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06.ショックなんて受けてませんよ。

「……」

「……」

「……みゅっ?」


 ランさんが王子を呼びに行って恐らく二分と立たない内に駆けつけてきた王子。

 ベッドから降りようと不自然な体勢で止まった俺と、部屋に駆け込んできた姿のまま静止した王子。無言で見つめ合う俺と王子。……え、なんか動いちゃいけない空気感なんですけどどうしたら良いの?

 とりあえず、俺の肩の上で一跳ねするドラゴン(仮)にはこの空気が読めていないようでとても羨ましい。俺も獣になりたい。


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「みゅー?」


 目を逸らしたら負けな気がして動くに動けないんだが、いまの俺の体勢ってすごく間抜けなんじゃないだろうか。というか、俺……なんで王子にガン見されてんの?

 そんでもって、なんで息切らす程急いで駆けつけたんですか王子。

 嫌な予感ビンビンなんですけど、気のせいだよね?ねっ?


「あらあら、お二人ともそんなに見つめ合ってどうしたんです?」


 俺たちの間に走る謎の緊張感をぶった切ってくれたのは先ほどのメイドさんことランさんだった。王子の後に続いて部屋に入ってきた彼女は不思議そうに首を傾げている。かわいい。

 思わず俺がランさんに見惚れていると必然的に視界に入ってくる王子がぴくっと反応して、俺とランさんに交互に視線を移動させていた。

 その表情がどことなく不愉快そうに見えて疑問を覚える。とりあえず、何かを告げなければと俺が口を開くより早くに王子がランさんに向かって言葉を放った。


「……いますぐ、着替えてきて。ランバルト」


 …………ぅん?あれ?妙な呼称が聞こえた。

 王子……いま、ランさんに向かって言ったよね?聞き間違いかな。うん。


「あら、わたしはいつもこの格好ですけれど何か問題が?」

「とにかく!いますぐ!その恰好やめて!!」

「まあ、何ですかいきなり。よく似合ってるって評判なんですよ?殿下も褒めて下さったじゃないですか」

「良いから!はやく着替えてきてよ、ランバルト!!」


 あれ、いや……ランバルトって男の名前…いや…いや、こんな美少女が男なわけ…。


「メイドはお気に召しませんでした?それならドレスでも着た方が良かったんです?」

「……っ、だ、だから!女の子の格好じゃなくてちゃんと男の服を着てきて!!」

「そんなにいきなり言われましても」


 男の服……ちゃんと……した……。ち、ちがうよ、ほら、ランさんに男装させるのが王子の趣味なのかもしれないじゃないか。落ち着け、俺。


「着替えないなら外に行っててよ!」

「あらあら、わたしは殿下の従者としてお側を離れるわけにはいかないのですけれど」

「だったら着替えてくれば良いだろ!」

「まあ……今日の殿下はわがままですねぇ」


 うん……王族の従者って基本同性……いや、待て王子が実は女の子だという可能性も残されて――――るわけねーよ!


「と、とにかく!ランバルトは出てってよ!!」

「あらあら……」


 ぐいぐいとランさんを部屋の外へと押しやる王子。そんな王子の姿を見て特に困った様子も見せず何やら楽しげに含み笑いを漏らすランさん。

 俺は……ら、ランバルトなんて呼ばないんだからねっ!こんなかわいい子が男だなんて認めたくない。男に見惚れたなんて認めたくない!ランさんがランバルトなんてごつい名前なわけない。彼女は花の名前が似合う美少女だしっ!

 いやいやでも待て、考えろ俺。ここは逆に真実を受け入れて状況を振り返ってみよう。

 いまの状況は嫉妬した王子がかわいいランさん(男)の姿を俺に見せたくなくて必死こいて俺の視線から隠そうとしているんだと考えたら、イコールで俺の(ケツ)の安全は確保されるんじゃないか?

 確か……同性同士の恋愛に寛大なこの世界でも略奪愛やら二股やら不倫やらその辺りには結構シビアだったはずだ。主従でくっついててくれればエリーには悪いけど、俺的には全然悪くない状況だろう。寧ろドンと来い的な状況だ。

 それにかわいいなーとは思ったけどランさんに惚れたわけではない俺が受けたダメージも今なら浅いし。自分の見る目のなさにがっかりだよ!って状況なだけであって……素直に、教えてくれて王子ありがとうって言えるしっ。


「……あのっ」


 少しばかりの現実逃避をしていた俺に、いつの間にかランさんを部屋から追い出した王子が俺に声をかけてきた。緊張しているのかそわそわと落ち着きがない。


「みゅう?」

「……」


 おい、何でおまえが返事してんの。いや、まあ、なんて返事するべきか悩んでたから別に構わないけど。

 ドラゴン(仮)から視線を外して王子を見る。ほんのりと目元が赤いのは緊張のせいに違いない。その原因が他の理由などとは俺は断じて認めない。


「えっと……その、身体は大丈夫ですか?」

「……ぇ、あー……うん、助けに入ったつもりがなんか迷惑かけちゃったみたいで悪いな」


 敬語にすべきか悩んだけど、まだ学校にも通ってない孤児院育ちの子供が礼儀作法とかに精通してたらおかしいかなと思って敢えてタメ口で返答する。直接王子だとか名乗られたわけでもないしな。


「……っ!迷惑だなんてそんなことは……!」

「あー……気ィ遣ってくれなくて良いって。なんか、結局なにもできなかったしダサいよな」

「みゅーっ!みゅっ!」


 俺を慰めるかのように頬に擦りついてくるドラゴン(仮)。全体的にもふもふしているせいか肌触りが良くてめちゃくちゃ気持ち良い。癒される。


「そういえば、こいつ。俺が召喚したとか聞いたんだけど……」


 ちょいちょいと指でドラゴン(仮)の顎の下あたりを擽ってやる。

 気持ち良いのか「みゅふみゅふ」と妙な鳴き声を発している。


「覚えてないんですか?」


 俺の問いにきょとんと目を丸くする王子。俺がこくりと頷けば王子は口元に指を当てて困惑した表情を作る。


「俺はよく覚えてないんだけど……っていうか、召喚とかそういうのもよくわからないし何かの間違いなんじゃないかって思うんだけど」

「……みゅー…ふっ、みゅっ」


 俺の言葉に不満を露わにするドラゴン(仮)だが、再度擽ってやればあっさりと機嫌を直したようだった。流石獣。


「いえ、それはないと思います。召喚されたその子は真っ先にあなたを守ろうとしていましたし……それに……」

「――――ッ!?」


 前触れもなく俺の鎖骨の辺りに指を這わせる王子。心構えも何もない俺は大袈裟なほどにびくんっと身体を跳ねさせた。


「ここに、契約印が刻まれてますから」


 びびびびびっくりした!びっくりした!えええええ、なにすんのこの子。

 自分では見えない位置にあるらしい契約印を指でなぞって教えてくれるのは構わない。しかし、一声かけてからにしろと全力で物申したい。俺の望まぬ展開になるのかとびっくりしたけど、よくよく考えると俺も王子もまだ子供なのでそれはないだろうと意識の外へと追い出す。


「……契約印って?」


 内心の動揺を押し隠して王子に尋ねる。


「召喚とは魔術師などが自身の魔力を糧に護衛獣を呼び出すものなんです。護衛獣を呼び出すことが出来るのは生涯において一度のみと決まっています。だから、召喚が成功した時点で互いに合意したということで契約が結ばれたことになるので召喚主の身体には契約印が自動的に刻まれる仕組みになっているんです」

「みゅっみゅっ」

「まあ、正規の手順を踏んだとしても、普通は……召喚が成功すること自体稀らしいんですけど……」

「………………」


 え。なんかめちゃくちゃすごいことみたいに言ってるけど、俺本気で覚えてないよ?


「えー……それって、なんかデメリットとかあったりするの?」

「いえ、特には。ただし、互いの合意の上に契約が成されたとしても護衛獣の意思を無視してその力の行使を試みる場合は相応の魔力を消費することになります。消費する魔力は護衛獣によって異なるので契約主の魔力で補いきれない場合もあります」

「……ふぅん」


 つまり契約したからってぞんざいな扱いをしてるといざ守って貰おうとした時に痛い目みるぞってことか。


「みゅっ」


 ちらっと俺の護衛獣となったらしいドラゴン(仮)に目を向けるが、全く強そうに見えない。愛玩動物にしか見えない。


「おまえ、本当に俺が召喚したの?」

「みゅみゅっ!」


 俺が問いかけると全身を使って力強く肯定してくるドラゴン(仮)。


「……まあ、考えてもわかんないことは良いか。それよりさ、こいつ何食べるか知ってる?俺んちあんまりお金ないんだけど」


 何たって孤児院ですから。経営難で満足な食事を取れない時も偶にあったりする。

 そんな時は神父様やママ先生含むシスターたちが自分の分を我慢して子供たちに食べさせたりしてくれるんだけど……俺よりも幼い子供を優先させてやりたいし、俺の食事の大半は食いしん坊エリーの腹の中に消えることが多い。唯一血が繋がっている家族ということで、ついつい甘やかしてしまうのだ。女の子だし、栄養不足って良くないだろうし。

 お蔭で俺は雑草の味も知っている。もちろん、くそ不味い。


「え……えっと、ウェイクドラゴンは草食だし護衛獣は契約主の魔力を糧にすることもできるから」

「つまり、庭の雑草とかも餌になるってことか」

「みゅ!?」


 ぽつりと俺が呟くとその内容にショックを受けたのかドラゴン(仮)がぷるぷると震えている。大丈夫、雑草は最終手段だから。その時は俺も一緒に食べるよ。

 それよりも、俺が貧乏だといった際の王子の動揺具合が心に痛い。ボンボン代表だから貧乏と縁がないんだろうけど、そんなに動揺しなくても。別にたかったりしないよ。


「そうだ。俺、ママ先生が心配しているかもしれないからそろそろ帰らなきゃ……」


 ある程度知りたい情報は聞き出したし、そろそろ帰って良いよね?俺が行方不明とかたぶんエリーがぎゃん泣きすると思うし。餌付けの効果でそれくらいには好かれてるはずだ。

 あれからどれくらいの時間が経ったかわからないが、いつも以上におつかいに時間がかかっている俺をママ先生が心配しているのは間違いない。それに、いつまでも王子の世話になるわけにもいかないだろうし――――と思っていたんだけど。


「だ、だめです!」

「え?」


 なんだかわからないけど、王子にだめって言われました。

 いや、何がだめなんだよ……。だめって言われても、俺は帰るよ?


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