く、アリアの手を離さないように握りしめ、何とかついていこうと心がけることにした。
アリアは、まず、アクセサリーの店に立ち寄り、デルタに似合うアクセサリーを選んであげた。次に、化粧品のお店で、基礎的な化粧品をデルタに買ってあげる。
「こ、こんな高いもの、いただけません」
とデルタが言うたびに、
「あら?お買い物に付き合ってくれたお礼よ。デルタが喜んでくれると、私がうれしいから」
とアリアに返されて、デルタは、ほとほと困り果ててしまった。その後も、服屋さんや靴屋さんをめぐっては、いろいろと買ってもらって、ただ、今のデルタはわがままを言っているというよりも、アリアとの距離感に困っている感じすらあった。
「ええ、あ、えと、私……こんな高いものを買ってもらうなんて……」
『すでに何度目だ?デルタ』
アリアは、荷物のほとんどを学生ギルドからの直送便にして、研究科のデルタの部屋に送っていた。ネックレス、ナチュラルメイク用の化粧品、ワンポイントの入ったデルタにぴったりのワンピース、普段使いできるでも、上質なパンプス。すべて、デルタが初めて手にするものだった。
家にいたら絶対に手にすることもないものを、サラッと買ってくれた。デルタは、アリアに、何といえばいいのかもわからないままだった。
「全く、デルタったら、かわいいわね。本当。もっと、我儘言ってもいいのよ。」
「ええと、ええ?ええ……」
デルタは、何と答えたらいいのか、返答に窮してしまう。むずむずと胸の奥に言葉が出てきているのに、なんて言ったらいいのかわからない。
そんな様子のデルタを、ほほえましく見ていたアリアは、いじわるそうに微笑むと、まだまだもじもじと何かを考えこんでいるデルタの手を握り、しゃがみ込んだ。視線が合う。
「そんな時は「アリアさん、ありがとうございます」でしょ。楽しんでくれた?」
デルタの戸惑いが、笑顔に変わる。
「ええと、あの、アリアさん、ありがとうございます。とっても楽しいです。」
まだ固いデルタの微笑みを見て、アリアは内心ほっと安どの声を上げたようだった。
『まったく、お前を安心させたいと思っているのが、十分にわかる』
「でも、本当にうれしいから、でも、……」
「よかったわ、デルタちゃんが喜んでくれて。さて、買い物ばかりで疲れたでしょ?少し休憩しましょう」
アリアが、学生ギルドの近くにあるカフェにデルタを案内する。カフェの店員さんと話をすると、デルタたちは。すぐに、特等席みたいなところに、案内された。
アリアは、コーヒー。デルタは、リンゴジュースを注文するとすぐにウェイターによってそれが、運ばれてきた。
「デルタちゃん、今日は、これ飲んで、おやつ買ったら、帰りましょう」
「はい。アリアさん」
デルタが、リンゴジュースに口をつけようとした時だった。
「ところで、デルタちゃん・・・さっき聞こえた、ゼクスマキナってなに?」




