実験棟の戦闘姫 5
「はい、着いたよ」
フィーリーに連れられて、デルタは、自分の部屋に戻ってきた。一通り自由に行き来できる場所を教えてもらって、少し時間がかかってしまった。決して、移動できる場所は広くないけど、それでも、自由に移動できる場所があるというのは、とてもうれしいことだった。
「あ、ありがとうございます」
「お礼はいいって。主任に言われたでしょう?部屋に新しい服が用意していあるって。先に入ってシャワーを浴びたら呼んでね。」
デルタは、その言葉に頷き、ドアを開ける。そこには、確かに朝までは存在していなかった白いワンピースと大きめの白い帽子が、壁のハンガーにかけられていた。
「こんな服を私のために?」
一瞬なんで実験体にここまでしてくれるのだろうと、疑問が浮かんだが、いつまでも待たせておくのもいけないと思って、デルタはシャワーを浴びることにした。
服を脱いでふと見ると、自分の接続部が、むき出しになっていた。
「ねえ、ゼクスマキナ、これって」
『訓練プログラムを起動時に誤作動を起こしたみたいだ。今日は、リアクターが露出し易いから、気を付けた方がいい』
「ええと、気を付けるって言っても、どうすればいいのかわからないけど。」
『今日は、感情の高ぶりに影響を受けやすくなってしまっているということだ。平静を保てればいいが、デルタは、なかなかそうはいかないだろう。
だから、気を付けろとしかアドバイスができない』
「う~ん、ゼクスマキナが、そう言うのなら気を付けるよ」
『まあ、今の我にはそれ以上のことは言えないからな』
「ふぅん、そうなんだ」
そう思いながら、体をごしごしと拭いていく。
『もうすこし、丁寧に拭くことを憶えろ。あと、そこに髪を乾かす機械があるだろう』
「え?ここ?」
デルタは、供えつけの四角い小さな筒を取り出した。
『上のボタンを押せ』
「うえ?ああ、ここか!」
ぶわっッという音を立てて、暖かい風が、その小さな吹き出し口から出てきた。慌てて、デルタは、その風を髪に当てる。
『近くで当てすぎると髪が痛むからな、ゆっくりでいい様子を見ながら、少しずつ、髪から離していけ』
「ありがとう、ゼクスマキナ。こんな感じでいいのかな?」
『うまいぞ。髪の質感……いい調子だ。』
デルタの動きを、ゼクスマキナは、確認しながら最適になるように、指示を飛ばした。
「すごく、指通しが……うん、」
『最初に言っただろう?』
「うん、でも、すごく勉強になったよ。ありがとう。ゼクスマキナ」
『さて、いつまでもシャワーを浴びていると、不審がられるからな。用意されている服にそでを通さないとな』
うんと、頷いて、乾いた体足と手を、飾りのほとんどない下着に通すと、そのまま、部屋に続くドアを開け放った。
さっきまで誰もいなかったはずの部屋には、先客がいた。それが、誰かわかると、デルタは、今までの行動を悔いたくなかった。そこには、アリアが、デルタがシャワーから上がってくるのを、今や遅しと待ち構えていた。
「あら、デルタ、遅かったわね。うん?ドライヤーも使いこなせたみたいで、よかったわ。じゃあ、着替えしましょうか?」
「ええと、」
「はい、じゃあ、着ていきましょうね」
デルタはあれよあれよという間に、アリアの手で、ワンピースに着替えさせられる。そのまま、ちょこんと、鏡台に座らさせられて、キシキシだったはずの髪に、何かを塗りこまれてセッティングされる。その動きは手早くて正確で、その時間はあっという間に終わってしまった。
「はい、どうでしょう?」
どうでしょうかと言われて、デルタは、姿見の前で戸惑っていた、白いワンピースと白い帽子。すこし、ぶかぶかに感じるのは、少しやせ気味だったからだろうか。
『ほう、似合っているな』
そうなんだと、デルタは納得した。「え、ゼクス=マキナは、これが似合っているとかわかるの?」
『われがわかるのは、外見のみだ、それは、おそらく、お前くらいの年齢の平均値で作られたものだろう』
『それから、不審者の洗い出しは得意だが、おしゃれというものについては、われの知の外だ』
「そうなんだ、ゼクス=マキナでもわからないことあるんだ」
『調整はしてあるが、あくまで、われは、世界の構成にいる側だからな、人の感情については、疎いのだ』
それを聞いて、デルタは、驚いた。
「これだけ反応してるのに、感情に疎い?」
『そうだ、反応はできるが、感情にこたえてやることはできない』
口の中で、そっと話した言葉は、部屋には届いていないようだった。デルタは、アリアの方を向くと、さっきまでの、いくつかの化粧品を分類わけしていた。ふと目が合う。
「あら?どうしたのデルタ」
「いえ、何でもないです」
お互いに笑いあう。アリアの笑みは、優しくて、つい、デルタも笑みをこぼしてしまう。
「さっきの化粧品は、こっちの箱に入れておいたわ。使い方も書いてあるから、今後外出する場合は、使ってね。あと、不足したらフィーリーでも、バンジーにでも言ってもらえればいいわ。すぐに買い足すから」
うんと、デルタが頷くと、それじゃあと、アリアがデルタの手を取った。
「おなかすいたでしょう?食堂に案内するわ。行っておくけど、今日は奢り。明日も明後日も、あなたがいる限りは私のおごりよ。」
「はい、実験体として、拝命します」
「返事がなっていないわ。」
「ええと、」
「ごちそうになります。でしょう。さあ、行きましょう。私もおなかペコペコなの」
研究棟の食堂は、人影はまばらだった。不安に思い、アリアさんに聞くと、研究棟は、不規則な生活になることが多く、そのために食事もばらけることがあるらしい。
現にライトさんも、フィーリーさんやバンジーさんは、これから2時間後に食事をとるのだと教えてくれた。
ABCのランチがあって、そのどれもが見たこともないものだった。デルタは、Aの大倭のお米の上に、野菜と卵を似たものを掛けた(いうところによると、ドンものというらしい)を選んで、アリアは、Cのステーキランチを頼んだ。
「食べる前に、汚さないようにしないとね」
アリアはそう言うと、デルタに紙エプロンを付けてあげた。薄いながらも、汚れを弾いてくれると聞いて、デルタは、驚いた表情を浮かべた。
「これ、すごいですね。これも、研究棟のものですか?」
「ううん、先端技術は、主に、魔属領と大倭からもたらされているわ。これは、大倭のものよ」
『大倭?聞いたことのない地名だな』
「楽しみです」
きっとアリアには、料理が楽しみですと聞こえたかもしれないけど、ゼクスマキナには、聞いたこともない場所のことが聞けて楽しみですと答えたつもりだった。
初日だったからか、食事中の会話は、どちらかと言えば、質問のようだった。
「デルタの、お父さんや、お母さんについては?」
「わかりません、気が着いたら、孤児院にいて、フォルフォード家に引き取られました」
「なにか、自出がわかるものはない?」
「ないです。」
「そうなの、つらいこと聞いたわね。ふふ、これで、聞くことはおしまい。さあ、これ食べたら、外に行きましょう」
アリアは、淡々と質問をして、ただ、それ以上デルタのことを聞くことはしなかった。デルタは、小さなカップケーキまでアリアにごちそうになり、食堂を後にした。




