表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

03.出会いイベント

 偶然か必然か、どちらであったのかはわからない。

 俺がママ先生におつかいを頼まれるのは珍しいことではない。九歳になった俺は精神年齢的なものか筋トレのお陰かは不明だが、他の子供達よりもしっかりしていて頼りがいがあるように見えるらしい。

 俺よりも年上の子も居るには居るが、学校に通っていたりまだまだやんちゃ盛りということでママ先生の目の届くところでじっとしているなんて芸当は無理らしい。そのせいか孤児院で甲斐甲斐しくチビ共の面倒を見る俺はちょっとしたおつかいを頼むにはうってつけの人間なのだとか。

 まあ、他にやることもないので全然構わないし、エリーが面倒をかけている分俺がしっかりしなければ的な兄としての矜持もある。


「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。おまえのことだから大丈夫だとは思うけど、絶対に裏道は通るんじゃないよ。何かあったらすぐに帰ってきなさい」


 俺がおつかいに行くのは初めてではない。何時もなら笑顔でいってらっしゃいと言って俺を送り出してくれる。

 けれど、何故かこの日だけはママ先生は酷く心配そうにしていた。いま思えば、ママ先生のこの言葉がフラグだったんじゃないかと思う。

 聞くところによると近頃女子供の失踪事件が多発しているのだとか。たぶん人身販売組織とかが活動しているんだろう。

 俺は大丈夫なんてフラグ立つようなことは思っていないが、何時もと違う展開に嫌な予感がしたのは事実だ。記憶の片隅に何かが引っ掛かっていたというのもある。

 しかし、それが何なのか思い出すことは出来なかった。

 その結果が、いまのこの状況を作っている。


 おつかいを終えて後は孤児院に帰るだけだと帰路に着いた俺は、表通りに面する細道でチンピラに絡まれている子供を発見した。

 直ぐに大人を呼べば良いと思うかもしれないが、警備兵でもない限り助けてくれるなんて稀だ。巻き込まれないようにと見ない振りをするのが、この世界では普通の反応だ。

 冷たいと思うかもしれないがこの世界で生きていくにはそういう残酷さも必要なのだ。

 郷に入れば郷に従えという言葉もある通り、それが正しい選択なのだろう。

 でも、前世での倫理観を持っている俺はその教えに素直に従う気にはなれない。

 第一ここに居るのが孤児院の人間なら、ママ先生なら、きっと子供を見捨てたりはしないんじゃないかと思うのだ。

 実際のところはどうかわからないが、少なくとも俺はそう思える環境で育てられてきた。だから、見捨てるなんて選択肢はなしだ。第一精神年齢成人済みの俺が、子供を見捨てるなんて寝覚めが悪すぎる。

 だが、大人三人に囲まれた子供をどうやって助ければ良いのか。

 とりあえず、隙を作って逃げるのがベストだろうがどうやって隙を作るのかが問題だ。

 まあ、あれだな、成功率が高いのは目つぶしとかだろう。

 この辺りの土は湿っていて投げつけるには不向きだが、生憎俺はおつかい帰りだ。

 しかも、おつかいの品の中に塩がある。

 上手いこと目に当てることが出来れば逃げる隙くらいは作れるはずだ。

 失敗すれば大変なことになるが、その時はその時だ。

 要は失敗しないようにタイミングを見計らえば良いだけだ。

 そのために俺が取る最善の行動は、お互いの間合いを詰めることだろう。

 頬を叩いて呼吸を整えてから、ポケットに塩を詰めた状態で俺は細道に足を向けた。



「あー!!ミケ!こんなところにいたのかっ。勝手に離れるなって言っただろう!」

「「「!!!」」」


 とても親しいかのように子供――少年に向かって声を掛ける。

 周りに居る大人は見えていないかのように振舞うのがポイントだ。

 俺の大声に何事かと少年含めて全員がこちらを向く。俺はというと、彼らが呆気に取られている隙に少年近づいた。

 因みにミケというのは適当だ。ポチじゃないだけマシだと思って頂きたい。


「母さんが心配するから早く帰らなきゃ!」

「……え…、ぁ…」


 近付いてわかったことだが、幸い俺の方が少しばかり身長が高いのでここぞとばかりに兄貴面してみる。髪の色が黒と金髪で全く血縁関係が感じられないがノリで押し通す。

 戸惑う少年には何も言うなと目だけで伝える。

 初対面でアイコンタクトなんて難易度が高いだろうが、伝わらなくてもたぶん混乱してるから何も言えないだろうと思う。

 因みにアイコンタクトするということは即ち、相手の顔を見るという行為だ。

 少年は毛先に向かうにつれて緩くカーブする柔らかい金の髪に、透き通るような青い瞳を持ち、人形のように愛らしく頬は子供らしく紅が差している。文句のつけようのない美少年だった。

 少年の顔を認識した俺は人生の選択肢を誤ったことに気付いた。


 ――あ、これ、王子だ。


 そうだ、これ俺と王子との出会いイベントじゃん何やってんの俺。

 知識のない俺でもこれくらいは知ってるっつーの、でもお願いだから判りやすいようにちゃんと選択肢表示してくれませんか。

 つか、こんな王子との出会いイベントとか望んでねーから!おまえ、エリーともう出会っただろうが!ハーレムでも目指してんの!?俺が攻略されちゃうの!?とか内心で突っ込みを入れるが、ここまで来てやっぱり助けるの止めますなんて言えるわけもなく…焦りを表情には出さず、そのまま王子の手を取り何事もなかったのかのようにその場を立ち去る――ことは当然ながら出来なかった。

 我に返った大人が表通りへと続く道を身体で塞いでくる。


「ちょっと待ちな。そこの金髪の坊やはね、いまおじさんたちとお話ししてるんだよ」

「そうそう、大事なお話の最中なんだよ」


 ねーよ、大人三人と子供でどんな話するんだよ。

 予想はしていたが大人たちは近くで見ると益々悪人面だった。

 何か、チンピラというか…どちらかというと山賊っぽい感じ。


「お話しってなに?すぐ終わるの?俺たち、直ぐに帰らなきゃいけないんだけど」


 そうなの?邪魔してごめんね、と言った感じに純朴な少年を演じて申し訳なさそうに言ってみる。

 なけなしの良心が咎めてこれで解放してくれないかなーとか思ったりもするが、恐らく無理な話だろう。たぶん、良心とかこいつら持ってないと思う。そんな顔してる。


「…おい、こっちのガキもなかなか整った顔してんじゃねーか」

「ああ、なかなか良い値で売れそうだな」

「アニキ、どうするんです?」

「どうって、こうなりゃ二人とも連れてくしかねーだろ」


 大人たちの言葉に王子がピクリと反応する。

 チラッと横目で確認してみれば、その顔は青ざめていた。人生二回目の俺でもなかなかクるものがあるのだから、人生一回目の王子にしたら当然の反応だろう。

 状況は予想通りで芳しくはないが、幸い俺の登場のせいで大人達は全員表通りに面する通りだけを塞いで裏通りに通じる道を塞いでいない。

 表通り逃げるのがベストだろうが、この際贅沢は言えない。

 それに、この状態なら塩を使う必要もなさそうだ。奥の手にとっておこう。

 俺たちを捕まえるべく男たちが動き出そうとした瞬間を見計らい、大声を上げる。


「あ!母さん!!迎えに来てくれたの?」

「「「…なっ!?」」」


 喜色を浮かべてそう言えば、男たちは慌てて表通りに顔を向ける。

 その瞬間を見計らい、走れと告げ王子の手を強く引いて裏通りに向けて走り出す。

 正直裏通りの道なんて知らないので、後は運任せだ。

 俺はともかく、王子はあんまり体力なさそうだから逃げ切れるか不安だが、これが出会いイベントなのだとしたら上手いこと逃げ切れるはずなのでそこだけはゲーム通りになるように期待しようと思う。

 うん、でも俺の記憶が確かなら――俺と王子の立ち位置逆だったわとかそういうことには全力で目を瞑る。

 ……フラグ、ちょっとだけ立っても良いから逃げ切れますようにとか、そんなことは全然思ってない。うん、思ってないよ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ